上野水香とレペットのコラボレオタード誕生。パリのブティックとデザインチームを訪ねて。
Culture 2026.03.10
上野水香とレペットのコラボレーションによるレオタードが、彼女のプロデュースブランド "piuprima di mizuka" から販売されることが発表となった。「このプロジェクトは私からレペットにお願いする形でスタートしました。レペットのレオタードが大好きなので、いつかコラボレーションできたら素敵だなって思っていて......夢だったんです」と語る彼女。レペットの既存のレオタードをベースにしたこのコラボレーションは2型ある。「フラワーレース」タイプはレース素材の小さな袖という提案で、黒とパープルの2色。「フリル」タイプは小さな袖、そして細かいフリルの縁取りを提案し、色はガーネット・レッドとローズピンク。レペットがレオタードについてコラボレーションを行うのは、これが初めてのことだ。
昨年末、この企画についてレペットのチームとのミーティングのため、クリスマスの華やかなイルミネーションに彩られたパリに彼女は立ち寄った。3月20日から始まる公演「上野水香オン・ステージ」でパートナーを組むシュツットガルト・バレエ団プリンシパルのフリーデマン・フォーゲルとのリハーサルが控えているのでとても短いパリ滞在だったが、ミーティングの前にまずはラペ通りのブティック詣で! ここに彼女が初めて足を踏み入れたのは1992年、14歳の時だったという。

オペラ・ガルニエ近く、ラペ通りのレペット本店にて。cooperation:Grace Class
14歳で初めてレペットのパリ店へ!
「その当時、日本では仕入れている店が一軒あるだけ。レペットは憧れのブランドだったんです。パリに行ったら、絶対にブティックでお買い物をしたい!って思ってて......。それでパリに着いた日に一目散にオペラ座近くのブティックに駆けつけ、レオタードを買いました。レオタード素材だけれどデニムっぽい感じで、ノースリーブのレオタードと小さなキュロットのセットアップのような。30年以上も前のことですね。でも、お店の様子はいまとそれほど変わっていないような記憶があります」

パリに来るたび必ずここへ!
それ以来、パリに来れば必ず立ち寄るレペットのブティック。この日も、彼女が"レペットピンク"と呼ぶくすんだピンク色のウエアやツイードのブーツなどを手にとっては「可愛い!」と大喜びだ。サテンのピンクのリボンがあしらわれたグレーのスウェットの上下は、まるで自分の日常着そのもの!と手にとって、鏡の前へ。
レペットの品を多数持っている中で、彼女のいちばんのお気に入りはフラワーレースのレオタード。これは黒、エンジ、そしてレペットピンクを持っているそうだ。そして、もうひとつのお気に入りはレペットピンク色のブーティで、初代を履き潰し、現在は二代目を履いているという。

手に取る全てに"可愛い"!

ピンク色のサテンのリボンとグレーの組み合わせのスウェット。

"レペットピンク"と水香が呼ぶダンスウエア。手に取ったら、着てみたくなって。着たら、踊ってみたくなって......。
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この日、ブティックでの楽しい時間を終えた彼女は、ミーティングが行われるレペットの本社へ向かった。日本に届いたコラボレーションのレオタードのプロトタイプを試した彼女は、いくつか変更点を希望していて、それについて直接話し合える良い機会である。彼女を本社で迎えたのは、ダンス&バッグ プロダクトマネージャーのフローランス・ケヴァレック、そしてバレエ戦略・コミュニケーション コンサルタントのドロテ・ブラシェ=エノーだ。ドロテはかつてパリ・オペラ座バレエ団で踊っていたそうで、来日公演のブルメイステル版『白鳥の湖』にコール・ド・バレエで参加した経験もあり、偶然にも水香はその公演を見ているということから、すぐに和気藹々とした雰囲気に。2型のファーストサンプルを前に、3人は話し始めた。
2型4色のコラボレーション

左から、フローランス・ケヴァレック、上野水香、ドロテ・ブラシェ=エノー。
ドロテ これはレペットにとって初のレオタードのコラボレーション。水香からのアプローチで始まったと言っても、これは共通の願いだったと言えます。私たちは世界中のダンサー、アーティストを知っていて、彼らに対してメゾンを開き、関係を築くようにしているんです。水香は感受性豊かなダンサーで、ステージ上の演技には心からのものを感じさせます。彼女のダンスは優雅でフェミニン、そしてとてもエレガント。これはレペットの価値と重なることで、それゆえにこのコラボレーションは私たちにも意味のあるものなんです。
水香 レペットのレオタードはシンプルで、身体が最も綺麗に見えるデザインを守っています。とても美しくて好きなんです。それに少し自分のテイストをプラスしたものがあればと思い、スリーブをちょっと工夫したものができないかと......。私が持っている花模様のレースを使ったレオタードがあって、この素材とミックスしてもらえたら、というように提案しました。
フローランス ブティックのファサードからのバラ模様とレペットのRというレース柄で、これはフランス産レペットのエクスクルーシブです。
ドロテ 水香から提案された細い肩紐はとてもフェミニン。綺麗なデコルテを生み出します。そして、小さな袖はプリンセス的な雰囲気を強調します。このレオタードにはエレガンスと仕上がりの繊細さのミックスがありますね。これは『ドン・キホーテ』のキトリにインスパイアされたのですか?
水香 サンプルが届いた後に、ちょうど『ドン・キホーテ』のランスルーがあったのでこの赤いフリルのレオタードを着て踊ったんです。すごく、良かった。すごくキトリ! 私はこの役を演じる時に、情熱的な女性、強い女性というだけでなく、チャーミングさやキュートさを加えて表現したいと思っています。このレオタード、私が思い描くキトリにぴったりでした。ピンクの方は『眠れる森の美女』や『くるみ割り人形』にいいでしょうね。

コラボレーションのレオタードは、「フリル」はピンクと赤、「フラワーレース」はプラムと黒の合計4色。

レオタードは3月19日よりMizuka Ueno×Repetto コラボレオタード特設サイトにて予約販売スタート。春以降、レペット公式オンラインショップ、各バレエショップ等でも発売予定。
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レペットが求める理想のレオタード
ドロテ 私たちは動きやすさを常に第一に考えています。肩紐が落ちないか、キュロットが上がったりしないか、身体を洗練させるか......。素材、カット、フォルムの全てが身体の動きに完全に適応していなければなりません。これがプライオリティ。人間工学を鑑みたデザインをしています。また見た目だけではなく、身体が快適に感じられるという感覚面も大切なポイントですね。着る女性の肌を擦ったりせず、動きに耐え、洗濯に耐え......レオタードは技術的な商品なんです。
水香 いま、そう伺って、私がレペットのウエアが好きなのもそれゆえなんだと納得しました。いろいろな会社がレオタードを出していますけど、デザイン重視が多いように思います。確かに可愛いし、素敵なんですけど、着た時に身体とウエアが一体となるのがレペットなんです。
ドロテ つまり、ブランドのアイデンティティにおいて中間を見つける必要があるのです。フェミニンでエレガンスという価値を先ほど語りましたが、でも、同時に素材が身体に溶け込む必要があるのです。着飾るための服ではないと、私はいつも言っています。素材は厚すぎず、薄すぎず。着ていることを忘れるような、身体と共に生きるものを、と。

モナコ王立グレースバレエ学校で学んだ水香にとって、フランス語はなじみある言語。ドロテ、フローランスが語ることは通訳なしで解するので会話はとてもスムースに進行した。
水香 届いたレオタードを見た時、ああ、私が思い描いていたとおり、ってすごくうれしかったんです。でも、着て動いてみた時、腕を上げるのに袖がちょっと......。その点について見直してもらうようお願いをしました。
フローランス そう、日本のレペット・チームから希望のポイントについて写真で見せてもらいました。袖の位置の問題ですね。この変更について、私たちも検討してみました。いまあるバイヤスがないほうが動きが自由になりますね。
ドロテ 腕を上げた時に妨げにならないように......。レペットは袖付きのレオタードを作ってますが、こうした細い肩紐と小さな袖というのは初めての仕事でした。袖のディテールは難しいものです。良いバランスのレオタードを作るのは結構難しいんです。身体の小さな部分のものですから、変更の可能性はあまりありません。ソフトでエレガントで薄手のレオタードなので縫い目一本なくすだけで、全てが変わってしまうんです。こうした小さなディテールって......。でも、水香はフェミニンで、とても良い提案を私たちにしてくれました。

ファーストサンプルを着て踊り気付いた水香の希望に解決策を見つけるドロテとフローランス。
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レペットとローラン・プティについて
水香 レペットがローラン・プティさんのママが創設したブランドだと知ったのは、私がプティさんと出会ってからずっと後のことで、とてもびっくりしました。彼とはそれまで何度も仕事を一緒にして、その精神的な部分、彼のエスプリについて私は理解していたので、レペットが彼のママのブランドと聞いた時に心から納得できたんですね。先ほどドロテさんが語った女性らしさ、エレガンスといったものをシンプルな形できちんとドッキングさせて深い良さを出すという......レペットはまさにプティのバレエそのものだなあとその時感じた記憶があります。今日いろいろお話を聞いていて、合点がいきました。
ドロテ 私はオペラ座の後はマルセイユ・バレエ団に行きました。マリー=クロード・ピエトラガラの時代ですが、そこには創立者であるローラン・プティの遺産が残っていて、彼の時代のダンサーたちもいました。レペットというメゾンは、彼の遺産にインスパイアされています。彼はよく日本に行っていたようですが、水香は彼と一緒に踊ったことがありますか?
水香 いいえ、でも、仕事は一緒にしていますし、彼は私のために『デューク・エリントン』を創作をしてくれたんですよ。彼の作品ではハイヒールで踊る『チーク・トゥ・チーク』を踊るのが大好き。『ノートル・ダム・ド・パリ』のエスメラルダも踊ってますが、中でも回数が多いのは『マ・パヴロヴァ』の中のパ・ド・ドゥや『タイス』、『ジムノペディ』です。
ドロテ 彼はダンスにおいてアヴァンギャルド、でも同時にクラシックダンスの奥深くから汲み出し、そこにちょっとしたモダニティを加える作品創りをしていました。彼は自分の時代に痕跡を残した振付家です。コンテンポラリーなダンス言語のために、クラシックなジェスチャーと美を用いました。レペットがしているのも、まさにそれなんです。新しいものを生み出すためにクラシックダンスの世界を掘り下げ、それをクリエイションの基盤としています。

ローラン・プティが1977年に創作した『チーク・トゥ・チーク』をマルセロ・ゴメスと軽快に踊る。photography:Shoko Mastsuhashi / The Tokyo Ballet
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レペットについて水香が知りたいこと
水香 もともとダンサーだったドロテさんが、ダンサー目線でレペットの精神をきちんと表現しようとされていることはとても素敵ですね。私とのコラボレーションという新しいこともありましたが、今後レペットはどのように幅を広げてゆくのか、どういったプロダクトを作りたいのかとか......。レペットは普通の服や靴も作って、ダンスの精神をファッションに反映させているというのが素晴らしいなと思っています。どういう方向に向かわれるのかなと、ブランドのいちファンとして興味があります。
フローランス バレエのためのブランドとしてのプロジェクトは、ポワントシューズとかキープロダクトのバレエシューズをデベロップすることです。
ドロテ それを考えるにあたってふたつのアングルがあると思うのです。まずはダンサーのための専門的なこと。そしてふたつ目はそこから出発し、いかに民主化するか、いかに大衆に提案するか。つまりダンサーのために考えられたものを、いかにダンス以外の市場に適応させるか、ですね。ダンスさらにヨガやピラティス、フィットネスのため、さらに街でというように、ダンスのために生み出されたひとつの商品や技術を誰もが着られるものにすることです。
水香 街中でもダンスがある......こうお聞きして、思い出したことがひとつあります。最近アーティストの横尾忠則さんと対談の機会がありました。90歳で、いまも元気にずっと仕事を続けていらっしゃる彼から「生涯踊ってください」と言われたんですね。残念ながら踊りはずっとはできないから、いつかは......と心の中で思いつつも、踊り心というものがダンサーにはあり、それをずっと失わない人生でいたいな、ダンスはもう踊れないけれど、踊り心を大切に生きていこうと。そんな答えが見つかったんですね、彼とのこの対談で。ドロテさんはもう踊ってはいないけれど、ダンサーのための商品を創り、ダンスの精神を大勢に、という仕事をなさってる。踊り心がバレエをやっていない人にも浸透してゆくことで、それによって世の中がもっとハッピーになったらいいなと。いま、踊り心を大切に生きていこうと誓った時のことを思い出しました。
ドロテ ダンスをダンサーだけの小さな世界のためにキープするのではなく、世界に広げることが大切なんです。物事の感じ方、感情などがダンスによってより研ぎ澄まされます。スポーツ選手と比べてダンサーは自分の身体について最良の感受性の持ち主なんですよ。
水香 レペットを通して、バレエやダンスがいろいろな人に浸透してゆくのだろうなと、本日強く思いました。これからもフランス人だけでなく世界中の人に向けたブランドであり続けてほしいです。

ミーティングルームに展示されていた新しいシューズを見つけ、早速試着。ドロテによると昨年のパリ・オペラ座コール・ド・バレエの昇級コンクールで、エンゾ・ソガールがこれを履いたそうだ。結果、彼は今年からスジェに。
https://www.piuprima.com/f/leotard
photography: Mohamed Khalil editing: Mariko Omura






