【旅と美しいもの vol.2】素顔のサウジアラビアから見えてきたこと。

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ジェットセッターとして世界を巡る梅村妃奈子が、旅先で見てきたことや、体験したこと、感じたことを綴る連載「旅と美しいもの」。第2回は、サウジアラビア編。

インドネシアというイスラム文化の国で幼少期〜青年期を過ごしたので、イスラムの国に対しては謎の安心感がある。
イスラム教については詳しくはないが、その教えを全うしている人が身近にいると、かなり合理的だなと思う部分が多く、偏見もない。
わたし自身は無宗教だが、どの宗教の考え方にも一定理解がある。世の中陰陽あるように、理解できるもの、できないものそれぞれあって当たり前。森羅万象、世は諸行無常だと思っている。

小学生の頃、転校してきたリエちゃんは、お父さんがサウジアラビアの日本国大使館で働いていた。
幼い頃の記憶はどうでもいいことだけは鮮明で、リエちゃんは高級マンションのペントハウスに住んでいて、飼っていたイグアナの名前は“ミルク”だった。猫もいたけど猫の名前は忘れた。
その頃から、サウジアラビアで働く人はお金持ちなんだなぁと幼いながらに思っていた記憶がある。

そんなサウジアラビア、ずっと外国人観光客が行ける雰囲気ではなかったが、2019年頃からビザを解禁し、映える“火星ホテル”や美しい紅海、一直線の未来都市ザ・ラインなどが、さまざまな方向からSNS業界を賑わせ始めている。

わたしも例にもれず、「サウジアラビア行ってみたい!」と思い、アラブ首長国連邦〜サウジアラビアの旅を敢行した。

旅の通例として、日本語が話せる現地の方にできるだけ帯同してもらうこともあるのだが、今回それは大学生のサウジアラビア人の男の子だった。父親の仕事の関係で日本で育ったらしく、日本語が堪能。トーブという白い布を全身に纏い、頭にかぶるグトラ、アガールという黒い輪を頭にはめ、日本ではなかなかお目にかかれないであろう正装で出迎えてくれた。
気を遣って簡単な日本語を選びながら会話を進めていると、とても謙虚で敬語まで使いこなす彼に「大体わかるので普通で大丈夫ですよ」と言われ、少し恥ずかしい気持ちになる。

行ったことのない国に行く時は、その国の「ありがとう」「おいしい」「こんにちは」くらいは覚えて、程よいタイミングでお披露目すると「Wow!」と喜んでくれるので必ず調べていく。
国際交流とまでは言えないが、この「あなたの国を理解したいと思っているよ」という些細なアプローチが世界平和に繋がるのでは、と本気で思ったりもする。

サウジアラビアといえば、わたしのInstagramのアルゴリズムには、大富豪と思わしき男性が大きなライオンや虎やクマを家で放し飼いにしており、リビングで戯れているかなり危なっかしい動画が度々現れる。こうなりたい、とか、全く思っていないのに、なんだこりゃ!と興味がそそられる不思議な引力のあるアカウントである。
ライオンが放つ重低音は、人間が細胞レベルで「恐ろしい」と感じる迫力があるが、その飼い主は全く動じず、ハイブランドの洋服を身に纏い、よしよしと白いライオンの頭を撫でている。
「この謎の人物はサウジアラビアでは人気なの?」と、日本のお菓子では梅干しが好きだというガイドの彼に聞いてみると「これはきっとアラブの人ですね、見たことあります」と言いながら自分の携帯でこのアカウントを検索し始めた。
1分ほど苦戦して、「出てこないな?」と言っていたので「アカウントこれですよ。入れましょうか?」と彼のiPhoneを覗き込むと、Instagramの虫眼鏡マークのところが見えてしまった。虫眼鏡マークとは、アルゴリズムでその人がよく調べている画像一覧が一同に見える画面だ。

敬虔なイスラム国家であるサウジアラビアは、男女関係についても独特で、女性は目だけしか見えないニカブを身に纏い、ほぼ顔が見えないまま結婚(交際)に至ることもあるなんて話をコーヒーを飲みながらしていたところだった。
「彫りが深くて美女が多いのに、顔を隠して勿体無い、顔出した方がモテるんじゃないの?」という、聞いていいのか微妙なラインの質問をしたところ、「僕は顔を隠しているほうが真面目で好感が持てるかな」と教えてくれた。「いちばん大事なのは心だからね」と付け加えて。
年下の男の子に真っ当なことを微笑みながら言われ、ぐうの音も出ない。恥ずかしい、出直します。
交際していない男女が密室で2人きりになることは宗教上好ましくない、だから交際=結婚になり、その分実は離婚率も高いなんていうリアルな話を聞きながら。
そんな彼のInstagramの虫眼鏡マークが、金髪美女の水着姿でいっぱいだったことはここだけの話にしておこう。

サウジアラビアでは、まるでアリゾナのような砂漠のリゾート地が開発中で、現代アート関連のイベントにも力を入れているそうだ。
今回はアルウラでいちばん人気の映えるホテル、ではなく3番目人気くらいのホテルを敢えて取ってみたのだが、ホームページとはだいぶ違う仕上がりのホテルだった。聞いてみると、まだ開発中で、『こうなる予定です』というイメージ画像を出しているところが多いらしい。実際にアートイベントも写真を見て行ってみたいと話したら、これは出来上がりのイメージ画像で実物はまだ運ばれてきていない、と言われた。
ザ・ラインも調べると夢のような画像はたくさん出てくるが、完成がいつになるかは誰にもわからないらしい。

外国人観光客に向けて人知れず進化を遂げたサウジアラビア、というイメージだったが、わたしがいちばん感激したのはリヤドで食べたラクダのレバー。

ドバイはお金持ちが住む街、サウジアラビアは石油王がいる。そんなイメージだったが、それが全てではない。日本にサムライもニンジャもいない。
旅先では自分の思い込みが大きく変わっていく。世界の解像度が上がるほど、「こういう国だ」とひと括りにすることができなくなる。
もしかしたらその変化こそが、わたしにとっての『うつくしいもの』かもしれない。

わたしはおしゃれなコース料理よりも地元の小さな食堂みたいなところが好きだと伝えると、プレゼントした梅干しシートを白いトーブにうれしそうにしまった先述の彼がおすすめのお店へ連れて行ってくれた。白熱灯がチカチカし、飲み物はお好きなものを冷蔵庫から出してくださいスタイルの地域密着型のお店。渋滞する大通り沿いにある、外からは何屋さんかも分からないお店。このレバー屋さんに近所の大学生や会社員が朝ご飯にラクダのレバーを食べに来るらしい。日本人の感覚からすると朝からレバーはなかなかハードだが、サウジアラビアでは朝レバーが定番だそう。

世の中はAIの進化、宇宙開発、わたしたちの想像を越える未来に向かって少しずつ動き出している。ザ・ラインはまだまだ見れそうにない。けど、レバーを朝から食べるサウジアラビアのリアルを感じられたことが今回の旅の収穫だった。自分の想像を少し超える出来事が、東京で暮らす自分のエネルギーに自然と変わっていく。

もしかしたら、未来と日常が同居するサウジアラビアはいまがいちばんおもしろいのかもしれない。

Profile
梅村妃奈子 Hinako Umemura
東京で生まれ、小〜中学生時代をインドネシアのジャカルタで過ごす。帰国後、高校時代から読者モデルやバンド活動を始め、2010年〜21年、ガールズバンドSILENT SIRENのドラマー兼リーダーを務めた。
Instagram:@hinaofficial0313