ノートルダム大聖堂とファッション界の深い関係。
Paris 2019.04.27
世界の2大コングロマリット(複合企業体)といわれるLVMHとケリングがノートルダム大聖堂の修復に寄付を名乗り出る以前から、ノートルダム大聖堂はファッション界から愛され続けてきた。多くの大聖堂が立ち並ぶ中、ひときわ輝くその存在について振り返ろう。
故カール・ラガーフェルドであれば実現可能だったかもしれないが、グラン・パレやエッフェル塔の敷地内のように、ファッションウィークをノートルダム大聖堂で行ったブランドは存在しなかった。そのふたつの塔や、バラ窓、ガーゴイル(モンスターをかたどった彫刻)は、ゴシック建築らしい美しく風変わりな印象があり、ジョン・ガリアーノやジャンポール・ゴルチエ、80年代のミュグレーなどのファッションブランドとの相性がとてもよい。
写真家フランシス・マクローリン=ギルがアメリカのファッション誌「グラマー(GLAMOUR)」(1962年発売)のために撮影したノートルダム大聖堂をバックに佇むモデル写真。Photo: Getty Images
シテ島の中央広場には、世界中のファッションジャーナリスト、モデル、インフルエンサーなどのセレブリティが訪れ、壮観な大聖堂の前で写真撮影できる観光名所もある。
オートクチュールは建築物と親和性が高い
ノートルダム大聖堂の建築は見事である。そのことはファッションフォトグラファーのリチャード・アヴェドンや、女性として初めて米ファッション誌「ヴォーグ(VOGUE)」と契約を結んだ写真家のフランシス・マクローリン=ギルが1961〜62年にこの有名なノートルダム大聖堂の前でモデル撮影を行い、米ファッション誌「グラマー」に掲載されたことが証明している。
43年にはすでにファッションデザイナーのマルセル・ロシャスが、大聖堂をバックにケープを羽織る女性のイラスト広告を発表している。そして2019年には、写真家ユルゲン・テラーによるサンローランの広告でパンクファッションに身を包んだシャルロット・ゲンズブールが撮影を行った。オートクチュールの創作活動は、重力を超越したそのラインや、芸術作品を前にした時に沸き起こるような感情を引き出すことから、たびたび建築に似ていると評される。
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モンスターの美しさ
バウハウスなど多くの建築デザインのムーブメントは、ファッション界に影響を与えた。たとえば、ガブリエル・シャネルはヴァンドーム広場とその八角形のフォルムに触発されて、香水「シャネル N°5」の蓋をデザインした。
ノートルダム大聖堂もまた建物自体の美しいラインだけでなく、見る人を惹きつけるガーゴイルも印象的だ。ファッション界の人々もこのガーゴイルの神聖な口元を愛してやまない。写真家のリチャード・アヴェドンは、51年に「ハーパース・バザー(Harper's Bazaar)」3月号の広告写真として、ガーゴイルに重ねるようにスーパーモデルのスージー・パーカーの甘い表情を撮影し、モンスターの美しさと完璧な美しさとの対照的で鮮烈な印象を作り出した。
共通する価値
ファッション界もまた、ノートルダム大聖堂が完璧なまでに象徴するフランスが誇るサヴォアフェール、遺産、豪華さ、独創性、職人の技などのさまざまな価値を称賛している。
小説家のヴィクトル・ユーゴーは著書『ノートルダム・ド・パリ』(1831年)」に次のように記している。
「由緒あるすべてのファサードとモニュメントである石は、我が国の歴史だけでなく、科学や芸術の歴史をも物語っている」
この文章が説明するかのように、4月15日に起きた火災の直後から、ファッション界の人々がインスタグラム上で悲しみや想いを綴った。ナオミ・キャンベル、カーラ・ブルーニ=サルコジ、クレア・ワイト・ケラー、アンソニー・ヴァカレロ、ニコラ・ジェスキエールなど著名な人々が灰と化したフランスを象徴する建築物に涙を流した。
LVMH会長兼CEOのベルナール・アルノー氏とケリング最高経営責任者のフランソワ・アンリ・ピノー氏はその再建費用の寄付を表明した。(2社で330億円以上)
ファッション界もノートルダム大聖堂の再建も、ともに高い創造性により、エターナルで大胆な美しさを追い求めていく。
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texte : Violaine Schütz (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi