イタリア人マッシが厳選!ピエモンテの料理とワインのペアリング、ベスト5とは?

Gourmet 2025.05.08

マッシ

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回はピエモンテーゼのマッシが、地元のワインと料理のペアリングを徹底解説! 日本でも名前を聞くようなものから「なにこれおいしそう!」な料理まで、北イタリアの味覚を堪能しよう。


イタリア北西部、アルプスの麓に広がる、僕の故郷であるピエモンテ州。トリノの街から車で南へ向かうと、ランゲやモンフェッラートなど世界遺産にも登録された丘陵地帯に辿り着く。霧が立ち込めるブドウ畑を歩けば、思わず深呼吸したくなる。土や木の実の香り、そしてどこかに漂うトリュフの気配。僕の地元は五感が満たされる食の楽園だ。今回は、料理とワインのペアリングを入り口に日本の読者に特別なピエモンテの食の旅を案内しようと思う。

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帰国したマッシが撮影した、ブドウ畑とトラクターが作った道が広がるモンフェッラートの景色。

1. バーニャ・カウダ × バルベーラ・ダスティ

イタリアに一時帰国したある寒い夜、友達の家に招かれて囲炉裏の前で味わったのが「バーニャ・カウダ」。直訳すれば「温かいソース」という意味で、にんにくやアンチョビ、オリーブオイル、場合によっては牛乳を加えて乳化させたディップソースをキャンドルで温めながら、生や軽く火を通した野菜に絡めて食べる。

僕の地元でこのバーニャ・カウダに欠かせないのが、フレッシュで果実味豊かな赤ワイン「バルベーラ・ダスティ」だ。バーニャ・カウダの強いにんにくと塩気、オリーブオイルのコクは、軽い酸味があるバルベーラのおかげでバランスが取れる。特にカリフラワーやフェンネルなどの苦味を持つ野菜とバーニャ・カウダ、そこにひと口のバルベーラを流し込めば、口の中で料理とワインが踊るようだ。

幼少期の頃の思い出がたくさんある中で、このバーニャ・カウダが大切な存在として僕の心にいる。苦手であまり食べたくない野菜があっても、なぜかお婆ちゃんが作るバーニャ・カウダに絡めたらおいしくて、野菜だけではなくパンまでつけて平らげていた。

>>関連記事:ピエモンテでバルベーラ・ダルバを探してみたら、イタリア人の「地元愛」の深さがわかった!?

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2. タヤリン × ネッビオーロ

数年前の秋に地元に帰った時の話。アルバのトリュフ市で白トリュフを手に入れた夜、地元のトラットリアに持ち込んで作ってもらったのが「タヤリン・アル・タルトゥーフォ」。タヤリンとは卵黄を使った極細のパスタで、ほんの少量のバターとパルミジャーノで和えただけの上に、黄金のような白トリュフ(タルトゥーフォ)がたっぷりと削られる。

繊細で贅沢なこのパスタに合わせるのは、「ネッビオーロ」だ。タンニンがしっかりしていながら、バラやドライチェリー、湿った土のような深みのある香りがある。シンプルな料理に合わせると、ワインの深みが主役になるのだ。口に含めば、パスタのなめらかさとトリュフの奥深い香りをネッビオーロが引き立て、語りかけてくるよう。

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こちらはラグーソースのタヤリン。

トリュフ以外で1年中よく食べるタヤリンのソースは、ピエモンテ牛を使ったラグー(日本のミートソースに近い)だ。タヤリンに使われている卵のおかげで生パスタ感が強くて、アルデンテと言いながらも柔らかさも感じられる絶品! マナー違反かもしれないけど、残ったソースをパンにつけて食べるともうたまらないおいしさ。

>>関連記事:ピエモンテを包む霧から生まれる、イタリアワインの至宝「ネッビオーロ」の真実!?

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3. ヴィテッロ・トンナート × ロエロ・アルネイス

「ヴィテッロ・トンナート」は、低温でやわらかく火入れした仔牛肉に、ツナとケッパー、アンチョビを混ぜたソースをかけた冷菜だ。海鮮と牛肉をひとつの料理にするなんて、一見不思議な組み合わせと思える。だけど、それぞれの旨味が複雑に重なりながら、さっぱりとしていておいしい。

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現地で提供されたヴィッテロ・トンナート。

この料理には白ワイン「ロエロ・アルネイス」がぴったり。アルネイスはピエモンテ原産の白ブドウで柑橘や白い花、ハーブを思わせる香りがある。ソースの塩気とツナの油分をさっぱりさせて、肉の味わいを際立たせてくれる。ヴィテッロ・トンナートは冷たい料理だから、アルネイスの爽やかさと良い相性だ。料理のこだわりが強い他の地域のイタリア人も、お肉と魚を使ったこの料理には文句を言わず、おいしそうに食べている。この様子を見ていると、ピエモンテ人として何より満足するし、とてもうれしくなる。

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4. カルネ・クルーダ(生肉のタルタル) × ドルチェット・ダルバ

ピエモンテでは、牛の生肉をタルタルのように刻み、塩とレモン、パルメザンチーズ、オリーブオイルだけで味付けする「カルネ・クルーダ」もよく登場する。食べる前にお肉をフォークで潰して、広げた後にレモンとオリーブオイルをかけて食べる。軽くマスタードを加えたら、生肉を食べていることを忘れてしまう。

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チーズを盛りだくさんに振りかけたカルネ・クルーダ。

赤身の旨味を楽しめるこの料理には、「ドルチェット・ダルバ」という若々しく果実味のある赤ワインがよく合う。ドルチェットとは「小さな甘いもの」という意味だが、実際の味わいは辛口でタンニンが柔らかく飲みやすい。生肉の鉄っぽさに対して、ワインのブラックチェリーのような果実味の相性が良い。牛の生肉であれば簡単にカルネ・クルーダが作れると思われそうだけど、肉であれば何でも良いというわけではない。ピエモンテのシンボルになっている「ファッソーネ」という白い牛の肉が使用されることがほとんどだ。ファッソーネの肉はやわらかく脂肪分が少なく、ブランド牛として値段も高めになっている。

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5. ボネ × モスカート・ダスティ

イタリアでの食事の最後に、テーブルにそっと現れることが多いのが「ボネ(Bonèt)」だ。見た目はシンプルなプリンのようだけど、その中身にはピエモンテらしい物語が詰まっている。ボネとは、カカオやアマレッティ(アーモンド風味のビスケット)、卵、牛乳を使って蒸し焼きにした、濃厚なチョコレート風味の焼きプリンで、ほんの少しグラッパやラムを加えるレシピもある。家庭の祝い事や日曜の昼食後に登場する定番のデザートで、素朴な甘さには懐かしい安心感がある。

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食後にドルチェ 「ボネ」をいただきます。

この重厚なドルチェには、ピエモンテを代表する甘口スパークリングワイン「モスカート・ダスティ」がよく合う。モスカート・ビアンコ種から造られるこのワインは、アルコール度数が低く、微発泡で軽やか。マスカットや白桃、オレンジの花の香りが広がり、ボネのカカオとアマレッティのほろ苦さをやさしく包む。

>>カプチーノは朝、グラッパは夜、そしてエスプレッソは......? 決して譲れないイタリア人の常識とは

ピエモンテ料理とワインの組み合わせをいただく時に感じるのは、豊かさとは派手さではなく「静かな満足感」だということ。派手で豪華じゃなくても、食材一つひとつの魂を大切にすることで、あっという間に心が満たされるのだ。

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イタリア人が「ボナセーラ!」と挨拶し始める、夕焼けに染まりつつある時間帯のモンフェッラートの風景。

みなさんも、日本でグラスに注がれたピエモンテ産のワインを見る時、その向こうにある霧の丘や暖炉の灯り、家族の笑い声を思い浮かべてほしい。それはきっと、五感でイタリアへの旅をする第一歩になるはず。

1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
X:@massi3112
Instagram:@massimiliano_fashion

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