パリ・オペラ座の次世代を担う、ジュニアバレエとアカデミーの世界。

Paris

バレエにおいても歌劇においても、伝承・養成・創造を使命としているパリ・オペラ座。11年前にアカデミー、2年前にジュニアバレエが創設され、若い世代に向けた取り組みが活発に行われている。


Le Junior Ballet

ジョゼ・マルティネス芸術監督(右端)と、今期のジュニアカンパニーメンバー。上段左から、Laure Ravera、Natalie Vikner、Emryck Sanchez-Raffy、MattVuaflart、Shani Obadia、Carlo Zarcone、Giovanni Bellucci、Tiziano Cerrato、
Grace Boyd、Ève Belguet、Davide Alphandery 中段左から、Hyuma Gokan、JacksonSmith-Leishman、
Camille Couton、India Shackel、 Angélique Brosse、Lucia Abril Marcucci、Mei Matsunaga、Typhaine Gervais、
Isaac Petit 下段左から、Anastasia Gallon、Jaime Almaraz Baizán、Santiago SalesManzanera、Nuria Fernandes

2024年9月、パリ・オペラ座にジュニアバレエ団が誕生した。創設の発表から間もなく、突然出現といった感もあれば、その存在すら知らない人もまだまだ多い。思えばハンブルク・バレエ団にも英国ロイヤル・バレエ団にもユースカンパニーがあるのだから、パリ・オペラ座においても不思議なことではない。

「22年に芸術監督に志願した際、オペラ座への提出書類の中にジュニアバレエについても企画を出しました。でも、このプロジェクトは僕の就任する以前からあったものなんです」と語るジョゼ・マルティネス芸術監督。その実現にはシャネルの存在が大きい。ジュニアバレエの創設メセナであり、現在でもその支援は続いている。

「この設立にはふたつの目標があります。まずは学校とカンパニーの架け橋となること。学校を卒業しても、全員が入団できるわけではありません。それで2年間ジュニアバレエで彼らを入団に向けて鍛えるのです。もうひとつは将来コール・ド・バレエに入るダンサーのプロフィールを多様化させるためです」

24名のジュニアカンパニー、入団チャンスは23歳まで。

年齢は採用試験の時に18~23歳であることが条件だ。団員定数は24名で、契約期間は2年に限定されている。これは組織の行政上の理由からだという。発足に際して、24年7月のカンパニー入団試験の際に、第1期として男女9名ずつ合計18名が採用された。定員中の残る6名を翌年、第2期採用する予定でのスタートだった。実際は18名中の3名が25年にカンパニーの契約団員になったことから、9名を補充して定員数を守っている。24名の出身地はフランス、イタリア、ポルトガル、ニュージーランド、アルゼンチン、オーストラリア、アメリカと国籍は実にさまざまだ。これについてジョゼはこう教えてくれた。

「オペラ座のバレエ学校出身者以外でも、素晴らしいダンサーがいます。そんな彼らを逃すのは残念でしょう。ジュニアバレエでフレンチスタイルをマスターしたら、彼らにも入団のチャンスがあるわけです。こうしたダンサーが入団することによって、カンパニーはより豊かになります。現在のオペラ座バレエ団はピエール・ラコットも踊れば、ホフェッシュ・シェクターも踊るカンパニー。現存の振付家たちは自分の作品に異なるプロフィールを求めるものです。このようにオペラ座バレエ学校とは異なる養成を受けたダンサーたちの存在は、振付家たちにはとても興味深いものとなるのです」

バレエ団の団員たちにとってもジュニアの存在はポジティブに機能しているそうだ。古典大作など人数を必要とする公演でコール・ド・バレエの代役を行うのも、彼らの活動のひとつ。そんな時、クラスレッスンやリハーサルで団員は彼らの仕事ぶりを目にする機会がある。入団したい意欲満々のジュニアたち。中には団員並みのキャパシティの持ち主もいるとなれば、刺激であり、同時にちょっとした脅威でもあろう。

プログラムは最初の2カ月が養成期間、その後はジュニアバレエ団としてフランスの地方都市と海外で公演を行う。24年12月から今年5月までの間に国内外合わせて29カ所で59公演を開催し、3万5千人の観客を動員したそうだ。カンパニーが行けない土地へ出向く彼らのステージを求める声は増えるばかり。1年目はジュニアバレエ団は学校寄りという位置付けで進めていたが、プロのダンサー養成が目的ゆえにカンパニー寄りへと2年目に軌道修正された。

ジュニアバレエ団が踊るレパートリーも徐々に増えつつある。ジョージ・バランシンやモーリス・ベジャールの作品、さらに最近では『ドン・キホーテ組曲』が加わり、ルドルフ・ヌレエフ作品にも取り組んでいる。

ジョージ・バランシン振付『Allegro Brillante』©Julien Benhamou/ OnP
モーリス・ベジャール振付『Cantata 51』©Julien Benhamou/ OnP

毎回フィナーレで踊られるジョゼが創作した『ミ・ファヴォリータ』は、配役漏れで何も踊れないダンサーが出ないように、踊るダンサーの数をフレキシブルに調整できることを意図して加えたという。

ジョゼ・マルティネス振付『Mi Favorita』©Julien Benhamou/OnP

また公演オーガナイザーの希望から、彼らのための創作作品も生まれてる。今シーズンの開幕ガラでは初年度にアナベル・ロペス・オチョアによって創作された『Requiem for a Rose』が上演された。彼らは来シーズンの1月に初めてガルニエの舞台で5作品の公演を行うが、そこではアナ・ホップによるふたつ目の創作が披露される。

「新作ですから過去に誰も踊ったことのない作品を彼らは振付家とともにスタジオでクリエイトするのです。アナ・ホップはポアントというクラシックの言語で踊る現代作品を創作します」とジョゼ。

少額とはいえ給与が出て、素晴らしい環境と国内外での公演という貴重な体験が可能なジュニアバレエ団。2年後も残りたいと願うダンサーがいるのも不思議ではないだろう。この7月に第1期の15名の2年契約が終了する。彼らの未来は? 入団試験の結果、カンパニーの団員あるいは契約団員、もしくは……。

アナベル・ロペス・オチョア振付『Requiem for a Rose』©Maria-Helena Buckley/ OnP

2年契約が終わり、第1期ダンサーが旅立つ。

「昨年末頃から他所のカンパニーのオーディションが受けられるようディレクターにコンタクトを取り、すでに2名の行き先が決まりました。オーディションに受かったけれど、オペラ座の入団試験の結果次第でというダンサーもいます」

外部入団試験は7月1~2日に行われる。15名の中からぜひ入団者を!と願うジョゼ。芸術監督でありながら、彼らの親のような気持ちもあるのだろう。この2日の試験とその前の内部入団試験の結果、ジュニアバレエに新たな15名が入れ替わりで加わることになる。

  • editorial direction & text: Mariko Omura 
  • editing: Eri Arimoto

*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋