うまくいかなくなったら、同性とデートしてみる恋愛術。
フランス人のホントのところ ~パリの片隅日記~ 2025.06.17
世の中にはいろんなハンサムがいるが、大まかにいってモテそうなハンサムと、モテなさそうなハンサムに2分されるものだ。もちろんこれは、私の個人的な意見である。
何年も前に、この「モテそうなハンサム」側だとひと目でわかる人に出会ったことがあった。ときどき、フランスには「モテそうなハンサム」がうじゃうじゃいると思っている人もいるのだけど、案外、めったに出会わないものである。
さらにいうとこの彼はただ「モテそうなハンサム」なのではなく、「ものすごくモテそうなハンサム」であった。彼に女性が群がることは、太陽が東から昇るのと同じくらい明白なことに思えた。
それはつまり、ただ彼の瞳の色がきれいで、明るい金髪で、背がすごく高くて、笑顔が素敵、な、だけではないということだ。パッと見れば男性的な人だけど、にこやかで柔和な雰囲気があって、話題が尽きず褒め上手で、人に決して恥をかかせない配慮があって、なによりも恐ろしく話しやすかった。自分を脇に置いて相手のペースと完全に合わせることができるのだ。まるで凄腕の宗教家である。これはきっとモテてモテて大変なことだろうと思って、うっかり好きになったら困るから瞬間的にちょっと精神的な距離を置いたくらいだった。
実際、彼を好きになる女性は後を絶たず、しかし「モテてモテて大変」というよりは、良くも悪くもその状況を楽しみながら日々を過ごしているらしかった。私は、やっぱりそうなのか、と彼を好きになって胸を焦がし傷つく真っ直ぐな心を持った女性たちのことを想像した。
その彼とは、パリを離れると聞いてからもう何年も会っていなかった。でも最近彼と同名の人と知り合ったのをきっかけにふと思い出し、どうしているのか気になって連絡を取ってみたのだった。
近況を聞くと、今の彼は旅とスポーツに多くの時間を割いているようだった。そしてなんと、私の人生で出会った中でもベスト3に入るモテ男だった彼が、少し前にとんでもない大失恋をしたという。しばらくの間、仕事も何も手に付かずひたすら落ち込んで浮上できずにいたのだと話した。あの彼をそんなふうにする女性なんて、いったいどんな人なのだろうと頭の中に規格外のものすごいファム・ファタールみたいな人を思い浮かべた。若いころのソフィア・ローレンみたいな。
「それでね、男性とデートすることにしたんだよ」。
と、彼は何でもないようにさらっと続けた。私はけっこう驚いたのだけど、全然驚いてないふうを装って相槌を打った。
以前の彼はバイセクシャルではなかったし、もしそうであれば性格的にも周囲へ話していたはずだ。彼は単純に、失恋したことで「こんなに好きになった女性とうまくいかないなんて、もしかしたら自分はゲイかもしれない」と考え男性とデートすることに決めたのだという。差し当たってまだ自分のセクシュアリティに確信を持つには至っていないようだが、女性はしばらくこりごりという気持ちもあって男性とのデートを続けているといるそうだ。
いずれにせよ今の彼がとても明るい様子だったので、落ち込みから抜け出せて良かったなと私は思った。
彼の話を聞いて驚きはした私だが、じつをいって「女性との恋愛がうまくいかないので男性とデートしてみる」という話を聞いたのは初めてではなかった。何人ものフランス人男性から、似たような話を聞いたことがあったのだ。
前述の彼はまずそういうタイプには見えなかったから驚いたのだけど、皆いろんな理由で女性との恋愛がうまくいかず、「自分には別の道があるのでは」と考えてわりと気軽に同性とのデートをはじめてしまう。
不思議なことに、この手の話は圧倒的に男性から聞くことが多いのだ。だからといって日本人男性でこの恋愛術(と言って良いだろうか?)を試したことがある人にはまだ出会ったことがない。
この"恋愛術"を実行していた男性たちのその後はどうなったかというと、ほぼ全員が運命の女性を見つけ、結婚し、幸せそうに暮らしている。ほんの1回だけ男性とデートしてまた女性と恋愛をはじめたという人もいれば、何十年も男性とデートしていたのだけど50代で妻となる人に出会って......という人もいる。
男性とデートしたこととまた女性との恋愛がうまくいきはじめることには何の相関関係もないのかもしれない。恋愛がうまくいかなかったら相手の性別を変えてみるというのは、私にはなかった発想で、良いとも悪いともいかなる感想も持てない。
でもなんとなく、この縦横無尽な感じ、「AがだめならBにいってみよう」「BがだめならまたAに戻ることもやぶさかではない」「自分はこれまで考えてきたような自分ではないのでは」「もっと違う可能性があるのかも」と考えてサクッと行動に移してしまう感じ、幸せをつかみやすい人に共通しているよね、と考えてしまうのだ。
text: Shiro

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。
パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。