注目が高まる、国産&和精油の魅力とは?
Beauty 2025.06.19
日本の環境、生活習慣や精神性になじむ香りは、他国とは異なる独特なもの。控えめだけれど確かな意思と余韻が残る、繊細で複雑な香りに惹かれるその訳は?
国産&和精油の魅力とは?
古代エジプトの香油から始まり、フランス発祥のアロマセラピーで使われる植物精油。その精油を国内で自給自足しようという動きが進んでいる。国産精油を日本最大規模で展開し、化粧品に活用するスリーの佐井賢太郎が解説する。
「日本でアロマセラピーブームが起きたのが約30年前。それまで廃棄していたヒバ、ヒノキ、スギなどの樹木の辺材から精油を抽出する業者が増えました」
ブームが過ぎても美容やライフスタイルへの応用が定着した。
「海外産の精油は仲介業者が入るために生産者の顔が見えず、品質管理が難しい。国内なら、農家はもちろんサプライチェーンまで把握でき、信頼や安心感に繋がります。水や土、天候気候が香りに反映されるので、生産者とのコミュニケーションが重要なんです。今後、国産精油の比率が高まり、副産物である芳香蒸留水の活用も広まっていくでしょう」
日本固有の植物による和精油だけでなく、日本で育つ植物の精油は私たちと親和性が高く心地よさを感じやすい。さらに品質の違いも明らかに。
「熊本の自社農園で育てたゼラニウムは、海外産に比べてリナロール含有量が約2倍。成分比率が変われば心身への作用も変わります」
香りそのものも海外産に比べ爽やかさが際立つ。スリーでは、そのゼラニウムの精油をスキンケアやヘアケアに配合。自社農園の国産精油は20種類以上揃え、その他含む国産精油だけで香水を作れるまでになった。
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産地に足を運び抽出や蒸留に立ち合う調香師、沙里も国産精油を巧みに使う。
「2011年に伊勢神宮の式年遷宮で出合ったヒノキの香りに感動したのがきっかけ。四季や風土の影響もあり、日本の精油には侘び寂び的な静けさや余白を感じます。主張しすぎず呼吸がしやすい。調香的な視点でいうと昆布出汁のような深みと奥行きを与え、日本人の精神性や身の回りのものとしっくりなじみます」
代表的な和精油には月桃やヨモギ、シソもあり、ベルガモットも増えている。
「ブレンドされたものは持続性が高いですが、1種でも奥行きがあります。お風呂やクローゼットに入れたり、お茶の出涸らし、枝、石に垂らしたりと、気軽に日常に取り入れて」
国産原料の開発や精油の研究を行い、スリーの化粧品に展開。熊本、佐賀の自社農園のほか、国内の畑を訪ね歩く。
日本各地の植物や鉱物の香り抽出に取り組む。2023年に長野にアトリエを構え、天然香料で空間や化粧品の調香も。
代表的な和精油
ユズ Yuzu
[主な産地]高知県、大阪府、徳島県
[香りの特徴]爽やかさとほのかな苦味の中に、ほっとするような温かみを感じる香り。
[効能]不安や緊張をほぐすリラックス作用、鎮痛作用、抗炎症作用
ヒノキ Hinoki
[主な産地]新潟県、京都府、奈良県、鳥取県、福岡県、熊本県、大分県
[香りの特徴]爽快感のあるウッディと重厚感のあるグリーンを感じる香り。
[効能]不安や緊張をほぐすリラックス作用、防虫作用、ダニ忌避作用、抗炎症作用、抗菌作用
ヒバ Hiba
[主な産地]青森県
[香りの特徴]ドライな爽快感にほのかな深みのある甘さを含む香り。
[効能]抗うつ作用、抗不安作用、抗カビ作用、殺シロアリ作用、殺ダニ作用
クロモジ Kuromoji
[主な産地]富山県、山形県、青森県、福島県、埼玉県、新潟県、石川県、京都府、兵庫県、鳥取県、岡山県
[香りの特徴]優しい柔らかさの印象と穏やかな甘さを持ったウッディな香り。
[効能]不安や緊張をほぐすリラックス作用、抗菌作用、抗炎症作用
ハッカ Japanese Mint
[主な産地]北海道
[香りの特徴]透明感のあるスッとした強い清涼感とほのかな甘さを持つ香り。
[効能]防虫作用、抗菌作用、鎮痛作用
水蒸気蒸留と香りを体験するなら......
フレグランスロビー
日本橋兜町の日証館にオープンした、調香師・山内みよによる天然香料の実験的香り空間。蒸留器が据えられ、日本各地の植物が蒸留される様子が見られることも。また、国産精油を含む天然香料によるオリジナルミスト(写真左)のパーソナルブレンディングのサービス(¥6,050)もある。@fragrance_lobby
国産精油を使った9つのアイテム。
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography: Shinsuke Sato text: Eri Kataoka