私は運転が非常にヘタだ。

それを知ったのは当然ながら教習所に通い始めたときのことだ。いまになって振り返ってみると、まったくもって愚かしく傲慢としか言いようがないのだけれど、運転免許を取得しようと決めたときには、自分はきっと運転が上手いだろうと信じていた。それは、私が子どものころから大変に運動神経が良かったためにそう思ったのだった。とにかく「運動神経の良い生徒」という学生時代が、私を傲慢人間に仕立ててしまったのだ。

それが、である。そんな私が生まれて初めて車のハンドルを握った瞬間に、ピーンときたのだ。私はきっと一生これがうまくできないにちがいない、と。

世の中のほとんどの人がすんなりとやっていることを、特に理由もないのに自分ができないと悟った瞬間、奇妙な虚無感が広がった。運転とは、何か私の知らないもっと別の能力が必要とされるのかもしれない。私は自分の運転的無能を受け入れ、運転が上手な人を羨望のまなざしで見つめながら今日まで生きてきた。

とにかく、そんな私でもなんとか免許は取れたわけだが、変に自分を過信しないためか、ここまで無事故で来られたことには本当に感謝しかない。「自分を過信しない」というよりむしろ不信感しか持っていないため、すべてを疑いながら慎重にことを運び、目に写るすべての危険を避けて通ってきた結果かもしれない。

そんな私にとってこの世で最も運転したくない場所、それは凱旋門である。

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photography: pixel

パリの凱旋門の周りはご存じの通り円形交差点となっており、その"円"から12本の道が放射線状に伸びている。そのうち1本はシャンゼリゼ通りなので交通量も多い。ある道から円形交差点に入り、グルンとまわって別の道に出ていくわけである。

これを初めて見たとき、この私がこんなところを運転できる道理などあるはずがないと思った。友人たちは「慣れればなんてことないよ」などと言うのだが、それは普通の運転能力を持つ人の話だ。運転的無能を抱えながら今日まで来た私に当てはまる、とは思わないでいただきたい。

しかし運命のいたずらと言うべきか、あるときからこの円形交差点をどうしても通らざるを得なくなってしまった。どうしても生活に必要となれば仕方がないと、毎日手汗をかきながら、目玉をひんむきながら、それでもなんとかこなしてきた。

そんなある日、私の気持ちをくじくことが起こってしまった。渋滞している円形交差点で、バイク乗りの兄ちゃんにものすごくののしられながらボンネットを何度も叩かれてしまったのである。手に汗がさらににじむ。私はすぐに、いままでこんな"悪魔のサークル"を運転しながら、こんなことが起こらなかった方が不思議なくらいだと思い、自分の気持ちを立て直そうとした。

でもダメだ。ダメなのだ。もう、ボンネットを叩かれてしまっては無理だ。
こんな風に自分が1番苦手な分野で、悪魔のサークルに迷い込み、ボンネットを叩かれるなんて......そんなことになってはもう平常心を取り戻すことはできない。これがせめて自分の得意分野であれば、反撃することだってできたはずなのに。

その後、無事に家へ帰り着きはしたものの、ひどく落ち込んだ。どのくらい落ち込んだかというと、翌日まで胸の奥に重苦しい気持ちが巣食い、ちょっと無理して公共交通機関と徒歩とタクシーの合わせ技で目的地まで向かうことにしたくらいである。心の奥深くまで激しく損傷したようだ。

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そんな私が最近、友人たちに誘われて室内スカイダイビングに挑戦することになった。フランスでは初だったという、ラ・ヴィレットにある「IFLY」である。この室内スカイダイビング自体は米国で始まりヨーロッパに広がっていったアクティビティらしく、日本でも何年か前に埼玉県へ初登場したという。

フランスで話題の「iFLY」。

もちろんイントラクターが付いてくれるわけだが、これがまた、ちっともコツをつかめないばかりか、私には特別にセンスがないということが発覚した体験となった。初めてだから仕方がないと思われるかもしれないが、友人たちはみんな明らかに私よりもうまく初体験をこなしていた。一目瞭然といった感じだ。これでは本当のスカイダイビングになんて危なくてとても挑戦できるものではないと思った。

でも、すごく楽しかった。

そしてこの「どうしてもコツをつかめない」感覚には不思議な既視感があった。私の抱えてきた運転的無能とすごく似ていたのである。気のせいかもしれない。車の運転と室内スカイダイビングに共通点などあるとは思えない。ただすごく楽しかったのもあって、私はまた友人を誘ってこれまで3回ほど体験に行った。

毎回、「やっぱりできないなあ」と思いながら、しかしそこには「これをこなせるようになればもしかしたら運転が少しうまくなるかも」というまったく根拠のない希望がある。

そしてもうひとつはっきりしたことは、「私は運転がうまくなりたい」のだということだ。あきらめて無能を受け入れたままにはしたくない。きっとこの世にはあらゆる苦手を克服するメソッドがあるに違いない、と信じられるようになり、1番大切なことはそういう風に信じられることなのだと思った。

そしていつかあの凱旋門にも、恐れず立ち向かえる日が来ると信じている。

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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