キャリアと妊娠は両立できる? 不妊治療と働き方のリアル。

Society & Business 2026.04.03

3月8日の国際女性デーに合わせ、「働き方・妊娠・不妊治療」を考えるトークイベントが開かれた。主催したのは、不妊治療領域の課題解決に取り組むARCH。代表の中井友紀子は、フィガロジャポン Business with Attitude(BWA)Award 2023の受賞者でもある

トークテーマは「女性が活躍する時代に、人生の選択肢はどこまで自由になったのか」

社会では女性活躍が掲げられるようになって久しい。しかしその裏側で、多くの女性がキャリアと妊娠のあいだで揺れ動いているのもまた事実。ゲストに妊活中だというCRAZY WEDDING創業者の山川咲、産婦人科専門医・生殖医療専門医の上條慎太郎を迎え、不妊治療経験者の中井とともに、キャリアと妊娠出産をめぐる現実について語り合った。

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(写真左から)ORINAS ART CLINIC 院長で産婦人科専門医・生殖医療専門医の上條慎太郎、CRAZY WEDDING創設者/起業家の山川咲、株式会社ARCH 代表の中井友紀子。

キャリアと不妊治療。その両立は可能なのか。

不妊治療のつらさを経験し、ARCHを立ち上げた中井に対し、現在43歳で第二子の妊活を考えているという山川。

「1年でも、いや1カ月でも早く始めていれば......そんな気持ちで不妊治療をしていました」と中井は振り返る。

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中井 友紀子(なかい ゆきこ):株式会社ARCH代表代表取締役社長。2009年にインターネット広告会社オプトへ入社。その後、Yahoo!に入社し、ライフスタイルメディア「TRILL」の社長に就任。第一子出産後に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が判明し、第二子不妊をきっかけに不妊治療領域の課題と向き合うようになる。2021年、株式会社ARCHを創業。

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山川 咲(やまかわ さき):CRAZY WEDDING創設者、起業家。2012年に業界で不可能と言われた完全オーダーメイドのウェディングブランドを立ち上げ、数年で「情熱大陸」に出演。独立後、2020年に起業家を育てる学校「神山まるごと高専」の創業メンバー/creative directorとして開校を実現。現在は株式会社ECOMMITのボードメンバーとして未来を作る事業に奔走する。

女性の年齢と妊娠は密接に関係している。

「患者さんを診るクリニック側としては、もう少し早く受診していただけると良いと感じるケースもある」と話すのは産婦人科専門医の上條慎太郎。慶應義塾大学病院などで生殖医療の臨床と研究に携わってきた。

上條は、日本では不妊治療を始める年齢が比較的高い傾向があると指摘する。妊娠する力の指標となる妊孕性(にんようせい)は35歳頃から大きく低下することが知られているが、日本で不妊治療を受ける患者の平均年齢は38歳。体外受精における妊娠率の例としては、 30〜34歳の1周期あたりの妊娠率が28〜29%であるのに対し、40〜45歳では6〜17%に下がるという。

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上條 慎太郎(かみじょう しんたろう):ORINAS ART CLINIC 院長、医学博士、産婦人科専門医、生殖医療専門医。慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院 産婦人科、国立成育医療研究センター研究所などで生殖医療に従事。慶應義塾大学医学部専任講師を経て、2026年4月に「ORINAS ART CLINIC」を開業予定。四児の父。

「私たちの世代は"キャリアか家庭か"という空気が明確にありました」

そう語る山川は続ける。

「私はキャリアを選んできた。第一子に恵まれたのは結果的に良かったけれど、年齢と妊娠の関係を知らないまま身を粉にして働き続けてきた女性にとっては厳しい現実でもありますよね」

さらに存在するのが、「キャリアと妊娠・不妊治療の両立」という新たな課題だ。

不妊治療では週に1〜3回の通院が必要になることも多く、診察や検査に数時間かかる場合もある。突然の来院指示や、昼夜問わず決められた時間の投薬など、生活が大きく制約される。実際に、不妊治療とキャリアの両立が難しく、働き方を変えた女性は4割に上るという。(NPO法人Fine調査)

過去に役職を変えて治療に専念した経験を持つ中井はこう語る。

「職場に伝えて応援してもらえても、なかなか授からないと、まだ?という空気になることも。治療の成功率について職場や家庭の理解が進めば、社会全体でも支えやすくなるのではと思います」

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母になることと、働き続けること。

子どもを授かってからも、キャリアとの葛藤は続く。

「35歳までの間に、キャリアを築く時期、卵子を採っておく時期、出産と育児の時期......というように計画できたら理想ですよね」(中井)

しかし、その前提となるのは、妊活のリアルを知ることだ。

「私も以前は仕事がすべてで、命をかけてきた。でも娘が生まれて、自分の命より大事なものがあると知りました。仕事は一年休めるけどその時に取らなかったら取れないものがあると感じています」(山川)

ただ、キャリアの真っただ中にいると、仕事を休んででも妊活や子育てを優先する決断は簡単ではない。

「キャリアは20〜30代が勝負だと思いがちだけど、そうではなくずっと働き続けられる。仕事の寿命は長いんだよ、という視点も、社会でもっと共有されるといいなと思います」(山川)

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妊活にはだかる3つの壁と、変わり始めた社会。

今回のトークから浮かび上がったのは、不妊治療や子育てにまつわる「時間の壁」「心理の壁」だ。

一方で近年、大きく改善したのが「費用の壁」。2022年に不妊治療が保険適用となり、1周期100万円近くかかっていた治療費がその3割程度で受けられるようになった。

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現在、8〜9人にひとりの子どもが体外受精で生まれている。これからは不妊治療が特殊なことではなく当たり前の時代になっていく、と上條。不妊治療の認識も変わりつつある。

不妊治療を取り巻く社会は、もどかしいほどゆっくりに思えるかもしれないが確実に進んでいる。そのなかで上條は医療者として、「自分の身体の状態を知ること」の大切さを指摘する。

将来の妊娠を考えた健康管理と情報収集を指す「プレコンセプションケア」という言葉も、近年よく聞かれるようになった。

卵巣の状態や子宮の疾患、感染症の抗体などを検査するもので、費用は自費で2〜3万円ほど。20代後半から30代前半で一度受けておくのが理想だという。

さらに、将来の備えとして知っておきたいのが卵子凍結だ。未受精卵を凍結保存する技術で、費用は30〜50万円程度。もちろん、必ず妊娠できる保証ではない。それでも、将来の可能性を残すひとつの手段になる。

「子どもがいる人生と、いない人生。それぞれ違う人生。だからこそ、自分でボールを持たなきゃ。妊活や子育てで被害者のような気持ちになることもあるけれど、自分で選んでいくんだという感覚が大事だと思います」(山川)

女性が活躍する時代に、人生の選択肢はどこまで自由になったのかーー。その問いの答えはまだ途上にある。

しかし社会が変わりつつあるいま、自分の身体を知り、備えることが、未来の選択肢を広げる第一歩になるのかもしれない。

問い合わせ先:
ARCH
https://arch.social/

 

text: Kaoru Ueno(Routusworks)

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