パリ・オペラ座バレエ団、エトワールたちが来日! 『エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス』にかける熱きメッセージを独占公開。
パリ・オペラ座バレエ団のエトワールたちが今夏、東京の舞台に集う。『エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス』を企画・演出するのは、同団の名教師ジル・イゾアール。出演する11名の多くは彼が長年ともに歩んできた教え子たちだ。華やかな舞台の背後に息づく深い師弟の物語に迫る。
Spectacle de Gala d’Été

パリ・オペラ座バレエ団のバレエ教師として、またパリ国立高等音楽・舞踊学校の教授として、数多くのスターダンサーを育んできたジル・イゾアール。
「バレエに関わるすべてが好き」と静かな情熱を湛える彼に、指導者としての醍醐味を尋ねると、教えにおいて大切にしていることを挙げてくれた。
まずは、ダンサーたちと同じ時間を共有し、ひとつのコミュニティの一員としてダンスを創り上げていく喜び。それから、自らを導いてくれた恩師たちから受け継がれてきた知識や伝統と常に繋がっているという実感。そして大好きな音楽と深く関わり合えることだ。一見、日々のレッスンは単調な繰り返しに思えるかもしれない。しかし彼は「そこには創造性を加える余地がいくらでもある」と伸び代があることを指摘する。ひとりひとりを注意深く観察し、最適なアプローチ方法を模索することは、彼の性分に合っていた。
「私はよく自分を医師になぞらえます。目の前のダンサーに必要な解決策を考え、新たな戦略を練りながら、目指すべきゴールへと導いていく。そのプロセスに大きなやりがいを感じるのです」
バレエ教師として彼がとりわけ魅力を感じているのは伝統との繋がりだ。フランスのバレエメソッドの源流は、太陽王ルイ14世が創設した王立舞踊アカデミーにまで遡る。
「何世紀にもわたり花を咲かせ、実を結び続ける大樹のような存在です。同時にそれは、若い世代の瑞々しいエネルギーによって絶えず刷新される『生きた伝統』でもあります」
では、彼が人生を捧げるフランス派のバレエの本質とは、どのようなものだろうか。
「ひと言で表すなら、純粋さ、エレガンス、そして線の調和です」
彼はその美学を説明するために、アンドレ・ル・ノートルが手がけたヴェルサイユ宮殿の庭園を引き合いに出した。あの庭園に息づく幾何学的な調和の原理は、バレエの腕の上げ方ひとつにも通じているという。さらに、膝下の軽快な足さばきや、空中で両足を細かく打ち付けるジャンプの躍動感。音楽と一体となって弾ける素早い足先の動きに、フランス派ならではの美意識が宿る。
そこに上半身の豊かなエポールマン(肩と首の傾き)が融合することで、唯一無二のエレガントな身体表現が生まれるのだ。また、彼が優れたダンサーに求める条件は技術の先にある。
「まず必要なのは、物事を深く見つめようとする知的好奇心と、自ら経験しようとする探究心。そのうえでさまざまな状況に柔軟に対応できる適応力、そして音楽性と表現力」なかでも彼が重んじるのは、その瞬間ごとに存在感を発揮する適応能力だ。
「感じられなければ何も伝えられません。どれほど深く感じ取れるか。そこが卓越したダンサーを分ける境界線なのです」
エトワールからコリフェまで、11名の愛弟子を選出
今回の公演に集う11名についてジルは「ひとつの家族のようなもの」と紹介する。選考基準は、彼が理想とする“ダンスの精神(エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス)”を共有できること。エトワールからプルミエ、スジェ、そしてコリフェまで、階級や世代を超え、「芸術的な要求にこたえられるか」を基準に選ばれた精鋭たちだ。

「踊ることへの情熱、仕事への真摯な姿勢、そして舞台への愛を分かち合える仲間です」
プログラムには、古典の名場面とともに、自身が振り付けた作品も含まれる。伝統の継承者であると同時に、新たな創り手でもある彼の現在地がここに示されている。
最後に、日本の観客に向けてフランスの思想家アンドレ・マルローの言葉を借りた詩情豊かなメッセージがジルから寄せられた。
「さまざまな名画が並ぶ“生きた美術館”のような公演です。伝統から受け継がれた作品と新たな創作が織りなす情景を、旅するように楽しんでほしい。ぜひ心を開いて“ダンスの精神”に触れていただきたいのです」
名ダンサーの陰に名教師あり──その言葉の真意をこの夏、体感することになる。
![]() ポール・マルク (エトワール) | ![]() ドロテ・ジルベール (エトワール) |
![]() ブルーエン・バティストーニ (エトワール) | ![]() ギヨーム・ディオップ (エトワール) |
![]() イネス・マッキントッシュ (プルミエール・ダンスーズ) | ![]() カン・ホヒョン (プルミエール・ダンスーズ) |
![]() フランチェスコ・ムーラ (プルミエ・ダンスール) | ![]() エンゾ・ソガール (スジェ) |
![]() ロレンツォ・レッリ (スジェ) | ![]() シェール・ワグマン (コリフェ) |
![]() リュシアナ・サジオロ (コリフェ) |

ジル・イゾアール
Gil Isoart
ニース出身。パリ・オペラ座バレエ団の元ダンサーで、現在は同団のバレエ教師やパリ国立高等音楽・舞踊学校の教授を歴任。後進の育成に力を注ぎながら振付家としても活動。
『エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス』
Aプロ
8月19日(水)19:00~/8月20日(木)19:00~
演目:『3つのプレリュード』『ベルガマスク』『ドリーブ組曲』『パピヨン』、『海賊』よりパ・ ド・ドゥ、『ドン・キホーテ』より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ、『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』『パリの炎』『ランデ・ヴー』、『白鳥の湖』より第3幕の黒鳥のパ・ド・トロワ。
Bプロ
8月21日(金)19:00~/8月22日(土)12:00~/8月22日(土)17:00~
演目:『ラ・バヤデール』第1幕より、『ジゼル』第2幕より、『スカルラッティ・パ・ド・ドゥ』、『眠れる森の美女』より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ、『さすらう若者の歌』、『くるみ割り人形』より第2幕のグラン・パ・ド・ドゥ、『クラリネットとピアノのための幻想曲』、『海賊』よりパ・ド・トロワ、『タリスマン』より、『瀕死の白鳥』『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』
会場:昭和女子大学 人見記念講堂
https://www.nbs.or.jp/stages/2026/esprit/
NBSチケットセンター
03-3791-8888
- photography: James Bort (portrait)
- coordination & text: Eri Arimoto
*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋










