力強い夏の植物で上質な空間に。フォトグラファー・五十嵐隆裕さん宅へ。【花々の飾り方 vol.3】
「特別な予定はないけれど、花を飾ろう」。そんな小さな選択は、いつもの景色を少しだけ違って見せてくれる。パリでの暮らしを経て感性を育んだフローリスト・岡本美穂さんが、アールドゥヴィーヴルのある人の家を訪ね、その住まいだからこそ映える花の飾り方を提案する。

自然素材を活かしたクリエイターのお宅へ
第3回は、フォトグラファーの五十嵐隆裕さんのご自宅へ。五十嵐さんは妻である料理家・渡辺有子さんとともに、国内外の作家の器やカトラリーを中心に扱うギャラリー「FOOD FOR THOUGHT」も運営している。ダイニングには、特注の食器棚が堂々と置かれ、FOOD FOR THOUGHTでも扱っている作家ものの器やグラスが並んでいた。

「アメリカと日本でファッション業界に携わっていたため、以前はモードなものやハイファッションを手に取ることが多かったです。けれど子育てを始めてから、すっかり興味が薄れてしまい……。いまでは木や陶器など、自然ならではの素材を感じられるものや、作家ものなどを揃えるようになりました」(五十嵐さん)
そんなご自宅のために岡本さんが選んだテーマは「上質なものに似合う花」。

「おふたりの雰囲気や置かれている家具、揃えられた食器や花器を見て、この雰囲気に合う”上質さ”を、花でも表現したいと思いました。上質さと言っても、高級な花を選ぶわけではありません。見るべきは、生き生きとした印象です。みずみずしく、佇まいにも自然な力強さがある植物を取り入れると、凛とした空気が生まれます」(岡本さん)
グルーピングを意識して、多様な草花を食卓に

「旬の花をベースにしながら、異なるテイストの植物をミックスしています。自然界では隣り合わない種類を、自由に組み合わせて新しい景色をつくれるのも、花を活ける楽しさのひとつ。今回は、力強い夏の植物の中に、ルドベキアなどで野草の繊細さを加えました」(岡本さん)

複数の花を並べるときに意識したいのが、種類ごとにまとめる「グルーピング」だ。
「いろいろな草花を感覚のままに活けると、ただ雑然として見えてしまうことがあります。種類ごとにある程度同じ位置にすることで、全体をまとめることができるんです。さらに、高低差をつけると奥行きが生まれて、より洗練された印象になります」(岡本さん)

「もちろん、決まった方法はありません。グルーピングや高低差は、あくまで素敵に見せるためのヒント。最後は自分の感覚を大切にしながら、選んだ草花の良さを引き出す生け方を探してみてください」(岡本さん)
アンスリウムやヤマゴボウで夏らしいアレンジに

玄関に飾られていたのは、五十嵐さんがお義父さまから譲り受けたという一枚の絵。岡本さんは存在感を引き立てるため、花材の色数を抑え、鮮やかなグリーンだけでまとめた。

「アンスリウム、ヤマゴボウ、シダを中心に生けています。アンスリウムは、個性と存在感がある植物。同じ種類でも形や向きが少しずつ違うので、特に表情が面白いものを選びました。色数を増やさなくても、形の違いによって空間に動きが生まれます」(岡本さん)

「アンスリウムのような南国の植物に、あえて身近な野草を。異なる要素の対比で、表現に幅が生まれます」(岡本さん)
祭壇のような一角に、クレマチスを連ねて

リビングには、夫婦で集めた作家ものが並ぶ一角がある。岡本さんはその佇まいを祭壇のように捉え、クレマチスだけを使った生け方を提案した。イメージしたのは、バリ島で花が盛られた小さなお供え物「チャナン」。クレマチスを小さな器に分けて連なるように配置し、木の素朴な空間に、鮮やかな紫色のリズムを生み出している。
「魅力的なオブジェがいくつも並んでいたので、調和を意識して花を点在させました。一輪でも素敵ですが、クレマチスのような線の細い花は複数を組み合わせることで、より印象的に見せることができます」(岡本さん)

「今回は空間と響き合うことを意識して、オブジェに寄り添わせるようにクレマチスを生けましたが、テーブルなどに飾る場合は、花が自立して見えるほうがきれいにまとまりやすいです。つるを生かしたいときも、自然と立てる長さに切るのがおすすめ。形を意識しすぎず、つるが描く線を眺めながら生けてみてください」(岡本さん)

生命力を持つものを選び、異なる個性を掛け合わせる。必ずしも高価でなくとも、選び方ひとつで、花々は空間に上質さをもたらしてくれる。
Profile
岡本美穂/Miho Okamoto
フローリスト。独立後、パリで1年間生活。神宮前2丁目にアトリエを構えて来年で10年。花や植物が持つ独特の美しさ、個性を引き出す表現を得意とし、フラワーギフトの制作から展示会の装花、ディスプレイ、雑誌や広告撮影のスタイリングなどを手がける。
Instagram @mihoflowers
五十嵐隆裕/Takahiro Igarashi
フォトグラファー。SIGNO所属。ビューティー、ファッション、ジュエリーを中心に、広告や雑誌など幅広い分野で活躍。妻で料理家の渡辺有子とともに、国内外の作家による器やカトラリーを扱うギャラリー「FOOD FOR THOUGHT」を運営する。
Instagram @520_igarashi
- photography: Ryumon Kagioka
- Edit & Text: Megumi Saito