ネイルアーティストMiho Okawaraが描く、日本のネイリストの未来。【女の生き方、働き方】

Society & Business 2026.03.19

自らの感性を大切にしながら働き、暮らすことをとおして、より良い未来を築いていくーーそんな女性たちが紡ぎ出す印象的な言葉とともに、さまざまな働き方と生き方の物語を紹介します。

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ロサンゼルスを拠点に活動する日本人ネイルアーティスト、Miho Okawara。ネイルアーティストという存在が当たり前ではなかった異国の地で、「ジャパニーズネイルアート」という言葉と価値を築き上げ、レディー・ガガやビヨンセをはじめとする世界的アーティストのネイルを手がけてきた。

華やかな実績の裏で一貫して見つめてきたのは、ネイルという仕事の在り方そのもの。いまMihoが描く未来は、個人の成功にとどまらず、"日本のネイリストの地位向上"という、業界全体を射程に入れたビジョンだ。

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Miho Okawara:専門学校卒業後、東京の⼤型ネイルサロンに就職し、⼊社後すぐに副店⻑として抜擢、PR部署の設⽴とプレス統括を担当。2012年海外初店舗のネイルサロン立ち上げ責任者として渡米。クオリティの高さが評価され、セレブたちが訪れるサロンへと成長させる。14年に独⽴、出張型のネイルサービスをスタート。現在はLAを拠点に日本でも精力的に活動。25年3月にはオリジナルプロダクト「LaShade」をローンチし、25年末に表参道にネイルサロンをオープン。セレブリティ顧客にはレディ・ガガ、ビヨンセ、マイリー・サイラス、ジェイ・Z、ジェフ・ベゾスなど。https://lashadenails.com/

愛知県岩倉市で生まれ育ち、幼い頃からの憧れだったという東京で、ネイリストとしてキャリアをスタートしたMiho。「海外に出ることなんてまったく考えていなかった」と話すが、2012年、LAのネイルサロン立ち上げに参加する話が舞い込んできた。

「最初は迷いました。英語も話せないし、海外に行くなんてあり得ないでしょって」

しかし、日本のネイリストの技術を世界に広げるという話を重ねるうちに、自分は本当はどうしたいのかがはっきりしてきた。そして2時間の対話の末に、LA行きの決断。持ち前の行動力とフットワークの軽さが、人生を大きく動かした。

「この先の数年どんな人生を送るかは想像がつく。人生一回しかないんだから、じゃあ、先のわからない人生を歩んだ方が楽しいだろうなって思ったんです」

LAでの生活は、刺激的であると同時に厳しさも伴った。多様性と自由さに惹かれる一方で、文化や常識の違いに戸惑い、自分の価値観が通用しない場面にも何度も直面。日本では共有されている"当たり前"が通じない環境で、Mihoは自分自身の物差しを問い直すことになる。

「日本は島国で、ある程度同じ教育や常識が共有されている素晴らしい国。でもLAは、隣の町どころか道を一本挟むだけで、育った環境も宗教も価値観もまったく違う人たちがいる。その中で自分の"当たり前"を押しつけていたことに気付いたんです」

相手を知ろうと学び続けることで、少しずつ他者との距離感を掴んでいった。

LAでオープンしたネイルサロンの価格設定は、周囲の店の倍。それでもクライアントが離れなかったのは、日本のネイルアートが持つ精緻な技術力と、"ネイルアーティスト"としての矜持を明確に打ち出したから。ファッションの一部としてのネイル。その位置づけは、セレブリティたちの共感を呼び、口コミとリピートによってサロンは成功を収めていった。

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サロンを持たないため、ネイルグッズは常にキャリーケースに入れてすべて持ち運ぶ。クライアントの要望に応えるうちに道具は増え続け、いまでは小物は1000点を超えるという。

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「キャリアか、家庭か」という二項対立を超えて。

2014年、サロンを構えるのではなく、セレブリティや富裕層を対象とした出張型のネイルサービスという形での独立を選んだ。前職との信頼関係を大切にし、既存顧客に頼ることなく、ゼロから再スタートを切った。

「自分が個としてどこまでできるのかは、正直ずっと試してみたかったんです」

そう語る彼女の選択は、無謀さではなく、本物の技術力と築き上げてきた自信に裏打ちされている。

一方で、家族や周囲を巻き込み続けてきたとMihoは振り返る。

「迷惑をかけることは正直たくさんあると思います。振り回していることもいっぱい。でも、『当たり前でしょ、やってよ』という態度は絶対にとらない。きちんと感謝とリスペクトがあれば、迷惑って、自分が思っているほどそうじゃなかったりするんじゃないかなって。いつか絶対に恩返しできればいいーーそんな気持ちでやっています。

クライアントに対しても同じ。もちろん、指名してくれている以上、ボスはボス。でも上下ではなくて、お互いをリスペクトする関係性を築けていると思います」

独立後、もっとも忙しい時期に、3人の娘の母にもなった。出産前日まで仕事を続け、産後も1〜2週間のうちに復帰している。無理だという感覚はなく、産後を気遣う周囲からのリスペクトを感じたからこそ仕事への意欲も失われることはなかったという。

ただし、家族を優先するために夜中の呼び出しは受けないなど、線引きも明確だ。

キャリアか家庭かーーという二項対立にMihoは与しない。

「みんな何かを諦めるというけど、本当にそうなのかな?って。それぞれ大事にしたいものが違うだけ。たとえば子どもとの時間を優先したいと思うなら、それは仕事を諦めたことにはならないと思います」

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LAで学んだウェルネスの観点を、日本へ。

アメリカを拠点に活動してきたMihoが、日本へ目を向けるようになったのは、コロナ禍でのインスタライブがきっかけだった。

日本のネイリストたちと交流する中で、業界の厳しい現状を知る。サービスの価格は10年以上ほとんど変わらず、多くのネイリストが疲弊している。海外で高く評価されているジャパニーズネイルアートを支える当事者たちが、報われていないことへの危機感が芽生えた。

「アメリカの撮影現場では、以前は"ネイルアーティスト"は当たり前ではなかった。でもいまや、ヘアメイクやスタイリストと同じように必要な存在だと認識してもらえるところまで持ってこられた、という自負がある。予算もきちんと割いてもらえるようになりましたし、ギャラも上がった。

一方で、日本には本物の技術を持ったネイリストがたくさんいるのに、稼げていないなんて。稼げていなかったら憧れの職業にならないし、地位向上にも繋がらない」

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アセトンを使わない、爪を削らない、ダストを出さず身体被害を極限まで減らした美容液でオフできる新世代ウェルネスネイル「LaShade」。

そこで2024年から、オンラインスクールをスタート。技術だけでなく、「ネイルアーティストとして、自分はどうありたいのか」を問うマインド教育も徹底した。

さらに数年をかけて開発したのが、ウェルネスジェルブランド「LaShade(ラシェード)」だ。アセトンを使わず、爪を削らない。ネイリスト自身の職業寿命も守る設計は、LAで触れてきたウェルネス意識の結晶でもある。セレブリティたちから学んだ価値観を、日本へと持ち帰る試みだ。

「向こうでは、セレブかどうかに関係なく、ウェルネス意識がとても高い。どんなジェルを使っているのか、リムーバーはノンアセトンか、ブラシは何の素材かーー自分の皮膚に付けるもの、口に入れるものを全部を理解して選んでいる。その姿勢が、本当に美しいと思ったんです」

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日本のネイルアーティストの地位向上を目指して。

2025年末には、東京にラシェードのフラッグシップサロンをオープン。メイド・イン・ジャパンの技術と思想を軸に、日本のネイル業界全体を底上げしていく構想を描いている。

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世界基準の施術・製品・サービスを提供する国内初の旗艦店「LaShade Nail Studio Omotesando」。サロンを訪れると、アセトンやシンナー等の特有の匂いがまったくしないことに気付く。

「ネイル業界の需要が伸びて、ネイリストの地位が向上したと満足できるまでを10年でやりたいと思っています。目指すものが大きければ、そこへ辿り着くまでに出会える景色も、人も増えていく。だから私は、常に大きな目標を持ち続けています......まあ、これもエゴなんですけどね。私って欲求の塊なんです(笑)」

そう大きく笑うMihoの根底には、周囲へのリスペクトが根を張っている。

「本当に、人に恵まれて、支えてもらってきました。ラッキーすぎるくらい。だからこそ、ちゃんと返していきたい」

個の成功では終わらせない。彼女が見据えるのは、ネイルアーティストという仕事が正当に評価され、憧れの職業として次の世代へと手渡されていく未来だ。

その景色を目にするまで、彼女の挑戦は続いていく。

私のお仕事道具。
仕事用のバッグとトランク。
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中にはネイルグッズがぎっしり。ネイルアートのデザインが当日現場で決まるため、クライアントの要望に応えるためにフル装備。

「アメリカ国内での移動も日本に来る時も、もうひとつのトランクと一緒に持ち歩いています。全部合わせると50kgは超えるのでいつも超過料金ですね」

photography: Mari Hamada text: Kaoru Ueno(Routusworks)

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