南カリフォルニアで数年に一度開催される「PST ART」は地元の美術館や画廊、文化施設、芸術家が多数参加する大型芸術プログラムだ。今回のテーマは「アート&サイエンスの衝突」で70以上の展示やイベントが行われてきた。その一環としてアカデミー賞の母体である映画芸術科学アカデミーのミュージアムでは特別展「サイバーパンク:映画を通じて想像する未来の可能性」を4月12日まで開催中だ。
「サイバーパンク」とは近未来のディストピアを舞台に、腐敗した権力や暴走する技術に立ち向かう反抗的な主人公を中心に展開するSFのサブジャンルのこと。映画好きの多いLAではめずらしくない言葉だ。映画なら『ブレードランナー』や『マトリックス』、『攻殻機動隊』などがジャンル代表作と聞けば馴染み深い。

特別展ギャラリー入り口ではマトリックスを彷彿するネオンサインと18作品のポスターでサイバーパンクの世界へ誘う。
アカデミーミュージアムで人気の展示の肝はダークな吹き抜けの展示室でプレイされる映画監督・脚本家アレックス・リベラによるマルチメディアインスタレーションだ。暗いギャラリーにはサイバーパンクの世界が創造され、入った瞬間からイマーシブなマルチスクリーンでループするモンタージュ映像とナレーションに没入する。前述の名作を含む数多くの映画から抜粋された映像がサイバーパンク映画の起源と歴史、映画と現代社会の関連性を描き、さらにアフロやラテン、先住民族のフューチャリズム描写へのスポットライトも興味深い。映画が示唆した実社会の課題と方向性、疑問を感じる体制やブラックボックスで開発される技術への反発に人間はどう反応してきたのか。実世界と映画の中の近未来はどこまで似ているのか。私たちも混乱する社会でサイバーパンク的に立ち向かうことになるのか。現代社会と未来の境界が揺らぐ映画は何を意味するのか。暗闇で映画とともにサイバーパンクの旅に出る感覚だ。
展示空間には『ブレードランナー』の電話ブースや『トロン』のマスク・衣装などサイバーパンク映画に使われた美術道具やコンセプト画の展示もあり、ファンにとっては懐かしい想いも新しい発見もある。
閲覧を終えたら、ミュージアムショップで展示カタログを手にとって欲しい。また特別展のオリジナルグッズにはミュージアムからすぐ近くにショップやカフェを構える人気ブランドのブレインデッドがデザインを担当した限定商品もある。『マトリックス』の登場人物や白いうさぎなどをグラフィックにした商品はミュージアムショップで限定販売中。


>>ミュージアム特別展特設サイト(Cyberpunk: Envisioning Possible Futures Through Cinema)
photography: Photo: Cyberpunk: Envisioning Possible Futures Through Cinema, AcademyMuseumof Motion Pictures. Photo by: Josh White, JWPictures/©Academy Museum Foundation

稲石千奈美
在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。