平成から現在にいたるまで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファンなエッセイスト/編集者の小林久乃が送る、ドラマの見方がグッと深くなる連載「テレビドラマ、拾い読み!」。今回はNetflixで12月18日から配信となる映画『10 Dance』について。「じゃあつく」からの竹内涼真の変貌ぶりに......!
竹内涼真の演技の振り幅に感服
2025年末を締めくくるにふさわしい秀作が誕生した。それが映画『10DANCE』(Netflix)だ。
物語の舞台は厳しさと熱量を孕む、競技ダンスの世界。ラテン部門の日本チャンピオン・鈴木信也(竹内涼真)と、スタンダード部門の日本チャンピオンで世界2位の杉木信也(町田啓太)すべてが対極にある2人がぶつかり合い、惹かれ合いながら、総合力で最強のダンサーを決める競技 "10DANCE"を目指していく。これが大まかなあらすじだ。

プロ並みのダンスシーン、リーダーとパートナーの関係性の葛藤、イギリスでも行われた壮大なスケールのロケなど、126分の配信時間内に見どころはいくつも点在する。視聴スタート時、私の手元に用意したハイボールはキンキンに冷えていたのに映画に夢中になってしまい、2時間後に気がつくと氷が溶けて、アルコールは薄くなっていた。そんなふうにのめり込んでしまうほど『10DANCE』の魅力は深い。中でも目を丸くしたのが、鈴木信也を演じた竹内涼真の演技の振り幅だ。
竹内演じる鈴木信也は、自信家で、金髪パーマヘアのワイルドな風貌のラテンダンサー。妖艶で、エネルギッシュなダンススタイルが彼の売りだ。そんな鈴木が目指すのはテクニックに惚れ込んだ杉木信也との「10 DANCE」での優勝。

「(杉木のダンスが)波みたいなの。指先の神経まで。ホールドしただけであいつの感情が伝わってくるのよ」
レッスンから本番まで、ふたりが魅せたダンスシーンはうっとりするほどまぶしくも映るけれど、時には「ゴクリ」と息を飲まずにはいられないほどの迫力も伝わってくる。出演者たちが約半年から1年のレッスンを重ねてきたといわれるのも納得......いや、納得の言葉以上の賛美が物語には存在していた。
(いいか、杉木。おまえには俺しか見えなくしてやる)
そう心の中で杉木につぶやき、自分とは真逆のタイプの杉木に惹かれていく鈴木。原作漫画はBLとしてカテゴライズされているので、"そういう目"で見られるのは自然だ。が、本作は単なるBLではない。踊りを通じてどうしても相手への気持ちが抑えられなくなってしまう葛藤からの、溺愛が存在している。本来は互いに異性愛者だったはずなのに、ふたりを未知の愛へ引き込んで、狂わせていく「10 DANCE」。個人的にこんな愛の形を映像で体感したのは初めてだ。余談だが、鈴木と杉木を見ているうちにglobeの『Can't Stop Fallin' in Love』が脳内に流れてきた。「踊る君を見て恋がはじまって」。歌詞のふとしたワンフレーズに本作がどうしても重なってしまったらしい。念のため書いておくが、本作と曲はまったく関係はない。
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ブラックプールで観戦している気分に
さて竹内の演技の振り幅について、文章を戻そう。鈴木を演じている竹内といえば、つい先日までコメディドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)で、会社員の海老原勝男役が一大ブームを起こした。昭和気質の抜けない男性で、放送当初は「料理は女性が作るもの」と豪語する始末。結果、交際していた彼女にも振られてしまうが、毎話、令和アップデートを繰り返して、家事やマッチングアプリなど、次第に時代へそぐっていく勝男。耳まわりをすっきりさせたザ・サラリーマンヘアで、トレードマークはパンツインスタイル。そんな姿がいじらしく、最終話には視聴者から全力で応援されていた。
あの勝男の姿はどこに......?

演技とはいえギャップにもほどがあった。そんな鈴木と勝男を見比べてみるのも面白いかもしれない。ワイシャツでは隠しきれなかった勝男の筋肉の正体が、鈴木を見れば分かる。劇中でうまく踊れない勝男だったのに、鈴木のステップは一級品。撮影期間がそう離れていないだろうに、俳優の竹内涼真は、何を起点に演技の切り替えスイッチを入れていたのだろうか。2026年の年初からは『再会~Silent Truth~』(テレビ朝日系)で主演、4月からは『奇跡を呼ぶ男』でミュージカル主演が決定している竹内。彼のステップはまだまだ止まらなさそうだ。
鈴木にばかり触れてしまったがダンスのパートナーとなる、杉木信也を演じた町田啓太の演技も素晴らしかった。常にしなやかな振る舞いの杉木は、些細な感情さえも噯(おくび)に出さない。それなのにエロチシズムが香らせてくるのだから、町田の役作りも底知れない。

杉木のダンスも彼の特性がそのまま現れており、情熱的な鈴木と絡み合っていく様子が見ものだ。そしてぴったりと息が合ったふたりのフォルムとステップの迫力は、圧巻! の一言。見ているこちらの興奮も止まらず、ブラックプールの会場で観戦している気分に酔いしれた。
とにかく『10DANCE』、すごいのだ。
⚫︎監督・共同脚本/大友啓史
⚫︎原作井上佐藤『10DANCE』(講談社「ヤングマガジン」連載)
⚫︎脚本吉田智子
⚫︎出演/竹内涼真、町田啓太、土居志央梨、石井杏奈、浜田信也、前田旺志郎 ほか
⚫︎126分 ⚫︎2025年、日本映画
⚫︎企画・製作/Netflix
2025年12月18日(木)よりNetflixにて世界独占配信
https://www.netflix.com/10DANCE
コラムニスト、ライター、編集者
平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。






