—磁器というと薄手でキンとしたものを想像しますが、松本さんの作品は、磁器でありながらやわらかい雰囲気で温かみがありますね。
松本:私は中国の古陶磁に興味があり、なかでも宋時代に起源を持つことで知られる「磁州窯(じしゅうよう)」という、民窯(おもに庶民が使う食器を焼く窯)の焼物がとても好きなんです。素地に化粧土という柔らかい土を掛け、掻き落としという技法で絵柄を描いた焼物で、手触りもやさしい。牡丹や鳳凰、魚などのモチーフが大胆に描かれているのもとても良くて。そういう温かみのある世界観に憧れて、作っているところはありますね。
—マグカップやゴブレット、リムプレートといった洋風の形に、中国由来の鳥や牛、唐子(中国の子供のモチーフ)などの絵付けが施された作品は、17世紀にヨーロッパで流行したシノワズリーを彷彿とさせます。松本さんの手から生まれるミックス感に驚きです。
松本:中国大陸からつながるシルクロード周辺の折衷文化、地続きながら少しづつ国が変わって文化が混じりあっていく、あの感じが好きですね。小皿の鹿の絵付けは、イランの陶器にインスピレーションを得てアレンジしたものだったり、花と鳥などモチーフが重なりあうかのように同じ画面にある構図もよく取り入れます。
—鹿や唐子は、チャーミングで生き生きした表情をしています。
松本:大体の構図は決めますが、あとは、うつわのふくらみやラインに合わせてフリーハンドで描いていくからでしょうか。絵を描くこと、歴史を知ることが幼い頃から好きだったのですが、歴史の授業で良く見る文明開化の風刺画のような、ちょっと滑稽なバランスのイラストにたまらなくひかれていました。そうした好みが自然と出て、かちっとしすぎない絵付けになるのかもしれません。
—絵柄の部分に凹凸があるからか、うつわの中に奥行きがあって、山水画や屏風絵を見ているような感覚すら覚えます。眺めているだけで惚れ惚れしますね。
松本:磁州窯の掻き落としのように大らかでありながら、筆の線がきりっと見える絵付けが理想なんです。そこで、自分なりの掻き落としとして、模様の部分だけ掻き落として絵柄が周囲に馴染みすぎないような作り方を工夫しています。
—なるほど。だから、この華やかさが生まれるのですね。
松本:食卓の上では、無地のうつわを中心にひとつかふたつ絵付けの食器が添えられることが多いと思うので、これくらい色や柄があっても楽しく使っていただけるのではないかと感じています。
—自分ではどのように使いますか?
いろいろな献立に使いますが、小皿は、おひたしや煮物など色の少ない副菜の取り皿にすると、たくさん並べてもバランスがよいですよ。
—昨年、中国を代表する窯業地「景徳鎮」で数ヶ月学んだそうですね。
松本:景徳鎮は、官窯(かんよう・中国宮廷直属の窯)のイメージが強いですが、長い歴史の中で庶民向けの量産食器を作る窯元も生まれ、現代では、伝統的な色絵や染付と工業製品に近いふだん使いのうつわが並行して作られています。中国第一とも言える窯業地の、耐火度が高く精巧に焼ける土を用いて作品作りをできたことは貴重な経験で、中国陶磁への興味がますます深まりました。
—一番、印象に残っていることは?
松本:景徳鎮は、日本の有田や波佐見のように徹底した分業制で、専門の職人さんの技術を間近で見ることができました。絵付けの道具はほとんど手作りで、針金や傘のほねの部分など使い古しのものを応用して描いたりするんですけど、それでも職人さんたちは、伸びやかかつ繊細なタッチの絵を、連続していくつもさらりと描いてしまう。手技の凄さに憧れましたね。すこしでも近づけるよう、土や釉薬にもますますこだわって制作してみたいと思っています。
※2020年10月12日まで「うつわshizen」にて「松本郁美 陶磁展」を開催中です。