【BWA AWARD 2023】新たな選択肢を創り出す、 女性たちの物語。 未来の命を輝かせるために、ゼロから踏み出す勇気を。

Society & Business 2023.11.20

「美しく豊かな働き方」を実践する次世代の女性ロールモデルを讃えるフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)Award。3回目となる本年のテーマは「新しい選択肢を創り出す女性たち」。既存の選択肢にとらわれず、新たな価値観を切り拓き、これからの働き方をより豊かにしてくれる5人の取り組みを紹介します。


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中井友紀子
【 ARCH代表取締役CEO 】

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中井友紀子(なかい ゆきこ):2009年、オプト(現DIGITAL HOLDINGS)入社。デジタルマーケティングおよび女性向けコンシューマ事業の立ち上げに従事。13年にコミュニティファクトリー入社後、ヤフーによる同社買収/PMIに伴いヤフーへ転籍。15年に同社子会社であるTRILLの代表取締役に就任。女性向けメディアを立ち上げ、2000万人規模の媒体に成長させた。21年ARCHを創業。22年5月、同社がプロデュースしたtorch clinic(トーチクリニック)が開業。https://arch.social

日本における体外受精による不妊治療件数は増加傾向にあり、2021年、体外受精によって生まれた命は過去最多の6万9797人に達した(日本産科婦人科学会調べ)。

中井友紀子が起業したARCHがプロデュースするトーチクリニック(東京都・恵比寿)は、毎月約1000人が来院する不妊治療クリニックだ。かつてヤフーの子会社で女性向けメディアを手がけていた中井はある日、自分の身体について無知だったと気付く。

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ARCHがプロデュースするトーチクリニック。培養室なども完備し、質の高い診療を提供する。

「30歳を過ぎて2人目の子どもをなかなか授かれず不妊治療を始めたところ、多嚢胞(たのうほう)性卵巣症候群と診断されました。この時まで自分が排卵しにくい体質であるとはまったく知りませんでした」

日本の少子化が叫ばれて久しいが、22年の出生数は77万747人(厚生労働省調べ)。30年に80万人を下回るという政府の推定が8年も早く現実のものとなった。いっぽうで体外受精の実施件数はここ20年ずっと右肩上がりで、22年には公的医療保険が適用された。中井は自身の体験をこう話す。

「子どもを授かれる年齢には限りがあることを身をもって知りました。クリニックでの待ち時間は非常に長く、働く女性にとってハードルが高いことも痛感しました。私も仕事をセーブして、何百万円という費用をかけて辛い思いをしました」

19年に始めた治療から3年後、無事2人目の子どもを出産。この期間に中井が構想したのが、現在ARCHが手がける不妊治療のデジタルトランスフォーメーション化だ。具体的には、デジタルやデータを駆使して診療所での待ち時間を減らし、受診の負担を軽くする。通常は病院でする問診票の記入や予約を事前にアプリで済ませることで、診療に時間が割けるようになる。こうして1組でも多くのカップルに人生の選択肢を増やす機会を提供したいと中井は考えている。

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ARCHが開発したアプリでは、受診前に問診票を送信。項目は月経の周期、夫婦の性交渉の回数、いつ何人子どもが欲しいのかといった具体的なもの。女性に負担がかかりがちな不妊治療において、夫婦の話し合いを促す設問が画期的だ。

「政府の『異次元の少子化対策』に不妊治療の文字はあるけれど、あまりフォーカスされていない。女性の活躍推進が進むなか、自分の"授かる力"を考える機会は後回しになってしまう。もっと気軽に通えるクリニックがあれば、少子化は食い止められるはずです」

起業するにあたり、求めたパートナーは医療機関システムと患者側のアプリシステム開発を担う技術者と、生殖医療の分野に従事する医師だ。前職でともに働いた気鋭のエンジニア、椎野孝弘は快く引き受けてくれたが、IT業界出身の中井にとって医療業界は未知の分野。2年間で100人近くの医療者と会い、ようやく巡り会ったのが、現在トーチクリニックの院長を務める市山卓彦医師だ。

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「人生の選択肢を増やすための、医療とテクノロジーを融合した不妊治療専門クリニック」という考えに賛同した投資家らと。左からXTech Ventures手嶋浩己、ARCH椎野孝弘、中井、UTEC坂本教晃、ANRI佐俣アンリ。

「市山さんは救急医療の現場で年間3000人もの女性が子宮頸ガンで命を落としたり、リスクの高い出産の増加を目の当たりにし、より専門性の高い生殖医療を学んだドクターです。若い人に妊孕性(にんようせい)(妊娠するために必要な力)のことを知ってもらうために、ITを駆使したシステムで新しい受診体験を作りたいという、同じ志を持つ人でした」

一般的に、女性は35歳以降妊孕性が下がり始める。できれば35歳までに男女とも自分の身体のことを知ってほしいと中井は言う。

「まずは知る機会を持ってもらうこと。日本で不妊治療や体外受精をしている人の平均年齢は38歳。この年齢をもう少し引き下げたい。簡単な血液検査でわかることもあります。より早い時期に身体の状態を知ることで、未来の選択肢は増えると伝えたい」

仮に第一子を出産できたとしても、中井のように第二子が授からないケースもある。

「第二子以降を希望する方は受精卵を凍結しておく選択肢もあります。私たちは、自分の人生は自分でデザインすべきだと考えます。そのためにできる支援や情報はどんどん発信していきたい」

現在6歳と2歳の子どもを育てながら、クリニックのプロデュースのほか、社会全体に向けて妊孕性の理解を深めてもらう活動も行っている。ここまで中井を突き動かす原動力はなんだろうか。

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出資元のひとつであるベンチャーキャピタルANRIのイベントに1歳だった娘と登壇した中井。「日々、周囲の方に応援していただいています」

「どんどん人口減少する社会では、せっかく授かった子どもたちが責任ばかりを担うことになります。私は子どもたちの未来のために、このミッションに邁進しているんです」

医療系もIT系も、スタッフには目的を共有しながら各自の能力を発揮できる環境づくりを心がけていると中井。誰も見たことのない景色に向けて、一歩ずつ前進を続ける。

「ゼロからのチャレンジで人生がダウングレードすることはないと信じています。課題解決のためにやりたいことがあるのなら、踏み出さない選択はない。医療界でもビジネス界でも劣等生な私ですが、志高く走り続けたい」

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Judges' Comments

阿座上陽平(ゼブラアンドカンパニー共同創業者)
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自らが直面した課題を、より多くの人に啓蒙し、解決するために起業してサービスを作りきっている。不妊治療で苦しむ人も多い中、このようなサービスにスポットを当てて、応援していきたい。

工藤七子(一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF) 常務理事)
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子どもが欲しいけれど授からない、という問題は社会の力でもっとなんとかできるはず。クリニックをプロデュースするという、ハードルが高い課題にあえて取り組む馬力や熱量が素晴らしい。

山川 咲(CRAZY WEDDING創業者・クリエイティブディレクター)
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人生の流れの中で、しなやかに変化する彼女をずっと応援していた。自然と見えてきた道を彼女らしく力強い形で、大きく動かしながら前に進むのを見て、パワーをもらった。

BWA Award 2023 受賞者一覧を見る

photography: Sakai De Jun text : Junko Kubodera

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