マッシのアモーレ♡イタリアワイン イタリア人は「味が落ちたワインを料理に」を絶対にしない! マッシが教える、調味料としてワインを使うコツは?

Gourmet 2026.03.17

マッシ

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回は「調味料としてのワイン」について、イタリア人が考えていることを教えてもらいました。


イタリアをはじめとする欧州の食文化では、ワインはスパイスや出汁と同じくらい重要な調味料だ。多くの日本人は料理にワインを使う際、「安い赤ワインを肉の煮込みに入れる」「白ワインを魚の臭み消しに振りかける」といった限定的な使い方に留まっていると思う。しかし、イタリア現地で実践されているワインの使い方は、もっと深く、そして合理的だ。今回は、ワインを「飲む」だけではなく「調理」に使いこなすための新常識を紹介しようと思う。

「飲めないワイン」は料理にも使えない

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以前も書いた通り、イタリアのスーパーには多くのワインが並ぶが、そのほとんどがイタリア産で、そして半分以上が地元の地方で造られたワインであることが珍しくない。

まず、多くの人が陥りがちな誤解を解く必要がある。それは「味が落ちたワインや、安すぎて飲めないワインを料理に回す」という発想だ。古代ローマの時代、ワインは肉を長期保存するための保存液として使われていた。でも、現代において、ワインを料理に入れる目的は、その芳醇なアロマと複雑な酸味を料理に移すこと。つまり、飲んで不快なワインを鍋に入れれば、その不快な雑味も料理へと凝縮されてしまうのだ。

かといって、数万円もする最高級ヴィンテージを煮込むために使うと、加熱によってワインの繊細なニュアンスの多くは失われてしまう。ここで僕が声を大きくして言いたい、料理に使うワインを選ぶときの鉄則。それは、「自分がグラスで飲んでおいしいと感じる、適正な価格のデイリーワイン」を選ぶこと。これが、料理を劇的に進化させる第一歩なのだ。


アルコールを「飛ばす」ことの意味

料理にワインを加える際、誰もが「アルコールを飛ばす」という工程を意識するだろう。アルコールの沸点は約78℃。でも、単純に温度を上げれば良いわけでもない。重要なのは、アルコールが蒸発するための「空間」と「時間」を確保することだ。そう、ワインを注いだ直後に蓋をしてしまうのは、最大の禁忌なのだ。なぜなら、蒸発しようとしたアルコール分が蓋の裏で結露し、再び鍋の中に戻ってしまうから。

また、ワインを加えるタイミングは、フライパンの温度が十分に上がっているときがベストだ。鍋の縁から回し入れることで、最も高温な場所にワインが触れて、瞬時に余分なアルコールが揮発し、ワインが持つ「旨味の核」だけが食材に残る。このプロセスを経て初めて、ワインは「酒」から「極上のソース」へと変化する。


「酸」を操り、肉を科学的にデザインする

ワインが料理にもたらす恩恵のひとつが「酸」だ。ワインに含まれる有機酸は、肉の繊維をほぐし、柔らかく仕上げる性質を持っている。特に、赤身の強い肉や少し硬めの部位を調理するとき、ワインはとても役に立つ。

ただし、酸が強すぎるとバランスが悪くなってしまう。そこでイタリア流の知恵が登場する。ワインを多めに使った場合は、澱粉(パスタの茹で汁や小麦粉)、脂質(バターやオリーブオイル)、あるいはタンパク質を組み合わせるのだ。澱粉や脂質とワインを合わせることで、酸の角を丸める役割がある。

さらにワインには、脂っぽさをカットするという役目もある。ソテーの仕上げにワインを注ぐと、フライパンにこびりついた旨味がワインに溶け出し、同時に食材の脂っこさを中和して、後味を軽やかにしてくれる。これは日本料理の「酢」や「柑橘」の使い方に近いと思うけど、ワインの場合はそこに「発酵由来の深み」が加わるのが強みだ。

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色のルールを超えた、自由なペアリング

「肉には赤、魚には白」というワイン選びの基本は、調理においても同じことがいえる。鶏や豚の白い肉や魚、野菜、スープには白ワインが合い、赤身肉には赤ワインがなじむ。

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鶏肉の白ワイン煮込み。北イタリアでは白ワインで煮込むのが一般的だが、南イタリアでは赤ワインで煮込むレシピも。
 

でも、現代のイタリアンではこの境界線はより柔軟だ。たとえば、マグロやタラといったしっかりした食感の魚を、あえて赤ワインで煮込むやり方がある。赤ワインのタンニンが魚の脂に反応して、まるで肉料理のような力強いひと皿に仕上がるのだ。

また、ロゼワインの汎用性にも注目したい。ロゼは赤と白の両方の性質を併せ持つ。そのため、前菜からメインまで、さまざまな料理の隠し味として使える万能調味料だ。さらにスパークリングワインをリゾットの仕上げに使うのも、通な手法。炭酸は消えても、独特の酵母感とフレッシュな酸が、リゾットをエレガントな味わいにする。


「浸す」と「煮込む」の魔法

ワインの使い方は、仕上げの振りかけだけではない。イタリア料理の真骨頂は「マリネ」と「煮込み」にある。ジビエなどの野生味の強い肉は、ハーブと一緒にワインに数日間漬け込むことで、臭みが抜けて、細胞の奥までワインのフレーバーが染み込む。そして、そのワインごと弱火でじっくりと煮込む。この時、ワインはもはや脇役ではない。肉の水分と入れ替わるようにしてワインが組織に入り込み、独特のホロホロとした食感を生み出す。牛肉のバローロ煮込み「ブラザート」は、その最高傑作といえるだろう。

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塊の肉を赤ワインでじっくり煮込んだ郷土料理「ブラザート」。 

また、サラミやチーズをワインに浸して熟成させる手法もある。これは家庭で真似するのは難しい。でも、「食材をワインの環境に置く」という発想自体が、風味を重層的にする鍵であることを示している。


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ワインが主役になる瞬間

リゾットにワインを使うのは定番だけど、イタリアでは「ワインが主役のリゾット」も存在する。アマローネやバローロといった力強い赤ワインを贅沢に使い、米のひと粒一粒にその色と香りを吸わせる。これは「米をワインで炊く」という感覚に近い。

さらに驚くべきは、デザートへの活用だ。ビスケットの生地に練り込んだり、揚げ菓子の風味付けにワインを使ったりするのは日常茶飯事。また、フルーツのマチェドニアに甘口のデザートワインを少し加えるだけで、子ども向けのデザートは一気に大人のためのものへと進化する。ワインに含まれる糖分と果実味は、砂糖だけでは決して表現できない「奥行きのある甘み」を作り出してくれるのだ。

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キノコの白ワイン煮込み。

ワインを料理に使うということは、ブドウが育った土地の太陽や土壌の記憶、そして発酵という神秘的な過程を経て凝縮された「エッセンス」を、ひと皿の料理に閉じ込める作業だ。イタリア人は、料理に使ったワインと同じ銘柄を、その食事の席でグラスに注ぐ。料理の中にあるワインの要素と、グラスの中のワインが共鳴し、完璧なマリアージュが完成するからだ。

今日から、ワインを「飲むためのもの」という枠から解き放ってみてはどうだろう。コンソメや醤油と同じように、キッチンに常備された信頼できる調味料としてワインを捉え直したとき、読者のみなさんが作った料理は、家庭の味を超えて、イタリアの街角にあるリストランテの香りを放ち始めるはずだ。

ワインをひと回し。その一瞬が、日常の食卓を非日常の歓びに変えてくれるのである。

1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
X:@massi3112
Instagram:@massimiliano_fashion

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