女性脚本家がドラマで描いてきた、時代時代の恋。 あのドラマの裏話も! 4人の名脚本家にインタビュー。 Vol.2大森美香

Culture 2023.12.28

私たちの心をときめかせ、時に社会現象まで巻き起こしてきた日本の恋愛ドラマ。恋の物語はいかにして生まれ、どう変化したのか、第一線で活躍する女性脚本家4人に聞いた。

大森美香|恋愛は謎の活力を与える魔物。ドラマだからこそ感じられる擬似体験を楽しんでほしい。

231025-drama-koi-02.jpg

Mika Omori/テレビ局勤務、ドラマADを経て深夜ドラマ「美少女H」で脚本家・演出家デビュー。唯一、主人公が自分に近いと話す月9「不機嫌なジーン」では向田邦子賞を史上最年少で受賞。NHK連続テレビ小説「あさが来た」など代表作多数。

「私にとって恋愛ドラマの脚本は、感情を揺さぶらないと書けないものです。人間は生活していくうえで、ある程度の社会的ルールや情緒を守りますよね。でも恋愛についてはまるでそれがない。大きな声で、好きな相手の名前を叫んでも、愛の告白をしても構わない。他ジャンルと比べると、自由なのです」

その佇まいから穏やかさ、生真面目さがうかがえる大森美香。私たちの記憶が蘇る数々の名作ドラマを生み出している。たとえば「ランチの女王」。食事を通して見える愛や喜びを、大森は軽やかに映し出した。進まない恋愛関係に歯痒さを感じさせた「ブザー・ビート」など、彼女の作品はいつも視聴者を共鳴の渦に巻き込むリアリティが特徴だ。ありとあらゆる設定を求められる恋愛ドラマ、この物語の材料になるものは、ひょっとして大森の実体験によるものだろうか?

「個人の見解としては......人生を乱されてしまうので、恋愛がそんなに好きではありません。もっと言えば、恋愛なんてろくでもないものですよ。恋愛さえなかったら、人生はもっとうまくいくものだと思っていますから(笑)。ですから私が書く恋愛ドラマの着想は、ほとんど妄想の世界です」と、当人は苦手だと自称しながらも、友人の恋愛話には目がないという一面も。

「友人としては自分の恋愛話をドラマの参考になんかされたら、たまったもんじゃないですよね(笑)。でも小説や漫画よりも、やっぱりリアルな話のほうが好き。不倫をする人は何度でもするし、ダメ男とわかっていてもヨリを戻す。周囲がどんなに引き留めても、恋愛をやめない。そんな危うい恋愛をすることによって生まれた隙が、物語に大きな影響を及ぼすんです」

ドラマ好きが高じて、テレビ局でADとして働いたこともある大森。大河ドラマ「青天を衝け」も担当した現在の立ち位置の道筋は、順風満帆だったとはとても言えないそう。そんな経験も経て、自身が書く脚本に出演する俳優陣には格別な思いを寄せる。

「松本潤さんとは『きみはペット』をきっかけに2005年にお会いして、嵐のライブにも行きました。それから10年に『夏の恋は虹色に輝く』でご一緒した時には、すでにトップアイドルに。山下智久さんも20年以上のご縁になります。ふたりとも私とは年齢も全然違いますけど、同時期に育ってきた感覚があります。逆に織田裕二さんみたいなキャリアのある俳優の方に演じてもらう時は、また気持ちが別モノですね。学生時代、月9で『東京ラブストーリー』も見ていましたから感慨深いです」

小学生の娘の子育てをしながら、書ける時間が限られる日々。それでも大森の脚本作りに込める並々ならぬ熱量が、発言の随所から伝わってくる。そんな大森には、これから書いてみたい恋愛ドラマがあるそうだ。

「子どもと一緒に見るのが恥ずかしかったので、恋愛ドラマを書くことを控えていたんですけど......最近になって、書いてみたいと思う内容が浮かんできたんです。まだ私だけの中にある妄想段階ですよ? いまの若者の恋愛を取材して、書いてみたいんです。マッチングアプリしかり、昔とは恋愛のコミュニケーションがまったく変わってきています。その部分を深く掘り下げて、形にできたらと思います」

原作漫画のある脚本を書く際、大森は吹き出しにある「......」まで、一字一句を忠実に再現する実直さがある。そんな彼女のタガが緩んで作られた恋愛ドラマは芳しい。

231025-drama-koi-05.jpg

「ランチの女王」(2002年、フジテレビ系列)
「キッチンマカロニ」を男所帯で営む鍋島家に現れた麦田なつみ(竹内結子)。ランチが生き甲斐の彼女と4人兄弟が繰り広げるラブコメディ。
DVD-BOX ¥ 25,080 発売元:フジテレビ 映像企画部 販売元:ポニーキャニオン © 2002 フジテレビ

「ブザー・ビート 〜崖っぷちのヒーロー〜」(2009年、フジテレビ系列)
気弱なバスケ選手の上矢直輝(山下智久)と、プロのバイオリニストを目指す白河莉子(北川景子)が、恋や友情に悩みつつ成長していく物語。
「青天を衝け」(2021年、NHK総合)
渋沢栄一を取り上げた大河ドラマ。主役を演じたのは吉沢亮。明治、大正、 昭和と次々に新しい事業を切り開く、実業家の生涯を追った。
「きみはペット」(2003年、TBS系列)
新聞社勤務の巌谷澄麗(小雪)は、若きダンサーの合田武志(松本潤)をペ ットとして「モモ」と名付け、不思議な共同生活を始めることに。
「夏の恋は虹色に輝く」(2010年、フジテレビ系列)
楠大雅(松本潤)は売れない二世俳優。スカイダイビング中の事故で会っ たシングルマザーの北村詩織(竹内結子)に、ひと目惚れしてしまう。
231025-drama-koi-01.jpg

「東京ラブストーリー」(1991年、フジテレビ系列)
自由奔放な赤名リカ(鈴木保奈美)と、優柔不断な永尾完治(織田裕二)の社内恋愛を中心に、彼の幼なじみの関口さとみ(有森也実)や同級生の三上健一(江口洋介)の四角関係を描いた。
Blu-ray BOX ¥21,780 DVD-BOX ¥ 21,780 発売元:フジテレビ映像企画部  販売元:ポニーキャニオン ©フジテレビ


*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

text: Hisano Kobayashi illustration: Asami Hattori

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories