マチュー・ガニオが語る、特別な『ル・パルク』映画館上映への思い。

2演目からなる『パリ・オペラ座 IN シネマ 2026』。1月の 『くるみ割り人形』に次いで3月13日から1週間、振付家アンジュラン・プレルジョカージュが1994年にパリ・オペラ座のため初めて創作した『ル・パルク』が上映される。収録されたのは2021年3月。ロックダウン期で封鎖中のオペラ・ガルニエにて、撮影は無観客で行われた。主人公を踊るのは、2013年にこの作品を踊ってエトワールに任命されたアリス・ルナヴァンと、創作ダンサーのローラン・イレール同様にノーブルで妖しげな色香を漂わすマチュー・ガニオという、これ以上は望めないという素晴らしい組み合わせである。

フランスでの上映は3月15日。そのためのパリ・オペラ座によるプロモーションビデオは39秒と短いものだが、作品の魅力とマチュー・ガニオの美しさが確認できる。

---fadeinpager---

17〜18世紀の貴族社会の恋愛遊戯

タイトルとなっている''ル・パルク''とは宮殿の庭園である。フランスの17〜18世紀の貴族たちにとって、隠れられる木陰や迷路のある庭園は格好の逢引の場所。そこを舞台に、幕間なしに続く約140分のバレエ作品なのだが、''フライング・キス''の別称で有名な最後のパ・ド・ドゥがあまりにも有名なため、『ル・パルク』というとそれはイコール、シンプルな寝巻きを着た男女のダンサーが裸足で回転する''解放のパ・ド・ドゥ''と思っている人が多いようだ。世界各地のダンスのガラで必ずと言っていいほどプログラムに含まれる人気演目として、このパ・ド・ドゥは全幕から飛び出してひとり歩きしている感がある。マチュー・ガニオも今年に入ってからすでにカンヌとパリ郊外で開催されたガラでこれを踊っているのだが、「確かにこれは強い印象を残す振り付けですね。シンプルでとても美しい。でも『ル・パルク』というのは多くが盛り込まれたとても贅沢な作品なので、このパ・ド・ドゥに作品が要約されてしまうのはとても残念!」と語り始めた。

「この作品はパリ・オペラ座のレパートリーにおいて大切な作品のひとつです。フランス人振付家のアンジュラン・プレルジョカージュがパリ・オペラ座のために、17〜18世紀を舞台に愛をテーマに創作しました。登場するのはこの時代らしく、放蕩主義者(リベルタン)。18世紀というのはフランスの栄光の時代で、世界の中でも輝いていた時代です。恋愛のコード、18世紀ならではの軽薄さ......この作品の物語を作り上げているこうした要素はこのパ・ド・ドゥでは見ることができませんね。それに庭師たちのコンテンポラリーな面も。18世紀風の素晴らしいコスチューム、庭園を想起させる舞台装置、そして、この作品に大きな効果を作り上げているコール・ド・バレエのアンサンブルなど見どころの多い作品なんですよ」と18世紀のファンでもある彼は、ぜひ映画で作品の全てを見て欲しいと願っている。

260311_leparc_06.jpg
時代背景となる17〜18世紀の宮廷着。パリ・オペラ座のコスチューム部門の見事な仕事だ。©Yonathan Kellerman/OnP

260311_leparc_14.jpg
軽い恋愛を拒む女性とリベルタンな男の出会い。©Yonathan Kellerman/ OnP

260311_leparc_04.jpg
革のエプロンをつけた4名の庭師。翼はないけれどキューピッド役を果たす。©Yonathan Kellerman/ OnP

---fadeinpager---

作品中踊られる3つのパ・ド・ドゥは「出会い」「抵抗」「解放」とそれぞれ呼ばれている。『ル・パルク』は愛を拒む女性主人公の気持ちの変化の物語で、この命名は女性側からのもの。リベルタンな男性側からすると、どう表現するのがいいのだろうか。

「最初の''出会いのパ・ド・ドゥ''では、男性においては、彼女は自分に関心を抱くのだろうかと様子を見ます。発見もあります。そうですね、''観察のパ・ド・ドゥ''と呼ぶのがいいでしょうか。この時代の貴族社会では物事を軽く捉え、愉しみを大事に考えていて、彼もそうしたひとりなんです。2つ目の''抵抗のパ・ド・ドゥ''は男性にとっては、彼女を陥落させることができるか一種の試練の時というか戦いの時というか......。''誘惑のパ・ド・ドゥ''かな。3つ目は勝利と言ったら強すぎる。''成果のパ・ド・ドゥ''と言ったらいいだろうか。ひとつの言葉で表現するのは難しい。ふたりがここで愛し合っているなら''満足のパ・ド・ドゥ''とも言えるかもしれない。このパ・ド・ドゥにおいて女性は抵抗をやめ、男性に身を任せてきます。同意あっての愛撫であり、彼女は心からそれを望んでいる。ここでは女性に対して男性も誠実な気持ちで向き合っています」

3つのパ・ド・ドゥではふたりの間の愛の進行に合わせて、衣装が徐々に薄くなってゆく。振り付けも心の距離に身体の距離が合わされている。その中で印象的なのは、何度か繰り返される左右の手首の内側をすり合わせる動きだ。これはセンシュアリティの表現でもあり、またこの時代は香水を手首につけていたこと、そして当時の衣服の袖との関係などから生まれた動きだそうだ。

260311_leparc_02.jpg
出会いのパ・ド・ドゥより。ほかの女性たちと違い、彼女は軽い恋愛は望んでいない。©Yonathan Kellerman/ OnP
 
260311_leparc_05.jpg
遠心力の魔力が観客の目に焼きつく、解放のパ・ド・ドゥ。©Yonathan Kellerman/ OnP

---fadeinpager---

クラシックバレエ・ファンも満足

''解放のパ・ド・ドゥ''がシンプルなコスチュームと裸足であることから『ル・パルク』をコンテンポラリー作品と思い、敬遠してしまうクラシックバレエのファンもいるのではないだろうか。確かにコンテンポラリー作品で知られるアンジュラン・プレルジョカージュであるが、これは彼の振付け作品の中ではかなりクラシックに近い作品である。

260311_leparc_08.jpg
純クラシック作品ではないが、彼のダンスの特徴である優雅さが大きくものを言う作品だ。©Yonathan Kellerman/ OnP

「プレルジョカージュはクリエイションをするにあたり、クラシック・ダンスに背を向けていません。何か現代的なものに向かうため、クラシックを役立たせているのです。フランスの18世紀を忠実に再現するのではなく、音楽はモーツァルトを使いつつ、同時にコンテンポラリーな音楽も使用しています。フランスではクラシック派かモダン派かどちらかを選べ、という傾向があるけれど、彼は伝統的なことを役立たせつつ、物語にモダニティを取り入れています。この考え方は日本の人々には理解しやすいものではないでしょうか。また僕が思うに、この作品に日本人がフランスに抱くビジョンが見いだせるのではないかと。ルイ14世、18世紀、シャトーなどフランスの偉大な世紀を代表する多くが込められています。これはフランス好きな日本人には興味深い部分ではないでしょうか」

260311_leparc_11.jpg
庭園の樹々をイメージした舞台装置。重いドレスを脱いだ女性たちに男性がジョイントし、愛の世界が繰り広げられる。©Agathe Poupeney/ OnP

---fadeinpager---

まるでハイクオリティな映画作品!

バレエ公演を撮影した映画を語る際、劇場で見ているような臨場感が得られる、と表現されることが多い。しかし、この『ル・パルク』はそれ以上。客席に座っていても見ることができないアングルからの映像も含まれているのだ。

「ライブ中継など映画館で上映されるための舞台の撮影って通常すごくストレスがあります。でもこの時の撮影は無観客で、すごく時間をかけて行われたんです。ステージ上でアンジュラン自身がカメラマンの後ろにいて指示をして、といった感じに、舞台公演を単に正面から撮影して中継するというのとは違っていました。素晴らしい結果の映画となることを追求したもので、信頼の置けるものでした。この公演が撮影されたことに僕はとても満足しているんです。引退した僕には二度とないことだし、それにたとえば『白鳥の湖』の公演も収録されたけれど、でもそれから間もなく別の配役でこの作品が何度か収録されたので僕のは過去のものとなっています。それに対してこの『ル・パルク』はパリ・オペラ座のアイデンティティとして残っているので、おかげで引退後の僕もオペラ座の''いま''でいられるんです。しかも、とてもハイクオリティな作品で! 最高です。もうひとつ言えることは、このように全幕を踊る機会は僕にはもうないので、その喜びが映画のおかげで延長されるような気もして......。いまのところ踊る予定がない日本でこの映画が上映されるというのは、長いこと僕を応援してくれている人たちとスクリーンを介して繋がれる機会でもあるのでとてもうれしいです」

260311_leparc_09.jpg
プレルジョカージュはパリ・オペラ座のための初創作ということで、カンパニーの起源となるルイ14世の時代に題材を求めた。©Yonathan Kellerman/ OnP

260311_leparc_15.jpg
長さも構造もガラ公演向きに作られている解放のパ・ド・ドゥ。©Yonathan Kellerman/ OnP

---fadeinpager---

4月、ガルニエ宮の舞台で踊る

昨年のアデュー公演後、どう過ごしているのだろうか。彼は国内外いくつかのガラに参加している。またアデュー公演後のパーティでジョゼ・マルティネス芸術監督がなんとなく彼のパリ・オペラ座での活動が続くことを匂わせたのだが、そのひとつはイタリアツアーに引退したリュドミラ・パリエロとともにステージに立ったことだ。そしてもうひとつは、4月にクレールマリ・オスタの創作による学校公演『星の王子さま』で飛行士役をパレ・ガルニエで踊ることである。

この夏は過去に何度か公演を行った演劇作品である『Le rappel des oiseaux』で、アヴィニョン演劇祭オフに参加する。彼の友人が演出した作品だ。

「でも俳優になろうとしているわけではないんですよ。もちろん扉を閉ざすつもりはないけれど、この世界に入り込もうという努力はしません。自分がその高みにないことはわかっているので。これは現役中には時間的に無理だったけれど、いまなら、ということで演劇の世界では重要なフェスティバルでもあることだし、と参加を決めました。やるからには上手く行くように願っています。僕だけでなく友人やそのほかこのプロジェクトに関わる人のためにも」

それまではオペラ座が決めるスケジュールに沿った毎日を長く過ごしてきたのだが、いまは自分でスケジュール管理を行っている。自分で自分のすることを決める快適な面がある一方、コスチュームの手配、リハーサルスタジオの手配といったこともする必要があり......。

「オペラ座時代はそうしたことから守られていたから、大変さがわかってなかった。それにもうじき楽屋も出なければならないので、いろいろなことがもっと難しくなりますね。でもこの1年はオペラ座時代はできずにスタンバイさせていたプロジェクトに取り組めています。友人で振付家のステフェン・ドゥラットルからもずっと創作をしたいと言われていたけど時間が捻出できずにいて......つい最近実現したところです。2作品あって、ひとつはソロ、もうひとつは妹のマリーヌ(オペラ座プルミエール・ダンスーズ)とのデュオ。このように、自分のキャリアやギャラ云々ということではなく、やりたかったけれどできなかったという主に友人関係のプロジェクトに関わることができました。この1年はオペラ座から将来への過渡期のようなもので、この秋から本格的に次なる道を築く方向へと舵を取ります」

パリ・オペラ座 IN シネマ 2026 バレエ『ル・パルク』
3月13日(金)〜3月19日(木) TOHO シネマズ 日本橋ほか1週間限定公開
https://tohotowa.co.jp/parisopera/

音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
舞台デザイン:ティエリー・ルプルースト
衣裳デザイン:エルヴェ・ピエール
照明デザイン:ジャック・シャトレ
演奏:パリ・オペラ座管弦楽団
指揮:ベンジャミン・シュワルツ
ピアノ:エレナ・ボネイ
映像監督:ルイーズ・ナルボニ

【出演】
アリス・ルナヴァン
マチュー・ガニオ

 

editing: Mariko Omura

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
2026AW Collection
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.