川村明子のスリランカ紀行 #02 紅茶と野菜の産地で、心に沁みるスリランカ家庭料理を。

Travel 2018.03.23

パリからスリランカに到着して、まず向かったのは内陸部の盆地にある、古都キャンディ。
ゲストハウスでさっそくいただいたお母さんの作るスリランカ料理にじんわり浸り、地元の人たちの力みのない人当たりにすっかり心はほぐれ、3日目は6時間に及ぶ電車の旅へ。旅の後半に入る5日目からは、友人が合流しての2人旅に。

DAY 3 
Kandy キャンディ → Ella エッラ

前の晩、宿に戻ると、リビングには部屋着でくつろぐこの宿の父さん母さんがいた。「明日、朝ごはんは何時に食べる?」と聞かれたので、「7時半に出るので、7時に」とお願いする。この夜の宿泊は私ひとりで、「リビングも好きなように使ってね」と言われた。ありがたく、テーブルで日記を書かせてもらうことにする。

父さんも母さんもソファでゆったりと過ごしていた。テレビからは、スリランカというよりはどうも背景がインドと思われる恋愛ドラマが流れていて、母さんは熱心に見ている。吹き抜けの部屋にテレビの音だけが響く、静かな夜。いつの間にか寝てしまったらしい父さんのいびきが聞こえてきた。本当にここのお宿は、ホームステイをしているかのようだ。

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前日に続き、夜明け前に目を覚ました。出発の準備を終えて7時に部屋から出ると、私のための朝ごはんをテーブルにセッティングしている父さんがいた。

「さあさ、座って」と促され、席に着く。朝ごはんには、たっぷりのパパイヤにバナナ、ヨーグルト、トースト、そして目玉焼きはこの家でもすでに塩胡椒が振ってあった。食べてみたかったココナッツ入りのロティ(薄いパンケーキのようなもの)も焼いてくれたらしい。予定している電車の旅は6時間に及ぶものなので、紅茶は控えた。

父さん母さんも一緒にテーブルに座りお茶を飲んでいて、私は前日の出来事を話した。何だかまたしても家にいるかのよう。

迎えに来てくれる予定だったトゥクトゥクは時間になっても現れなかった。そんな事態にも父さんはまったく焦ることなく対処してくれ、知り合いのドライバー3人に電話をして、1台が来てくれることになる。少しずつのありがとうがいくつもあって、どう表現すればよいのだろう?と、見送られて乗り込んだトゥクトゥクで考えた。言葉で伝えることしかできない自分がもどかしかった。

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駅に着いて当日券を窓口で買いホームに行く。人はまばらだ。今回はゆったりした列車の旅になるかな〜なんて呑気に思っていたら、出発時間が近づくにつれ、ぞくぞくとバックパッカーたちが姿を見せ始めた。現地の人よりも圧倒的に旅行客の方が多い。電車が到着する頃には、ホームの両側に乗り込もうとする人々が待ち構えていた。

スリランカの電車はドアが閉まらない。両サイドとも開けっ放しのまま走る。だから、単線のホームに電車が入ってくる場合、両側から乗り込める。内陸部の街・キャンディにいる、ということはすでにみんな席の争奪戦を体験済みということだ。誰もがいかにして電車に乗るかの技を得ているかのように思えた。

コロンボの駅以上に凄まじく「これは乗れないんじゃ!?」と不安がよぎる中、どうにか乗った。押されるままに車内の通路へ流れ込み、なんとか落ち着ける場所を見つけキャリーバッグの上にリュックを置く。すると後ろから日本語で話しかけられた。ホームでも見かけていた彼女は、ヌワラ・エリヤへ向かうのに最寄駅となるナーヌ・オヤまで行くという。私より前に下車するけれど、それでも4時間の行程だ。

通路はほとんど動きが取れないほどの混雑なのに、時折、バスケットを持った揚げ物売りがやってきた。彼らは「ワデ、ワデー! ワデ〜!!」と声をあげながら、人をかき分け移動していく。ワデーというのは、レンズ豆のコロッケ。これが、辛味を感じるスパイシーな香ばしさを放ち、ものすごく気になるのだけれど、「どう考えても喉が乾くよな……」と予測できる匂いだった。ビールがよく合うに違いない。ほかにピーナッツ売りもいて、ピーナッツを買うと同時に赤い辛そうな粉も渡している。それも惹かれたけれど、我慢した。ワデー売りが通り過ぎると、子どもたちは同じ調子で「ワデ、ワデー! ワデ〜」と繰り返していた。

話しかけてきた彼女は農大の学生で、落花生の研究をしているらしい。窓の外に間近に見て取れる風景の途中で、「生態系が変わってきました!」とうれしそうな声をあげた。お茶畑が続き始め、キャンディを出てから3時間半が経過したころ前の席が空いて、やっと写真が撮れる状態になる。同時に、空気が冷たくなってきた。

小雨が降るナーヌ・オヤでは、彼女を含め大勢の旅行者が降りていった。入れ替わり乗ってきた人たちは、揃ってフリースかダウンを着込んでいる。確かに寒かった。私もウルトラライトダウンを出して着た。

座ることができてからは本当にずっと窓から外を眺めて過ごした。こんなふうに風を感じて電車に乗れることってあるかしら? 窓も、扉さえも開いたまま走る電車の気持ちよさったらなかった。

前日、ごはんを食べたお店で相席になったスリランカ人のおじさんに「白人しかいないよ」と聞いていたエッラでは、本当に駅で降りた人全員が欧米人だった(私を除いて)。この町(いや、村、かな?)には何かあるのだろうか?

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宿に着くとすでに夕方4時をまわっていて、すぐに出かけることにした。どうもここは、村全体が観光客によって成り立っているようだ。散策するうちに、自分の心が少しずつ硬くなっていくのを感じた。なんだか馴染めない。それでも、どこかに眺めのよいところがないかなぁと歩き回った。

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この日の宿は食事が出ないところだったので、何か食べて宿に戻ろうと思ったものの、どうしてもどこかに入る気になれない。メインストリートを何度か往復していると、1軒、ウナギの寝床のごとく奥に細長い、地元の人が出入りしているお店があった。店頭でロティを焼いていたので、それを買う。

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お腹がすいていたので、店頭でそのままロティを食べる。実はこの日の宿には、着いた途端に「あぁ早くここから離れたい」と思ってしまっていた。まあ、旅の途中こんなこともある。翌朝は、6時39分発の電車でナーヌ・オヤへ向かおうと決めた。今日の電車の旅は本当に素晴らしかった。特に、ナーヌ・オヤを過ぎてからの風景は、線路を走る音とともに、ずっと覚えていることだろう。今度はどんな景色が見られるかなぁと、6時間以上も乗って疲れたはずなのに、早くももう一度乗るのが楽しみになっていた。

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#01 懐かしい味と理想郷を求めて、スリランカへ。

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再び電車に乗り、紅茶の産地ヌワラ・エリヤを訪ねる。

DAY 4
Ella エッラ → Nuwara Eliya ヌワラ・エリヤ

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次の朝も暗いうちに目が覚めた。日が昇り、刻々と空が色を変えていくさまを感じながら、身支度をする。この日に泊まるヌワラ・エリヤの宿、Tea Garden Cottageは、前の晩に予約をした。コンファームのメールを確認し、駅へ向かう。

来るときにナーヌ・オヤからエッラまでは進行方向左手に見晴らしのよいところが多く、右手は大半が山だった。だから折り返す今回は、進行方向右側の席が空いているといいなぁと思っていた。エッラは、コロンボ行きの上り線だと始発からふたつめの駅で、幸いにも難なく席が見つかる。

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しばらくは空いていて、行きにはしてみたくてもできなかった開けっ放しの扉口に足を投げ出して座るってこともやってみた。少しドキドキしながら風を受け続ける感覚が昔の記憶を呼び起こす。高校1年の夏、サンフランシスコへホームステイに行ったときだ。

ボランティアでサマースクールに来ていた地元の学生が、トラックの荷台に乗せてドライブに連れて行ってくれた。ジャック・ケルアックの小説が原作の映画『オン・ザ・ロード』の一場面さながらのドライブ。まだ15歳だったし、親がいない初めての海外だったし、はしゃいでいた気がするなぁ。あのときの方が顔に吹きつける風はずっと強かった。スリランカの電車は、都会の車のスピードよりもだいぶ緩やかだ。

それにしても、ずーっと景色を見続けるも、まったく飽きなかった。偶然目にした青空市場は、はっとする鮮やかさで、その色合いは何とも楽しげだ。うーん、あそこを見て回りたい。こんな市場にこの先また遭遇できますように……。

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行きにも通った路線だけれど、目に映る景色は違う。思わぬ光景にも出合った。電車がゆっくりとスピードを落としはじめ、少し先には小さな駅が見えた。と、線路にぽつっ、ぽつっと降りて行く人たちがいる。ほぉぉぉなかなか思い切るなぁ、と面白く眺めたが、「家に帰るのにはここで降りるのがちょうどいいんだよ」とでも言うかのようなまるで急ぐ様子もない足取りに、もしかして駅は無人駅で別に無賃乗車とかではなく、ここで降りても同じってことなのか?なんて思った。

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ナーヌ・オヤの駅にはほぼ予定通り、9時20分に到着。紅茶の産地として知られる高原の町、ヌワラ・エリヤはここから10キロほど。宿の人が駅まで迎えに来てくれるとメッセージがあったが、あいにく会うことができず、町の中心地まではバスで向かうことにする。

この日も雨が降っていた。町に近づくにつれ雨足は強くなり、バスターミナルに着いた時にはさらに激しくなっていた。さてここからどうするか。まずはともあれトゥクトゥクをつかまえる。中心地にある宿ではないようで、ドライバーは観光案内所に立ち寄り場所を確認してから出発した。

けっこう距離がある。細い道をかなり登って行った先で停まったのは、看板も何もない、一般の民家と思えるガレージだった。音を聞いてか、小さな女の子を抱いた女性が階段から降りてきた。「今日、予約をしたのですが……」と伝えると、あら?という顔をして「駅で会えなかったの? 主人が迎えに行ったのよ。まだ帰ってきてないのだけど……ともかく上がって!」と言われた。

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泊まるお部屋はちょうど準備をしているところだったので、荷物だけ置かせてもらい、リビングにお邪魔する。こちらのお宅、駐車場から1階上がったところに客室があり、さらに上がるとリビングダイニングなのだが、階段は室内ではなく半屋外で(屋根はある)、さらにこのリビングの入り口にはドアがなかった。おそらく通常なら風を心地よく感じるのだろうが、この日は雨だけではなく風もあった。冷気を凌ぐためか、階段を登ったところに青いビニールシートがカーテンのように広げてある。

その光景に少し驚いた。確かにキャンディのゲストハウスも玄関には扉がなかった。けれど……何だかこれって、『ふしぎの島のフローネ』みたいじゃないか。お天気がよいときに来たかったなぁ。聞けば、この日は年に10日くらいしかない悪天候だったらしい。

「お腹は? 空いてる?」と聞かれ、そこまで空いていたわけじゃないのに、食いしん坊な性根が顔を出し反射的に「空いてる」と口をついた。すると「パンケーキ食べる?」と母さん。パンケーキ!! まだ一度も食べていない。やったーと言わんばかりに「パンケーキ、うれしいです!」と答える。

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出てきたパンケーキはロール状で、オムレツのような黄色をしていた。食べてみるとターメリック入りだとわかる。そしてココナッツペーストが巻かれている。これはなかなかに食べ応えのあるパンケーキだ。食パンもトーストして出してくれた。パンケーキにトーストかぁ。この感覚って、パスタなのにパンも出すフランス人のような感じかしら。トマトが上にのった目玉焼きには、またしてもすでに塩胡椒の味付け。もう、これがスリランカのスタンダードと言い切っていいのかもしれない。紅茶は、キッチンで淹れてからポットに移しかえて出してくれていた。きりっとしながら丸みのある透き通った味で、おいしい。BOP(ブロークン・オレンジ・ペコ)だという。

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毎週水曜日更新! 川村明子ブログ「パリ街歩き、おいしい寄り道。」

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宿の父さんの案内で、ティーファクトリー&滝巡り。

食べている間に帰ってきた父さんは、これまた人懐っこそうな人だった。もし町の中心地に行きたければ送っていくし、ティー・ファクトリーも案内するよ、と言ってくれる。この辺には滝も数カ所あるらしい。それでオススメの場所に連れて行ってもらうことにした。

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まずはマックウッズ・ラブーケリー・ティー・センターへ。先ほど宿で飲んだお茶はこちらのものだそう。さくっとラフに回る工場見学のあとには紅茶の試飲があり、目の前に一面茶畑の広がる(というかこの辺りはどこも茶畑なのだ)サロンで1杯いただいた。やっぱりおいしいなぁ。何が違うんだろう? お水と淹れ方だろうか。パリでも同じ味が楽しめるといいなぁと思いながらBOPを2箱購入した。

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そこからは滝を臨めるポイントを3カ所巡った。最初はランボダ・フォールズ・ホテル。館内のレストランから滝の目の前に出る通路があり、そこまで連れて行ってくれた。かなり大きな滝で勢いがある。ホテルの名前にも付いているランボダ滝で、あとで調べたら落差は109メートルもあるらしい。

車で少し移動して次はティー・ブッシュ・ホテルの脇にある展望台へ。 右手には湖が見て取れ、清々しい空気に大きく息を吸いたくなった。ヌワラ・エリヤには大きな滝が3つあり、水力発電もされていると父さんが教えてくれる。

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また移動すると今度は、「ここで待っているから、滝を見てくるといいよ。いちばん上まで行くことができるんだ」と父さんに送り出された。橋がかかった横に料金所があり、入場料を支払うようになっている。だからか入って行く人がいない。少し迷った末、行ってみることにした。道は細くなかなかに険しい。どうもここは、さっき見た滝の上流にあたるようだ。10分ほど登ったところで賑やかな声が聞こえた。声のする方に行ってみると、水浴びを楽しんでいる人たちがいる。その様子に励まされて、行けるところまで登ってみようと歩を進めることにした。

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このとき雨は止んでいたものの、朝からお昼過ぎまでは降っていたわけで、岩場はツルツル、地面はぬかるんでいる。じんわりと汗をかいた。ずいぶんと上まで来たはずなのに、誰ともすれ違わない。木立の狭間に湖まで見渡せる場所を見つけ、ひと息つく。水に恵まれた豊かな地の姿がそこにあった。傾斜がかなり急になってきて、もうそろそろ頂上に着いてもよい頃だよなぁと登ってきた斜面を見たら、上に向かっていた気持ちが途端に怯んだ。これ、降りるんだよね? 大丈夫?? もう少しがんばってみよう。と少し進んだ先で、「これは登ったところで降りられないな」と思わせる岩が現れた。小学生の頃にスキーで骨折した経験があるからか、私は下りにものすごく慎重だ。今日はひとりだし無茶はやめよう、とそこで諦めることにした。また来ればいい。

車に戻るや父さんが、「いちばん上まで行った?」と聞いてきた。だいぶ上まで行ったのだけれど諦めたことを伝えると「てっぺんに湖があるんだよ。そこで水浴びをしたくてみんな登るんだ」という。それは気持ちがよいに違いない。うわーーん、見たかったなぁ。また必ず来ようと胸の内で強く思った。

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次は、中心地にある植民地時代の面影が残るホテルと、町でいちばん古い建物が美しい郵便局に案内するよ、と父さんはまたも車を走らせる。まだ茶畑の続く山を越えていく道中、大きくカーブを描く場所には、ところどころ野菜の露店が出ていた。ヌワラ・エリヤは野菜や果物の産地で、ここからスリランカ中に発送されるそうだ。だから地元の人は新鮮な野菜を毎日買って生活していて、父さんの家もそうらしい。「洋ナシのように見えるのは、実はリンゴでいまの季節が旬の特産物なんだ。スリランカでもほかの土地では食べられないよ」と父さんは誇らしげだ。ここで採れる以外は、リンゴはどれも輸入品だとも言っていた。こんな地で野菜を買ってお料理もしたい。この地に再び来る新たな理由ができた。

案内してくれたザ・グランド・ホテルとその周辺は、青い芝生が整然と広がり、これまで見てきた風景とはまったく趣を異にしていた。また雨が降ってきたのも手伝ってか、生活感のないそのエリアには、植民地時代の名残をより強く感じた気がした。

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宿に戻るとすでに17時をまわり、日が沈み始めていた。少し部屋で休んでから、夜ごはんを作る様子を見せてもらおうと上階へ。台所を覗くと、ガス台はコンロが5つ付いているもので、すべてにお鍋かフライパンが置いてあり調理しているところだった。あーーー逃したなぁ、これ全部最初から見たかった。残念に思っていると、「もうできたから、テーブルに座って」と言われる。

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食卓にずらっと並べられたのは、カレーのような炒め物4皿(ニンジン+キャベツ+タマネギ、インゲン+トマト+粗い唐辛子、主に皮の部分を揚げているか油でくたくたに炒めたナス+パイナップル+ほとんど火の通っていないタマネギ+粉唐辛子、オクラ+ネギ+唐辛子)、パパダン(豆の粉と小麦粉で作った揚げせんべい。揚げる前のものが市販されていて、揚げてくれた)、ごはん+カンクン(ホウレンソウと空心菜の間のようなお野菜)の炒め物、フルーツサラダ(バナナ+パパイヤ+パイナップル+トマト)。

お惣菜屋さんに行って食べたいものを全部盛り合わせたような有様に、ひとり興奮しつつ、食べ始める。カレーパウダーは入っていたりいなかったりで、少しずつ味が違った。その中で、油を吸い込んだ茄子とパイナップルの組み合わせは、日本のお漬物の何かに似た味がして、特にごはんがどんどん進んだ。ロティ(ココナッツのすり身が入った薄いパンケーキ)も焼いていてくれたらしく、後から出される。でももうお腹いっぱいだぁ。お肉もお魚も、卵さえもないのに、本当に満たされたごはんだった。

受け取ったものがあまりにたくさんあって、お腹だけじゃなく、胸もいっぱいに膨らんでいた。それで、お部屋に戻って過ごす、と伝えると「温かい紅茶を飲んだらよく眠れるわよ!」と大きなポットと、食べきれなかったロティにフルーツサラダもお夜食にとトレーに乗せて渡される。

いろんな気持ちが渦巻いたまま静かな夜を過ごした。

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母さんと一緒に朝ごはん作りを体験!

DAY5
Nuwara Eliya ヌワラ・エリヤ → Kandy キャンディ

前の晩お夕食のあとに、朝ごはんは一緒に作りたい!とリクエストしていた。この日はナーヌ・オヤ駅9時19分発の電車でキャンディに向かう予定で、「じゃあ7時にキッチン集合ね!」と母さんと約束。夜が明ける色の移り変わりを窓の外に見て取りながら、出発の準備を終えて部屋を出る。台所にいくと、母さんはすでにスタンバイしていた。「カレーが食べたいのよね?」と聞かれ、頷く。この宿にはメニューがあって、お夕飯も朝ごはんもその中から選ぶようになっていた。幸い朝ごはんにもカレーがあったから、私は迷わずベジタリアンカレーに決めて(野菜の産地だし!)伝えていたのだ。

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まず、ロティの生地にとりかかる。フレッシュなココナッツを半分に切り、おろすという。しょっぱなから初体験の作業にワクワク。工具かと思えるおろし器を台の端に取り付ける。レモン絞り器に刃がついたような突起物が横向きについていて、そこにパコッとココナッツをはめ込んだ。左手でココナッツを抑えながら、右手にあるハンドルをまわす。そうするとココナッツの中身はえぐられ、あれよあれよとココナッツおろしに姿を変えた。

ロティの手順

  1. 器に、小麦粉とおろしたココナッツ、塩、お砂糖少々、バターを入れる。
  2. 人肌よりも少し温かいくらいのぬるま湯を3〜4回に分けて加え、馴染んできたらココナッツオイルも加えて、ひとつにまとめる。
  3. 2を柔らかくなるまで捏ねてから、丸める。
  4. 3をゴルフボール大の大きさに分け、少し休ませる。→ その間にカレーを作る。
  5. 4を手で(指の腹を使い)平たくする。鉄板にバターをひき、焼く。

分量はすべて、目分量(ご興味のある方は写真を参考になさってくださいね)。
生地を小さく丸めて休ませている間に、カレーをこしらえる。具は、下茹でしたジャガイモにポロネギとタマネギで、すでに切ってあった。

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中華鍋に材料を入れ、火にかけて炒め、油が回ったら、ターメリック、カレーパウダー、チリパウダー(結構な量)を投入。この状態でしばらく火を通す。
その間にロティに取りかかる。休ませていた生地を平たく伸ばし、鉄板にバターをひいて生地を焼く。

それにしても、クレープ屋さんのような厚みのある鉄板が家庭にあるなんて! とても使い込まれている感じがするなぁ。思わず欲しくなってしまいそうだ。ロティ4枚を並べて焼いている間に、カレーの仕上げ。
お塩をふって、「これを入れるとおいしくなるのよ」と加えたものがあった。見せてもらうとモルディブフィッシュ・パウダー・ミックス!!

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ついに登場! スリランカでは、鰹節と同等のモルディブフィッシュなるものをお料理に使うと聞いていたし、初日に乾物屋さんで実物を目にしてもいたけれど出汁のような味をここまで感じることはなかった。クノールからこういうパウダーが出ているのかぁ、スリランカ版ほんだしといったところかしら。食べるのが俄然楽しみになる。

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できあがった野菜カレーとロティを目の前にしたら、なんだか感慨深い。朝から、普通に台所に一緒に立って、大げさな感じではなくいつもと変わらぬ(と思える)母さんのリズムで料理をし、それで一皿できあがった。しみじみとうれしかった。ジャガイモとネギだけのカレーなんて、いままで食べたことはない。でもとてもしっくりきた。全然違うものだけれど、私はジャガイモとタマネギが具のお味噌汁が大好きなのだ。朝ごはんの、ロティとジャガイモネギカレーの組み合わせは、おにぎりにジャガイモとタマネギのお味噌汁くらい自然な気がした。あれだけ楽しみにしていたモルディブフィッシュの存在はあんまり分からずじまいだった。でも、お味噌汁を思い出したくらいだから、感じていたのかな、どこかで。

私が食べ始めてから用意してくれた目玉焼きは、やっぱり塩コショウがふってあって、そして前日と同じくトマトがのっていた。それを食べたらロティは食べきれなくて、残った分を“おやつに”と包んで渡される。母さんとは宿でお別れをし、駅までは父さんが送ってくれた。

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ここからキャンディへ折り返し、旅は後半に入る。電車の中でこれまでの工程を思った。今回の旅の前半は、宿でお夕食を食べられるところ、それもレストランも兼ねているホテルではなく、宿のお母さんが作ってくれるゲストハウスを探した。スリランカのお母さんが作るごはんがともかく食べたくて。

ヌワラ・エリヤの宿、Tea Garden Cottageでは、期待をはるかに上回るうれしい体験をすることができた。正直にいえば、宿の名前にある“コテージ”以上にコテージ然としたお家にはちょっと驚いたし、まさに小さな子がいるお宅そのままのダイニングの様子には「そうかこういう宿もあるのか」と一瞬戸惑いもあった。でも、実際に過ごしたホームステイのような1泊の間に、心は何度も揺さぶられた。うれしさの静かな波がひたひたと自分の中に広がっていく。あふれてしまってうまく処理しきれないくらいに。いわゆる“素敵宿”ではまったくないのだ。だけど、いわゆる素敵宿では到底得ることのできない時間がそこにあった。たぶん、ひとりだったのもよかったのだろうなぁと思う。宿の母さんは「今度は彼と来るのよ!」と笑っていたけれど。

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旅の後半は、フードエッセイストの平野紗季子さんが合流することになっていた。落ち合う予定のキャンディでは、相談して、初日に滞在した宿、The Kandyan Manorを再訪しようと決まった。

私の乗った電車が1時間以上遅れ、おまけに携帯も繋がらないという状況に見舞われながらも、無事にキャンディ駅で会うことができて、トゥクトゥクで宿へ向かう。

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前回と同じお部屋を宿の母さん、スージーは用意しておいてくれた。そして「少し何か食べる? ロティ?」と これまたうれしいことを聞いてくれる。大きく頷き、作ってもらうことにした。前回食べたキュウリとタマネギのヨーグルト和えを巻いたロティのおいしさが口の中に蘇る。

お部屋に荷物を起き、キッチンへ行ってみると、フライパンで具を炒めている。今日はコーンビーフ入りらしい。

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朝食べたロティとはまったくの別ものだけれど、スージーはこんがり焼いたこれを“ロティ”と呼ぶ。だからこれもロティなのだろう。具を炒めているときから、食欲を刺激する香りがしていた。実際に食べてみたら、思わず笑ってしまうおいしさだった。カレーリーフの芳香と、青唐辛子のさりげない辛さ。あぁ、ここに戻ってきてよかったぁ。心底そう思った。

紅茶もいただいて一息ついてから、出かける準備をする。と、料理教室のリクエストにも応じると書かれたお知らせが貼ってあるのを見つけた。この旅に出る前からお料理をどこかで習えないか、と探していたのだ。それで、翌朝お願いすることにした。

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前回もお散歩した商店街に向けて宿を出る。一度来たとはいえ、一度だけだ。初めて目に映るものがいくつもあった。ふっと紗季ちゃんがいなくなり、見ると、お惣菜屋さんに興味を奪われたようだ。笑顔ですでに何か買おうとしている。女性客で賑わうそのお店は、生地を焼いたりしている店員さんたちも女性だった。スリランカは外食文化が発達していない。飲食店が少なく、家で食べるのが基本らしい。家庭料理がおいしいと言われる所以はそこにあるようだが、揚げ物をはじめお惣菜を売る店は活気があった。

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豆入りコロッケを買い食いしたり、ヤシの実のジュースを飲んだりしていたらすっかり日は傾き、帰宅ラッシュの時間になっていた。宿へ戻る途中ですでに日は落ちて、暗い中、バス通りを歩く。周りに何もない中にぽつんと立つ、軒先にバナナを吊り下げたよろず屋さんの前を通り過ぎようとすると「ちょっと見てきていいですか?」と紗季ちゃんが通りを小走りで渡って行った。暗闇の中に明かりを灯すそのお店と、彼女が写真を撮る様子を見ていたら、なんだかここから物語が始まりそうだなぁと思った。

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夜ごはんは、もちろん宿でいただくことになっていた。具ごとに異なる味わいのカレーに、スパイスと煮汁が少しかかったごはんのプレート。スージーのお料理はさりげなくおいしくてじわじわ浸透する。こんなふうに、さりげなくおいしいごはんを、いつか私も作れるようになるだろうか。各々が思いに浸って、言葉少なに食べ続けた。

#03に続く

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川村明子
フードライター
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
台所に立つ時間がとても大事で、大切な人たちと食卓を囲むことをこよなく愛する。オペラ座でのバレエ鑑賞、朝の光とマルシェ、黄昏時にセーヌ川の橋から眺める風景、夜の灯りetc.。パリの魅力的な日常を、日々満喫。
Instagram:@mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」も随時更新中。
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