平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回は不条理、目を背けたいのに止まらない、Netflixで配信開始前から話題騒然のリーガルドラマ『九条の大罪』。
ドラマ『九条の大罪』(Netflix)が配信中だ。全編を観終えて残った余韻は"視聴者への警鐘"だった。これから多くの人の目に触れるであろう本作において、観逃してほしくない視点について綴っていこう。
本作は大まかに表すのなら、リーガルドラマ。原作者は『闇金ウシジマくん』で知られている真鍋昌平氏で、反社会らの案件を主に扱っている弁護士・九条間人を中心に全10話で構成されている。九条役を柳楽優弥、ともに働く東大卒のエリート弁護士・烏丸真司役は、松村北斗(SixTONES)が演じている。
物語の序盤はモヤモヤした。「悪徳弁護士」といわくつきの九条が担当する案件では、法律を武器に加害者たちが救われて、被害者が煮え湯を飲まされる場面があったからだ。いくつかのドラマで見かけている、頭でわかっているような展開。でもあまりの理不尽ではないかと、自分の中の正義心が顔を出す。
腑に落ちないまま、スピーディーに物語は進んでいく。半グレやヤクザたちが次々にあらわれて、仲間の不祥事をもみ消すように九条へ依頼。輩は彼を「(自分たちにとって)なんて都合のいい人物!」と、次々に自分たちの日常=犯罪の隠蔽をゆだねてくる。これが物語のベースだ。
依頼を預かる九条はどんな案件もすべて33万円で引き受けるのがポリシーだ。あくまでも依頼内容に忠実に、平等に、貴賤には揺さぶられない。だから、あきらかな犯罪者とわかっていても「自分がやらなければ、誰かがやることになる」と、弁護をする。法律は盾にもなれば、武器にもすり替わってしまうことを、九条は弁護士バッジを持って証明していた。
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ほぼノンフィクションな、目を背けたくなる事件。
そんな九条が請け負う事案は、現代のいびつな日本の課題を浮き彫りにしていく。いくつか振り返ってみよう。ボンクラ息子が起こした飲酒運転事故の弁護を受けて、夫と息子の片足を無くした被害者女性に勝訴していた。これは観ているだけでも、歯がゆかった。
心身を自分でコントロールできない親子がいた。親子は悪人たちによっていいように扱われ、軽い知的障害を持つ息子の曽我部聡太(黒崎煌代)は、麻薬の運び屋にされていた。九条は聡太の弁護をするが、同時に聡太へ指示をした売人らも救ってしまう不条理もつきまとう。それでも弁護を続ける九条がいた。また近年、ニュースで問題を報道されがちな老人ホーム問題も登場していた。ただ一般的に聞くような「職員の暴行」といった類ではなく、経営背後に弱者を支配下にしていた悪人たちの姿があった。
ここに連ねたものだけではなく、ドラマにはいくつもの目を背けたくなる事件が重なる。ついバイオレンスな演出に消されそうになるけれど、それらは私たちの遠くにあるものではない。いつ何時、巻き込まれていくのか分からないノンフィクションだ。困ったときは法曹が味方になってくれるとどこかで安堵しているけれど、実はそうでもないと『九条の大罪』が訴えかけていた。
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「誰かを助けると、誰かを不幸にする」
全10話の中で、個人的には第7話がいちばん印象に残った。母親の内縁の夫から性暴力を受けて育ち、自分を見失い、クズ男と性産業にまみれていく笠置雫(石川瑠華)がいた。セクシー女優として誰かに必要とされていた自分は幸せで、居場所が欲しかったと雫はこぼしていたのには、思わず眉をひそめた。そんな雫の父親は、娘がセクシー動画に出演させられたと、訴えを起こそうとする。担当した人権派弁護士の亀岡麗子(香椎由宇)が雫にこう告げる。
「あなたまだ若い。なんだってできるの。生まれ変わったつもりで、自分のやりたい道を見つけて」
SNS上だけではなく、各所でフェミニズムを叫ぶ人たちが増えたけれど、この声は果たしてどこまでが正しいのかと、疑問に感じた。もちろん私も性産業に対して一切の賛成はしないけれど、雫のような意見が少なくないとも聞こえてくる。やたら反旗を翻せばいいものではないし、主張を大きくしても声が行き渡るものでもない。悲しいけれど、ふつうの言葉は通用しない。
お恥ずかしながら、私は興味があって法曹大学の聴講生になった経験がある。20代くらいから妙に正義感が強く自分が正しいのか、行き過ぎなのかが判断しづらくなっていた30代後半。ひょっとしたらメディアの仕事よりも向いているのかもしれないと、まずは勉強を試みた。授業はおもしろかったけれど、結果的にいまの仕事のほうが向いていると気づく。もし自分が法律に携わったら、善悪が表裏一体の正義を突き詰めて、自分の首を絞めることになる予感がしたからだ。もう忘れていた勉強の記憶がよみがえってきたのは、九条も、烏丸も、亀岡もそれぞれに法律、正義、平等と向き合って、苦しむシーンを観たせいだと思う。
「誰かを助けると、誰かを不幸にする」
劇中の烏丸のこのひと言が、苦しみを表していた。
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柳楽優弥、町田啓太らの演技の虜に
俳優たちの演技にも凄みが宿っていた。
まずは主演の柳楽優弥。彼の実力とはもう世間に周知されているけれど、本作での九条役もまた圧巻だった。最近ではドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系・2024年)の小森洸人役をよく覚えているけれど、柳楽の演技の少し溜め気味な息づかいが好きだ。その呼吸の向こうに演じている人物の怒りや迷い、これまで生きてきた背景など、いろいろな物語が見える。

九条に次々と厄介な事件を依頼する全身にタトゥーを入れた半グレの壬生憲剛役・町田啓太も注目だ。直近で『10DANCE』『グラスハート』などのNetflix作品に出演していたが、それまでの役とはまったく違う顔を見せている。俳優はそれが仕事なのだと言われるけれど、彼の場合は少し恐怖を覚えるほど、役柄に変化(へんげ)している。SNSで「町田啓太、医者の役が来たら本当に医師免許を取得しそう」という一文を見たけれど、本当にそうだと思う。町田の役に賭ける情熱はどれほどのものだろうかと、脳内を疑問が巡った。
そしてこういった硬派な作品で、目を向けてしまうのがNetflixのキャスティング力。「どこからこんな役者を......?」という、稀有な俳優を多く起用している。私がふだん、地上波の連続ドラマばかり観ているので、知識不足なだけだろうか。ひょっとしたら映画や舞台では、馴染み深い俳優陣なのかもしれない。とはいえ彼らの役に浸透しきったビジュアル、存在感、演技に目を見張る。本作でも何人か度肝を抜かれるようなバイプレイヤーが出演していたので、画面の脇に少し目を向けて見てほしい。
視聴後の興奮のままにつらつらと書いてきたけれど、これから『九条の大罪』の世界を体験する人の参考になれば幸いだ。視聴後、自分も九条と同じように罪を抱いたような気持ちになる感情をぜひ。

Netflixシリーズ「九条の大罪」
⚫︎原作/真鍋昌平『九条の大罪』(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)
⚫︎出演/柳楽優弥、松村北斗、池田エライザ、町田啓太、音尾琢真、ムロツヨシ ほか
⚫︎制作協力:TBSスパークル⚫︎製作著作:TBSテレビ
2026年4月2日(木)からNetflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81581947
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。




