ラトビアの森で、伝統音楽やルーツに触れる。

Travel 2025.04.23

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自然回帰の旅がしたい、そんなときにおすすめなのがラトビア。バルト三国で最大・最古の首都リガの郊外には、年に一度国をあげての民芸市が開かれる広大な森がある。この森は野外の民俗博物館として保存されており、古くから森と共生してきたラトビア人の暮らしが再現されている。ここで伝統音楽を聴き、中世以前から伝わる「ミトンの舞」を見て、ラトビアのルーツに思いを馳せてみた。

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聖なる森に再現されたラトビアの原風景の中で、伝統音楽を聴く。

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リガ中心部から北東へ12km(車で約30分)、ユグラ湖畔の松林の中にある「ラトビア民族野外博物館」は、1924年築とヨーロッパでも古くかつ最大級の野外博物館。東京ドーム約18個分、87ヘクタールの広さに、ラトビアの4つの地方「クルゼメ」「ゼムガレ」「ヴィゼメ」「ラトガレ」の農村から17~20世紀の118もの古民家が移築されており、当時の村が再現されている。

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ゲートを入ると、視界いっぱいに赤松の森が広がる。この森に足を踏み入れるだけで不思議と清らかな心持になる。日本の神社にやってきた感覚といえばよいだろうか。民族衣装を纏ったスタッフたちに、太鼓と鈴で出迎えられ、まずは、この森を守るラトビア固有の神道(自然信仰)の天空神のご神体に挨拶。そしてラトビア西部クルゼメ地方から移築された古い教会の中へ入り、クアクレ(Kokle)と呼ばれる弦楽器による演奏と民謡を聴く。

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クアクレ(Kokle)は、古くから口承で伝えられてきた民話とともに奏でられてきた弦楽器で、ラトビアの楽器の中でも「黄金のクアクレ」と枕言葉がつくほど貴重なもの。昔は人が亡くなると、聖木とされる冬菩提樹を伐りだしてクアクレを作り、亡き御霊を偲ぶために奏でたそう。形や奏法は地方によって異なり、最古のクアクレは13世紀のもの。この日は、3種類のクアクレの合奏と唄を聴いた。可憐な弦の響きと哀調を帯びた旋律に心洗われるよう。

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教会の後は、一般的な農家の家屋を見学。入って左には納屋、右手へ進むと一間にリビング、ダイニング、キッチンがある。キッチンの隣に置かれた暖炉装置には表面にあるたくさんの穴があり、そこにはミトン(手袋)や靴下を入れておいて温めておくスペース。

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暖炉そばには、小さな子どもが遠くへ行かないよう、親の近くで遊ばせるための囲い(託児柱とよぶ)も備わっている。

興味深かったのが、納屋の屋根裏に置かれていた終活のための道具。ラトビア人は、自分のことで人に迷惑をかけることを嫌い、なんと、生前から自分の好きな木材で作った棺桶や、納棺時に入れる副葬品を備えていたという。

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ラトビア古来のサウナ「ピルツ」小屋も見学。母屋と離れて、小さな湖のそばに建っている。

ピルツは、火で熱した石に水をかけて蒸気を起こすタイプのスモークサウナ。古くから心身浄化のために存在し、スカンジナビア半島や他バルトの国々と同様、体を清めるとともに、出産、荼毘前の湯かんもここで行われていた。

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スルアタと呼ばれるマッサージ用の白樺や柏、冬菩提樹の小枝の束(北欧ではヴィヒタ)も重要な役割を果たしている。現在でもピルツは日常的なもので、ラトビア全人口の半数の家にはサウナが備わっている。スモークサウナと湿度の高いフィンランド式サウナのふたつが主流だという。

旅籠レストランで伝統料理とミトンの舞を鑑賞

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家屋やピルツ(サウナ)見学の後は、ちょうど昼時。古い旅籠を活用した建物内で、ラトビアの伝統料理をいただいた。前菜にニシンの酢漬け、ピクルス、黒パン、芥子のバター。豚肉の血入りソーセージも。

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メイン料理は羊肉と野菜のスープ。長い時間コトコトと煮た羊スープは地味豊かで、心身温まった。

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添え付けに出された茹でジャガイモと揚げポテトもシンプルだがホクホクで美味。

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ランチをいただきながら結婚式に舞われる踊り「ミトンの舞」が披露された。古くから、新郎新婦が新しいミトンを身に着けたまま最初の食事を共にするという風習があったそう。新郎新婦は婚礼が終わるまで皮膚と皮膚を合わせてはいけないとされ、さらにお互いミトンをして長いタオルを持って踊る。タオルは二人の絆の架け橋、となるそうだ。

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ラトビアのクラフトアートで、まっさきに名前があがるのが手編みミトン。ラトビアでは10世紀ころから、さまざまな儀式の贈り物として多くのミトンが編まれてきた。編み込まれる文様は、ラトビア神話に登場する自然の神々。また地域ごとに文様が異なり、男性はミトンを帯につけて出自を証明していたこともあるそう。ミトンはとりわけ婚礼の際の嫁入り道具として欠かせないもので、女性は嫁入り前にはミトンを編み、義理の父母、兄弟・姉妹、親戚へ配る習わしがあった。その出来が素晴らしいほど、嫁の評価は高かったという。

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毎年6月第一の週末には、この森で国を挙げてのクラフトマーケット(民芸市)が開かれる。世界でも知る人ぞ知る'お祭り'ではあるが、多くの日本人バイヤーが訪れることをご存じだろうか。もちろん民芸市の際の訪問もいいが、それ以外の時期の民族野外博物館は、静けさに満ち、近世ヨーロッパへのタイムトリップ感も楽しめておすすめだ。

ラトビア民族野外博物館(Latvijas Etnogrāfiskais brīvdabas muzejs)
Brīvdabas iela 21, Rīga, LV-1024
Tel: +(371)67994106
営)10~16時
休)月
http://brivdabasmuzejs.lv/
※クアクレの演奏は個別にリクエストが必要。HPから予約を入れる。または下記ラトビア観光局まで問い合わせを。

協力:Latvia Travel(LIAA)https://www.latvia.travel/ja
フィンエアー http://www.finnair.co.jp

Photo & Text:Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)

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