業界の新しいスタンダードを。イベント会社ソノマノ代表の女性演出家が考える、チャンスを掴む働き方とは?
Society & Business 2024.12.26
楽しみにながら働くことを通して、社会を良くする次世代のロールモデルを選出するフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)アワード。2024年は「新しいスタンダードを築き上げる女性たち」をテーマに、これまで"当たり前"や"仕方がない"と思われてきた課題の解決に向けて、信念を持って取り組んできた3人の挑戦者を表彰した。
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新しいスタンダードを築いていこうと、それぞれの場所で奮闘している女性たちは全国各地にいる。そんな彼女たちの働き方の物語を紹介する。
12月12日に開催されたフィガロジャポンBWA Award 2024 賞状授与式 & 懇親会の総合演出を担当したsonomano(ソノマノ)は、日本ではまだ珍しい女性によるイベント会社。現在3人の女性が核となって、ファッションショーをはじめ、さまざまなイベントや展示会をプロデュースしている。
「"女性じゃないといけない"というつもりはまったくなかったんですが、気が付いたらそうなってました」と笑うのは、ソノマノ共同代表で演出家の石井優香。ラグジュアリーメゾンのショーやイベントを手がけるドラムカンで長年キャリアを積み、第一子の出産を機に、2015年に独立。翌年、夫で空間デザイナーの村上智盛と同社を立ち上げた。
拘束時間が長く、男社会で厳しいというイメージがあるイベント業界。演出家を目指して業界の門を叩いた石井も、時に無給で、時に厳しい声を浴びながら働いてきた。
「厳しい目線も大事だと思う一方、怒られすぎて萎縮して何も言えなくなったりする。それって、素敵な働き方じゃないな。もっとほかのやり方があるんじゃないかな.....とずっと考えていました」
そんな石井が率いるソノマノには、厳しい状況でも互いに気遣いを持って、しなやかに仕事に取り組むスタッフが集っている。
「クライアントやお客様に喜んでもらえるイベントを創ろうとした時に、ちょっとしたところに気が付くかどうかが重要になる。業界は圧倒的に男性が多いですが、そうした気遣いやホスピタリティが得意な人を探していると、結果的に女性のチームになっていた」と石井。
「イベントやファッションショーの演出家は、一般にはあまり知られていない仕事だけど、お客さんを笑顔にしたり、その人の人生が変わるきっかけを提供したりもできる素敵な仕事。私はこの仕事が好きだから、もっとたくさんの人にこの仕事を知ってほしい。もちろん大変なこともあるし、私も厳しいことを言ったりもするけれど、大変の先にある"なにか"を、一緒に働いているスタッフにも伝えていきたいと思っています」
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「ひとりよりも、チームで働く」という考え方。
働く大変さの先にある"なにか"とは?ーー石井がインタビュー中繰り返し語っていたのは、一緒にものを創っていく楽しさだ。
「フリーランスとして、イベントごとにスタッフを集めるやり方ももちろんあります。ただ私は、チームでやるほうがショーやイベントのクオリティが上がると思っています。チームだと、それぞれが頑張って、成長していくことで、お互いに良い影響を与え合える。それがお客様の笑顔や、誰かの人生を豊かにするきっかけを提供できることに繋がっていくと思うんです」
石井自身もこの仕事をとおして、人生が豊かになってきたと振り返る。
「イベントやショーに関わると、自分ひとりでは得られない知識がついてくる。たとえば私は日本酒がそんなに得意じゃないんですが、仕事で日本酒に関わらせてもらって、それがどういうふうに作られていて、種類がどれだけあって、造っている人がどういう思いでいるのかなど、自分の感性だけでは知り得なかったことを教えてもらえた。そうした仕事での経験が人生の糧になり、結果的に日々の暮らしのクオリティも上がってくるんです」
たとえ苦手なことでも、「自分に少しだけ負荷をかけて参加してみることで、それが新しい未来に繋がり、自ずとチャンスをもらえると思っています」と楽しそうに石井は語る。「体験することで自分の人生が豊かになるし、それが次の仕事にも生きてくる。私は自分の仕事が好きなので、そこを軸にして、毎日遊んでいるように仕事をしたい」
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好き、を仕事に。
楽しみながら働くことで、業界に新しい風を吹き込む石井。そんな彼女に、これからの時代の"当たり前"になってほしい「新しいスタンダード」を尋ねると、「好きなことを仕事にすること」という答えが帰ってきた。
「やりたいことがあっても、『きっと稼げないから』『私なんかができないだろう』と諦める人は多い。けれど、本当にやりたいことがあればやってみたらいいと思うんです。やってみた上でだめだったらその時に考えればいい。みんなが自分の"好き"を仕事にして、楽しみながら働ければいいな、と思います」
そして、出産、育児を機に独立した自身の経験を振り返り、こう続ける。
「子どもがいるから難しい、と女性がキャリアを諦めてしまう状況はたくさんあると思います。けれど、子どもがいても国内外問わず飛び回って仕事ができる環境は作れるよ、ということも知ってほしいし、自分がそれを周知したい。結婚、出産、育児によって、チャンスを手放すのではなく、さらなる強みとしてキャリアを積めるんだということを伝えていきたい」
イベントやショーを創り出すことを通して、世界中の人を笑顔にしたいという石井。人の心を震わせるイベントの背景には、楽しみながら働く彼女たちの姿がある。
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text: Toshiko Fujimoto (madameFIGARO.jp)