身体性を纏った写真から増殖する、中川ももの「クローナルイメージ」【KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭】

Culture

新緑の古都の風物詩となった「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。そのサテライトイベント「KG+」で、若手アーティスト・中川ももの作品展Clonal Imagesが、ディオールのサポートを受けて開催されている。2025年、南仏アルルで開催された第8回「ディオール ヤング フォトグラフィー&ビジュアル アーツ
アワード」において、中川は「Inside my Pantropy」シリーズのインスタレーションによりファイナリストに選出された。

©︎DAIYU INADA

写真祭の一環として中川の展示を訪れると、鮮やかなイメージが壁一面を埋め尽くし、曲面のミラーにより複層的に広がる光景に意表を突かれる。思いがけずラビリンスのような空間を練り歩く密やかな儀式を楽しんでしまうかもしれない。

中川が一貫して取り組むテーマ「クローナルイメージ(増殖する像)」は、生成AIやCGではなく、あくまで彼女の頭の中にあるものに身体性を纏わせた「写真」を起点にしている。自身で撮影した写真から手作業で切り取られたイメージの断片が無限に連なるインスタレーションは、鑑賞者の視点や身体感覚によって千千に変化する小宇宙だ。

©︎DAIYU INADA

相互作用関係に着目するきっかけは「粘菌」。

生まれ育ちも現在の拠点も京都という中川。実家の丹精込めた庭で、祖母や母が挿し木や接ぎ木で植物を増やしていたことに魅了された。ひと枝の断片から自家繁殖したクローン植物が、やがて相互に連結する生態系を形成していくイメージを本作では展示空間いっぱいに繰り広げている。

「雄株のみを挿し木で繁殖させる金木犀や地下茎で広がっていく竹のように、受粉や種子による生殖活動を必要とせず、自分の身体の一部から生成・繁殖するクローン植物は魅力的です。セルフメンテナンスで生きていくことが羨ましい」と語る。

本展は、サイエンスフィクションの領域で近年注目される「パントロピー」(環境に適応するために身体を変異させるという概念)を軸に構想された。写真から増殖したイメージが展示環境に合わせて細胞分裂のように変容していくことを中川は肯定的に捉えている。

 

 

「ぺらぺらで傷つきやすい反面、変化させる自由度や捨てられる身軽さも持つ『写真』は、環境に影響を受けやすい自分にとって、イメージを共有するために必要なメディアです。環境に合わせて流動的に変化しながら、プラマイゼロの良い状態にセルフメンテナンスする。その制作行為自体が限りなく自分を反映していると思います」

最近は、粘菌と共に生活しているという。メルカリで3,000円で買った。

「だんだん可愛らしさや愛着を感じるようになったんですが、旅行中の世話に苦労したり冬は布団に入れたりと、いつのまにか自分が管理しているはずなのに粘菌に動かされている。その体験がクローナルイメージの相互作用関係に着目するきっかけにもなりました」

自然や社会といった自力では変えがたい環境。個人の人間性までもが過剰に情報化され、あらゆるアイデンティティが分類され区別される社会。すでに生きづらさが限界値と感じているのは、中川のような若い世代だけではないだろう。

だが、クローン植物の孤高の生成と繁殖、身体変容という未来的な環境適応、さらに写真というメディアが運んでくれるイメージの最果てに自身のアイデンティティを肯定的に見出し、中川の表現は類まれな結実を見せた。私たち観る側にしても、環境との関わり方や呼吸の整え方を示唆する作品体験は実り多いものだ。中川ももの作品世界は、声高に言語化することなく、イメージが思考を導いてくれる。

Momo Nakagawa/1992年生まれ、京都在住。2023年、京都芸術大学美術工芸学科写真・映像コース卒業。25年、同大学大学院
美術工芸領域写真・映像分野修士課程を修了。ファッションと音楽分野で活動を開始、のちに京都芸術大学に学び、
写真へと活動の軸を移行。修士論文『写真によるセルフメンテナンス:クローナルイメージの生成と繁殖』を執筆。
京都芸術大学をはじめ、数多くの展覧会に参加。2024年、京都同時代ギャラリーのコラージュプリュススにて個展
『Starburst』を開催。2025年、仏アルルで開催された第8回ディオール ヤング フォトグラフィー&ビジュアル アーツ
アワードのファイナリストに選出。2026年、KYOTOGRAPHIE KG+に出品。

The Art of Color – Dior Photography and Visual Arts Award for Young Talents presents : Momo Nakagawa “Clonal Images”

HOSOO LOUNGE (ホソオ ラウンジ)
京都府京都市中京区柿本町412

開催中〜5/17(日)(4/28、5/12は休館日)
10:30〜18:00

主催:パルファン・クリスチャン・ディオール
https://kgplus.kyotographie.jp/exhibitions/2026/momo-nakagawa/

  • text: Chie Sumiyoshi