終活、どう考える? 話題のドラマ「ひとりでしにたい」脚本家・大森美香の場合。
Culture 2025.06.26
誰にでも訪れる自分の死、そして家族の死。これらに関して生前から準備する"終活"をテーマにしたドラマ「ひとりでしにたい」(NHK総合)が放送中だ。主人公の40代を間近に控えた山口鳴海(綾瀬はるか)が、独身の叔母の死をきっかけに自身の終活を考える物語。この脚本を手がけたのは、数々のヒット作を世に送り出している大森美香。インタビューの後編となる今回は、大森自身の終活と作品について話を聞いた。
お気楽アラフォーだった、山口鳴海(綾瀬はるか)の終活はいかに? ©NHK
─ 今回は綾瀬はるかさんをはじめ豪華なキャスティング。それを知ってどんな印象でしたか?
綾瀬さんが主役と聞いて、筆は進みましたね。原作を読んだ時に私は主人公に対して「応援したくなる女性だ」と思ったんですけど、プロデューサーさんに聞くと、男性の中にはそうも思わない人もいるようだ、と......これはリアルな意見だと感じました。ドラマにしたらもっと男性側意見の視聴者が増えるかもしれないと危惧があったので、主役は明るさとタフさをずっと保っていてくれる人がいいなあと思っていたら、綾瀬さんに決まって本当にうれしかったです。
─ 同僚の那須田優弥役、佐野勇斗さんはいかがですか?
佐野さんは私、優しい男性のイメージがあったんですけど、それが覆りました。那須田さんの役はすごく難しい役ですが、演じていただいたら佐野さんがぴったりとハマっていて驚きました。
─ 鳴海の母親役に松坂慶子さんとは、意外でした。ラップで踊るシーンもありますよね。
松坂さんと聞いて(キャスティングが)豪華すぎると思いました。ラップも撮影の2カ月前から練習していたと伺い、やっぱりバイタリティーがすごいなあと。大人になってから踊る、しかもラップなんて結構な戦いをしてくださったんだと。さらに原作では離婚を考えたりしていて、ドラマに出てくる"普通のお母さん"キャラクター像とは全く違う難しさがあるのに、しっかり演じてくださった。
エリート公務員の那須田優弥(佐野勇斗)は鳴海に興味を持ち始める。©NHK
─ 退職をして自宅にいる、昭和頭の鳴海の父親は國村隼さんが演じました。
國村さん、とてもうれしかったです。今回の原作は古い価値観に振り回されてきた女性たちが、ちょっとだけ立ち上がる印象ですよ。そんな中、那須田さん以外の男性陣はちょっと損な役回りにも見える。お父さんは頑固で融通が利かなくて、けど、鳴海さんや那須田さんに影響されてちょっとだけ変わっていく。それを國村さんが演じてくださるのは、ありがたいなと感じました。
─ 今回はドラマで山口家という4人家族が舞台になります。大森さんご自身やご家族はどんなふうに終活を考えていらっしゃいますか?
私、恥ずかしいんですけど、いい年齢なのに終活のことを考えていなかったんです。むしろ、今回「ひとりでしにたい」の脚本のお仕事がきっかけになりました。私の実家は九州なんですけど、父親はもう亡くなって、妹も私も神奈川に住んでいるので、母は一人暮らしです。つい最近、母が東京へ来て、お墓のこと、財産のことや母の意思を確認しました。父が亡くなった時に、全く準備がなかったので年金や携帯電話の解約とか手続きが大変だったんですよ。そのことを教訓にして、母や妹と明るく話しています。本当は一緒に住めたらいいなあと思っているんですけど、母は「迷惑をかけたくない」と。娘の私は「迷惑をかけてくれよ」と思うんですが。
鳴海の母親・雅子(松坂慶子)は突如、ラップを習い始める。上達は早い。©NHK
─ 大森さんはお子さんに面倒を見てほしいと思いますか?
自分が親の立場になると迷惑をかけたくないですし、面倒を見てほしいと思いません。子どもが生きる時代は戦争や温暖化や、問題がありすぎてどうなっているのか分かりませんしね。でもね、子どもがいるからこそ、なるべく生きて、成長を見守っていたいという気持ちもあります。小学生の娘が「私は300歳まで生きる」なんて言っていますから(笑)、それよりももうちょっと短く生きられたらと思うんですけど。
─ ご主人ともお話していますか?
これが鳴海さんのお父さんお母さん同様に、やっぱりちょっと面倒なんですよねえ(笑)。最近、自分たちの老後のために予め施設を作ったらいいのではないかなんて急に言い出して......無理だとは思いますが(笑)。でも皆が皆、ピンピンコロリンでは死ねないので助け合ってやっていければいいですね。
頑固親父の典型である鳴海の父親・和夫(國村隼)は意外にも那須田と話が合う。©NHK
─ 鳴海のような終活も続きますが、大森さんの脚本執筆も続きます。これから書いてみたいテーマがあれば教えてください。
書きたいテーマがたくさんある中のひとつになりますが、視聴者の幸福度が上がるようなドラマを書いてみたいです。子どもも含めて、日本人全体の幸福度が下がっていると聞きました。そこにはジェンダー論といった人権問題も関わってきますが、もう少し自己肯定感が上がってほしい。
最近の子どもってとてもおとなしくて、いい子が多いなという印象を受けます。目の前の材料でなんとか楽しもうと努力していて、はみ出すことが少ない。でもはみ出したらおもしろいこともあるかもしれない。いろんな人たちに笑ってもらえる脚本を書いていきたいと思います。
脚本家。テレビ局勤務、ドラマADなどを経て深夜ドラマ「美少女H」(フジテレビ・1998年)脚本家・演出家デビュー。月9「不機嫌なジーン」(フジテレビ・2005年)では向田邦子賞を史上最年少で受賞。朝ドラ「あさが来た」(2015年)、大河ドラマ「青天を衝け」(ともにNHK総合・2021年)など代表作多数。
「ひとりでしにたい」
2025年6月21日(土)スタート
NHK総合 毎週土曜22時 <全6回放送>
<出演>
綾瀬はるか、佐野勇斗、山口紗弥加、小関裕太、恒松祐里、満島真之介、國村隼、松坂慶子
<第2話あらすじ>
"終活"について考え始めた鳴海(綾瀬はるか)は、「自分より親の老後が先にやってくる」ことに気付く。もし親に介護が必要になったら自分が世話を? 仕事をしながら介護できるのか? 亡くなった場合の葬儀代は? それら 全てを自分が背負わなければならなくなったとしたら......自分の終活どころではない! そこで鳴海はまず父・和夫(國村隼)と母・雅子(松坂慶子)に"終活"を始めてもらおうと、ある作戦を思いつく。そのために同僚・那須田(佐野勇斗)を連れて実家を訪れるが......。
interview & text: Hisano Kobayashi