ラトビアの古都リガで、アールヌーボー建築を巡る旅。
Travel 2025.04.23
バルト三国のひとつ、ラトビア。
可愛い雑貨や美しい街並みが魅力のラトビアだが、首都リガはアールヌーボー建築の宝庫でもあり、ユネスコ世界遺産にも登録されている。今回は、リガの街で世紀末建築を楽しめる3つのアドレスをご紹介。
19世紀末に建てられた800軒以上もの建築が現代の暮らしに生きている街、リガ。ラトビアの守り神や動物モチーフなどダイナミックな装飾が西洋建築にミックスした街並みが魅力だ。
北ヨーロッパのバルト海に面し、北のエストニア、南のリトアニアを含めたバルト三国の中央に位置するラトビアは、北海道の8割ほどの国土に数千もの湖と森が広がり、約185万人が暮らす自然豊かな国。首都リガは1201年にドイツ人入植者が建都し、13世紀後半からハンザ同盟(※1)の商業都市として栄えバルト最古にして最大の街として知られる。
英国のアーツ&クラフツ運動(※2)を起源とするアールヌーボー(ドイツ語:ユーゲントシュティール)建築が、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパ中で一世を風靡した。ラトビアのリガに、ベルギーやフランスで流行したアールヌーボーの波が押し寄せると、経済成長期の1880年頃から1920年頃の間に爆発的に開花。大きなきっかけとなったのが、1901年の「リガ建都700年」の産業工芸博覧会で、これまで見たことのない会場に人々は圧倒され一気にその熱が高まった。

1.初期アールヌーボー建築を楽しむなら、アルベルタ通りへ。
まずは初期アールヌーボーの完成度の高い建築が密集しているアルベルタ通りやエリザベテス通りへ。
ここでの注目は、ミハイル・エイゼンシュテイン(1867〜1921)による建築だ。ユダヤ系ロシア人で、サンクトペテルブルクで学び、土木技師としてラトビアのリガで働く間に約20棟の建築を設計した。上の写真は、エイゼンシュテインが設計したアルベルタ通り13の集合住宅。
この辺りはさすがに保存区だけあってほかの通りに比べて整然としているが、アルベルタ通りにはときおり「YAKUZA(ヤクザ)」という名の不思議な名の和食店があったり、エリザベテス通りの路地にドクロが描かれた床屋、ロートレック風のアールヌーボーグッズを売る店など、立ち寄ってみたい店も多い。
エイゼンシュテインと同じく、リガで活躍した建築家として知られているのが、コンスタンティーンス・ペークシェーンス(1859~1928)やエイジェンス・ラウベ(1880~1967)。上の写真はラウベの代表的な建物で、外観のみ見学できる。
建築家のペークシェーンスは、リガで初めて角に尖塔を建てたことで知られている。
リガのアールヌーボーの特徴は、ファサードに巨大な顔面や女神、スフィンクスや龍、想像の動物など、ダイナミックな装飾が施されていること。地元で聖なる花とされる菊の花が幾何学的にデザインされていたり......中庭は簡素ながら、ラトビアの守り神を表す文様が大きく隠れていたり、歩きながらたくさんの発見があり目を楽しませてくれる。
ちなみに、現在でも定期的に修復や手入れが行われており、メンテナンスをきちんとすることで減税対象ともなるそう。
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2. リガのハイライト、「ユーゲントシュティール博物館」へ。
美しい建物として見逃せないのが「ユーゲントシュティール博物館」。ペークシェーンスが、自分の住まいとして設計した見事なアールヌーボーの館だ。外観だけではわからない、デザイナーの美意識を肌で感じることができる。リビングルーム、サンルーム、キッチン、寝室、ミシン部屋など、細部にわたって、完成度といい用の美といい、見ていて飽きることがない。英国で始まった、アートと暮らしの統一を求めるというアーツ&クラフツ運動がここにも確実に生きている。
まずは玄関を入ってすぐのらせん階段に目が釘づけに。
リビングルーム。窓ガラスの模様、レースを敷いた丸テーブルにさりげなく置かれた青い花瓶も美しい。
サンルーム。
天井の隅の意匠。
キッチンエリア。
手ぬぐいひとつも、いとおしい。
ペークシェーンスが愛したスズランのモチーフが多い。
コンスタンティーンス・ペークシェーンスは、エイジェンス・ラウベとコンビを組んで5つの作品を残している。
ユーゲントシュティール博物館/Rīgas Jūgendstila Centrs
Alberta iela 12, Centra rajons, Rīga
+(371) 67181465
営)10:00~18:00
休)月、火
https://jugendstils.riga.lv/eng/sakums/
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3. 新市街のアールヌーボーホテルに泊まる。
アールヌーボー建築に泊まりたい!という方はぜひ、この「トライブ・リガ・シティ・センター」へ。

アールヌーボー建築の集まるエリアを散策するには最高の立地にあり、サウナ、スチームルーム、ジェットバスがついて寛げる4ツ星ホテル。クラシカルな玄関から入ると、ロビーにはまるでインスタレーションのようなアート空間が広がる。千鳥格子柄の壁と寄せ木細工の床のモノトーンにゴールドの飾りなど、クラシックかつクールなインテリアに見惚れる。
全84室すべてリビング+ベッドルームのスイートタイプで、天井が高く自然光も入り開放感にあふれている。布団に入って数秒で寝落ちしそうなベッドのクオリティも確かだ。徒歩数分で話題のミシュランレストラン「シェフズ・コーナー」にアクセスも可能。
Krišjāņa Valdemāra iela 23, Centra rajons, Rīga
tel : +(371) 67334462
https://all.accor.com
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元米国大使館の邸宅を改装した5つ星の「A22ホテル」にも注目。
もともとのアールヌーボー建築をモダンに改装したホテルもアールヌーボー散策にぴったりの宿。
ユーゲントシュティール博物館へ徒歩約10分の距離にある、由緒あるアーバンホテル。米国大使館の建物を改装しており、1939年ジョン・F・ケネディが訪れたことがあるそう。
館内の寄せ木細工の床、アールヌーボー式天井装飾などは残しながら、客室内はモダンデザインで統一。
朝食レストランでは実に手の込んだ丁寧な料理がサーブされ、朝からスパークリングワインも楽しめる。
ホテルからアールヌーボー建築群のある通りへは徒歩圏内。中世の街並みが美しい旧市街も近いので、ゆっくりと散策を楽しみたい。
(※1)ハンザ同盟/13~17世紀にかけて北ドイツの都市が結成した都市連合体で、北海・バルト海沿岸の北欧商業圏を独占した。世界史上最大・最強の同盟ともいわれ、ヨーロッパ史に大きな影響を残した。
(※2)アーツ&クラフツ運動/リバティプリントでも知られるウィリアム・モリスやその仲間たちが、18世紀の産業革命以降、大量生産でモノがあふれる中、伝統的な工芸スタイルや手工芸の良さをもっと暮らしに取り入れようと世に訴え続けた運動。
協力:Latvia Travel(LIAA)https://www.latvia.travel/ja
フィンエアー http://www.finnair.co.jp
photography & text: Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)