鮮やかに蘇った、フランスの象徴。ノートルダム大聖堂、再建の物語。
Notre-Dame de Paris
ノートルダム大聖堂〈4区|シテ島〉
炎と煙に包まれた尖塔がゆっくりと崩れ落ちるさまを、世界が息をのんで見つめたのは、2019年4月15日のことだった。それから5年半。昨年12月7日、ノートルダム大聖堂の扉が再び開かれた。

木組みの屋根は焼け落ち、溶け出した鉛の粉塵が彫刻やステンドグラスを覆い、消火のための大量の水を浴びて壊滅的な状態となったノートルダムのために、世界中から8億4000万ユーロを超える寄付金が集まった。250の企業と2000人の職人を動員した5年間の修復工事では、屋根を立て直すためにフランス全土から2000本以上の樫材が切り出された。4万2000立方メートルに及ぶ壁や天井の石が磨き直され、約2000点の彫刻が運び出されて各地のアトリエで修復された。尖塔の再建のために組まれた高さ100メートルの足場とクレーンが、パリの空にそびえ立った。中世と同様、手斧で大聖堂の木製構造を組み上げた大工たち、鮮やかなチャペルの彩色を再現した修復師たち、数千本ものパイプを解体し、掃除して美しい音色を蘇らせたオルガン技師の姿。ノートルダム大聖堂の修復は、中世以来のサヴォワールフェールを継承する職人の手仕事に再び光を当てた。
色彩が目を引く礼拝堂

再びお目見えしたステンドグラス

大聖堂に足を踏み入れれば、長年の埃が払われ磨き上げられた白い石壁にステンドグラスが色を映す大空間に圧倒される。入口からまっすぐに祭壇の方向を望めば、天井高33メートルのアーチの連なりの奥に、金色に輝く十字架とステンドグラスが見える。ネフ(主廊)を囲む側廊に沿って並ぶチャペルの色鮮やかさ。祭壇の後ろにあるクワイア(聖職者のためのスペース)を囲む内陣障壁には14世紀の彩色彫刻が生き生きと蘇り、キリストの生涯と復活後の物語を伝えている。北、南、西側を彩るバラ窓。西のバラ窓をバックにシルバーに輝くパイプオルガン。十字架のキリストが頭に頂いていたいばらの冠の一部とされる聖遺物も火災から無事に救出され、東側の奥の「聖母マリア7つの悲しみ」チャペルの中央に安置されている。
奇跡の無傷、ピエタ

息を吹き込まれた

キリストの冠が聖堂の奥に

12世紀から14世紀にかけて建設されたゴシック様式の大聖堂は、フランス革命時に権力の象徴として破壊の対象となり、荒れ果てた。19世紀に入ってナポレオンの戴冠式が行われ、ヴィクトル・ユーゴーの小説『ノートルダムのせむし男』で一躍有名になった大聖堂は、1844年、建築家ウージェーヌ・ヴィオレ=ル=デュックの指揮で大改修される。ゴシック建築に特別な想いを寄せる彼は中世当時の技術に忠実であろうとし、中世のスタイルに一貫性を持たせるため、修復に留まることなく新たな彫刻を加えた。鮮やかなペイントを施して中世スタイルの内装を完成させ、フランス革命で破壊された尖塔を自らの意匠で再建した。
大火災を受けての今回の修復の目標は、この大改修時の姿を取り戻すことだったが、いくつかの現代クリエイションも時代の足跡を残している。大聖堂に入ってすぐ目に入る十字架を抱いたブロンズの洗礼盤、祭壇、司教座などの調度品や、重要なミサで聖職者が纏う祭服、信徒や見学者のための座席などが新たにクリエイトされた。北側の回廊に並ぶチャペルを飾るタペストリー、南側の回廊のためのステンドグラスもまた現代アーティストの採用が決まり、制作が進んでいる。
「建物を修復するとは、維持し、直し、作り直すことではない。その時代にはまったく存在しなかったかもしれない完全な状態に立て直すことなのだ」とウージェーヌ・ヴィオレ=ル=デュックは語っている。
住所:
6, Parvis Notre-Dame place Jean-Paul II 75004
電話:
01-42-34-56-10
Ⓜ:
CITÉ
開:
7:50〜19:00(月〜水、金)、7:50〜22:00(木)、8:15〜19:30(土、日)
ミサ(見学無料|要予約)
8:00、12:00、18:00(月〜金)、8:30、12:00、18:00(土)、8:30、10:00、11:30、18:00(日)
休:
無休
髙田昌枝
パリ在住歴32年。出版社勤務後、フリーランスエディターを経て、2017年より「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。本誌連載「Hot from PARIS」でパリの“いま”を伝える。
- ●1ユーロ=約162円(2025年4月現在)
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- photography: Julio Piatti-Notre Dame de Paris
- text: Masae Takata (Paris Office)
*「フィガロジャポン」2025年5月号より抜粋