花と団子、どっちを選ぶ? フランスのバレンタインの贈り物の定番は...
フランス人のホントのところ ~パリの片隅日記~ 2025.02.28
ちょっと過ぎてしまったが、今年のバレンタインデーは、チョコレートをもらった。
「今年の」というか、バレンタインデーにはいつもチョコレートをもらう。私は日本式のバレンタインデーでさえチョコレートをもらっていたほどの、カカオを一方的にもらうばかりの人生を送っているのだ。これは私があまりにもイベントというものに参加する能力がない人間なので、なんとか参加させてやろうと親切を受けたのだと思うことにしている。
ところで、もしチョコレートをもらわないとしたら、バレンタインの贈り物は必然的に花束になってしまう。そもそも、贈り物の選択肢が「花束」か「チョコレート」という2つしかないことが私には不思議だ。もしかしたら私が知らないだけで、ほかの女性は日本のホワイトデーのように服とかアクセサリーとか香水とか本とか、そういったバラエティー豊かな贈り物をもらっているのかもしれない。でも私の住んでいる界隈では、この「バレンタインは花束かチョコレート」のルールは結構かたくなに守られているのだ。
このふたつの選択肢ならば、絶対にチョコレートを選ぶに決まっている。実を言って私はチョコレートが特に好きなわけではないのだが、いったい誰が花束なんて選ぶというのだろう?
そんなことを書くと「えっ花束を選ぶに決まっていますけど......」という人だって当然現れるだろう。おそらく細やかで美的感覚が鋭く、手先の器用な人に違いない。

---fadeinpager---
私は別にバレンタインを言い訳に鼻血が出るほどチョコレートを食べたいわけではない。ただ花束をもらうと、「ちょっと困惑する」のである。
以前、一度だけ女優用の日傘みたいなサイズの巨大なバラの花束をもらったことがあった。正直なところそれを手渡されて胸に抱えているあいだは、こんな私でも大変にうれしくてしばらく手放すことができなかった。でも問題はそのあとだ。
まず、それほど大量のバラを生ける(すてきな)花瓶がないのである。花瓶をなんとか都合しても、そのあと「良い具合に芸術的なバランス感覚を持って花を生け」「水を替えて日当たりなどに気を配り」「花たちが自分を肯定して輝けるようポジティブな声掛けをする」といった"お世話"を毎日続けなければいけない。
そしてこれらのことにもおそらくセンスというものがあって、同じように世話をしているようでもずっときれいに花を生かし続けられる人と、あっというまに枯らせてしまう人がいる。私だ。
さらに「花束」と「チョコレート」のどちらを贈るか、という選択で花束を選ぶタイプの男性は、結構な確率で「その後、花どう?」みたいに花たちの近況をチェックする傾向にあるというのが私調べだ。
チョコレート派はそうではない。「おいしかった?」とか「その後チョコたちどう?」みたいなことも聞いてこない。仮に聞いてきたとしても「おいしかった」「みんな大丈夫だよ」と答えておけばすむ話である。
「その後、花どう?」と聞かれると、仮にまだ全然枯れていなかったとしてもその場にわずかな緊張が走る。これからも毎日きちんと世話をして枯らさないようにしなければ......と変な汗をかいてしまうのだ。
だからというか、こんなことを口にすると「せっかくもらっておいて無礼」と思われるかもしれないが、もらったら必ず世話をしなければいけないプレゼントってプレッシャーだな、というのが個人的な見解だ。そんなわけでバレンタインは絶対的にチョコレート派なのである。
しかし、2024年はカカオ豆が非常に不作だったとのことで、しかもこの先ずっと減少し続けると予測されているらしい。カカオ豆があまり収獲できなくなっているというのは何年も前から耳にするので、やがて一般人はチョコレートを食べられなくなる日がやってくるかもしれない。そうなったらバレンタインデーは花束という選択肢しかなくなってしまう。来たる「バレンタインデーは花束一強時代」に向けて、「花をきれいに長く生けられる」技術を習得する方が賢いのだろうか。
ずいぶん花束についてぶちぶち文句をいうかたちになってしまったが、実際には、フランス人は男性も女性も植物をプレゼントされて本当にうれしそうにする人が多いと思う。
私などはいきなりローズマリーやオレンジの木などを贈られると、「これを私が......?」と呆然としてしまいそうだが、鉢植えをたくさん部屋に置いたり、ベランダで家庭菜園をしたりしている人はとても多いので、その違いを見るにつけ、「だから花束がバレンタインのスタメンプレゼントなのかもしれないなあ」と考える。
そしてここまで書いた内容を、「バレンタインには絶対にチョコレートを贈る派」のフランス人男性に話してみたところ、彼がチョコレート派である理由が「咲いている花の命を切り取り部屋の中に飾るなんて残酷過ぎて耐えられないから」という、たいそう徳の高いものだったことに動揺してしまった。「花を枯らさないよう世話するのがプレッシャー」などと臆面もなく語った自分の俗物ぶりがちょっと恥ずかしい。
花束とチョコレート、たった2つの選択肢にもいろんな思惑があるものだ。
text: Shiro

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。
パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。