表現の自由が再び問われる、「私はシャルリー」から10年。

Paris 2025.03.11

「私はシャルリー」を覚えているだろうか。2015年1月7日、イスラム過激派がムハンマドの風刺画を掲載した週刊紙「シャルリー・エブド」編集部を襲って12人を殺害したテロは、表現の自由を脅かすものとして世界に大きく報道された。

その4日後、「Je suis Charlie」というスローガンを手に150万人がパリの街を歩いた壮大なデモを記憶している人もいるだろう。「シャルリー」は同紙の意見に賛同するか否かを超えて、宗教を揶揄する自由、風刺する自由、表現の自由そのもののシンボルとなった。

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1月のパリに登場したポスター。市の紋章に刻まれた「FLUCTUAT NEC MERGITUR(波に打たれても沈まない)」を掲げ、「パリは忘れない」とひと言。
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2015年1月11日、パリの街では150万人が「私はシャルリー」を掲げた。photography: Marc Verhille

それから10年。メディアはそれぞれに特集を組み、「いまでもみんなシャルリーなのか?」という問いかけを発している。

「シャルリー・エブド」紙の1月7日号は10年目を機に18歳以上のフランス人を対象としたIFOP(フランス世論研究所)の調査を特集し、表紙に「フランス人の76%が風刺画の自由に賛成」と記した。その割合は12年の58%に比べて大きく伸び、宗教を揶揄する自由についても62%が賛成で、風刺画の自由は支持されているという。

だが年齢別の統計を見ると35歳以下では「宗教の冒涜に反対」「何でも笑っていいわけではない」「ニューヨーク・タイムズが風刺画の掲載をやめたのは正しい」などの項目で、自由の制限を肯定する傾向が上の世代よりも強いのが見てとれる。

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左:「シャルリー・エブド」1月7日号の一面は「負けない!」 右:襲撃直後の「シャルリー・エブド」編集部が身を寄せたのは「リベラシヨン」の社屋だった。10年後、同紙の一面は宗教をモチーフに「自由、自由、シャルリー」の風刺画を掲載。

襲撃テロの頃に子どもだった世代にとって、情報収集の手段はSNS。テレビや新聞雑誌という伝統メディアではなくなり、メディア全体のあり方は大きく変わった。フェイクニュースやSNS上のハラスメントが問題化したのもこの10年のことだろう。

表現の自由を掲げてXやメタがファクトチェックを廃止し、フランスでもボロレのような企業グループがメディアの統合を進め、極右に偏ったコンテンツの発信が懸念されている。1789年の人権宣言で法律の定める濫用を除く「表現の自由」を謳ったフランスにとって、表現の自由は基本的な人権であることに変わりはない。

「誰もが何でも発言できる」SNSという自己発信型メディアが飛躍的な発展を見せ、情報操作が懸念される世界情勢の中で、「シャルリー」10年の節目はあらためて表現の自由について考えさせるきっかけになっているようだ。

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1月7日、大統領とパリ市長が出席し、元編集部の建物前で10年目の追悼が行われた。photography: Henri Garat/Ville de Paris

*「フィガロジャポン」2025年4月号より抜粋

text: Masae Takata(Paris Office)

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