今年のお正月に私は、栗きんとんを食べた。

知人に栗好きの人が多くて、便利そうなチューブタイプのマロンクリームをよくばらまき用のお土産にすることがあった。瓶入りに比べると割れる心配なく運べるし、食べる時にもスプーンを使わずに済むのは楽だし、何よりハンドクリームのようでちょっとかわいいと好評だからだ。

このチューブ型マロンクリームは、私の知る限りサロン・ド・テ「アンジェリーナ」のものと、どこのスーパーでも見かけるより一般的な「クレマン・フォジエ」のものがある。たいていの場合、アンジェリーナのマロンクリームの方がパッケージがかわいいと喜ばれる。でも味に関しては、在仏邦人の間ではクレマン・フォジエに軍配が上がっているのだ。

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アンジェリーナ(下)とクレマン・フォジエ(上)のマロンクリーム。

これは由々しき問題である。何しろクレマン・フォジエのマロンクリームのほうが値段が安いのだ。安くておいしいならばこちらの完勝だと言えるはずだけど、相手の反応が良いのはアンジェリーナなのである。やはりパッケージの力だろう。

ところが在仏邦人の間では、パッケージもクレマン・フォジエの方がかわいくない?という声までちらほら上がっている。クレマン・フォジエのパッケージは、青色の商品名、黄色の飾り枠、その下に栗と葉っぱのイラストが描かれているものだ。さらに「上半身が栗のイガイガで下半身が葉っぱ」の雪男に酷似した謎のマスコットキャラクターまでいる。私もこのシュールさはかなりかわいいと思っている。

思うに、アンジェリーナのパッケージはイメージ上のフランスのかわいさであり、クレマン・フォジエのパッケージは現実のフランスのかわいさ、と言ったところなのだろう。だから在仏邦人に人気があるのかもしれない。

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「上半身が栗のイガイガで下半身が葉っぱ」の謎のマスコットキャラクターがクレマン・フォジエのトレードマーク。

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さて、私自身は栗がそれほど好きなわけではなく、マロンクリームは「誰かにあんこを使った食べ物をリクエストされたときに代用品として使う」のが常であった。あんバターパンとかあん餅とか、クリーム白玉あんみつを作ったときにも使った。「あんこはどこまでマロンクリームで代用できるのか?」というチャレンジは、いまのところ「わりとどこまでも代用できる」という結論に落ち着いている。

そして今年の正月はふと「このマロンクリームをサランラップで包み先端をツンとさせれば栗きんとんが出来上がるのでは?」と天啓としか言いようのないひらめきを得た。

私はお正月にはどうしてもおせち料理が食べたいというわけではないのだけど、おせち料理や雑煮があると、それだけでどこにいようと日本のお正月の空気がにじみ出てくるから、その雰囲気が好きなのだ。日本のお正月の雰囲気とは、言うまでもなく「この数日だけは何もかも放り出して好きなだけぐうたらして良い」という、万物からの"許し"である。この"許し"があるからまた1年頑張っていけるのだ。

フランスにこの"許し"は存在していない。2日からみんな何事もなかったかのように動き始めてしまう。せめて栗きんとんがあれば、この容赦ない流れを精神的なアレで少し食い止められるのではないだろうか。

こうして、半強制的にお正月を召喚するために、アンジェリーナとクレマン・フォジエのマロンクリームでそれぞれ作成した栗きんとんがこちらである。

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おわかりいただけると思うが、まったく栗きんとんではない。

マロンクリームはサランラップで包んだ瞬間、「ツン」とさせることなど不可能だということがわかるほどにひたすら"クリーム"だと気付き、私としてもこのように「ギリギリ見るに堪えるかどうか」という瀬戸際をつま先立ちで歩くような写真となってしまったことを非常に申し訳なく思っている。言い訳になってしまうがやはり和栗の黄色でなければあの栗きんとん特有のかわいらしさは出せないようだ。

しかし、正体はただのマロンクリームなのだから、味はおいしいに決まっている。いままで特に気にしたことはなかったのだけど、こうしてふたつ食べ比べてみると友人たちの言う通りちょっと味が違うことに気が付いた。

簡単にいうと、アンジェリーナは"クリーム"であって、クレマン・フォジエは"マロン"なのだ。だからクレマン・フォジエの方が少しざらつきがあって、多くの人が言うように栗の味がよりしっかりしている気がする。だからと言って私のように、栗に思い入れがあるわけでも、すばらしい舌を持っているわけでもない人間にとってはどちらも普通においしいマロンクリームだ。

でもこのままではあまりに手抜きが過ぎると思い、もう少し栗きんとんに近づけようと、小麦粉を加えて練り、蒸すという方法も試してみた。こうすると少し硬くなるので、もうちょっとだけ栗きんとんに近づいたように思う。ただ、栗の風味は飛んでしまう。

まあ私も便宜上お土産にしたりしてはいるものの、実際にはどちらも日本で手に入るようなので興味のある方は食べ比べてみてほしい。栗きんとん作るの面倒だなーという人にも、栗きんとんの形にはならないが、おすすめだ。

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text: Shiro

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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