
京都で出会った 伝統工芸「結び紐」
突然、紅葉写真で失礼いたします。こちらは、昨年秋、京都の南禅寺です。
昨年は、関西での仕事が多かったため、海外に行けない分、近年観光客の多さに辟易し、ずっと疎遠になっていた京都に、何度も足を運ぶことができました。
古都の歴史を紐解くと同時に、日本人の繊細な美意識や高い精神性の素晴らしさに改めて触れることが出来、この国に生まれて本当に良かったと何度も思った、そんな一年でした。
さて、南禅寺拝観の帰り道に、心惹かれる佇まいのお店を見つけました。
うっとりするほど美しい苔色の房に導かれ、中に入ってみることに。
こちらは、「なかお宗」さんという、手作りの房や紐の老舗専門店。
京都の伝統工芸である「飾り結び」の技法を使った和小物などを、製作販売されています。
京の匠に選出された4代目のご主人とその奥様が、ひとつひとつ丁寧に手作業で仕上げているという、様々な飾り結びのお品たちは、どれも魅力的で、小さな芸術作品の数々にすっかり心奪われました。
房や結び紐の歴史は古く、平安時代には既に、貴族の調度品や装身具などに使われていたと言われています。
鎌倉時代には武具甲冑として、室町時代には茶の湯の席で、そして江戸時代には、仏具や僧侶の袈裟等にも用いられるようになった等、京都の長い歴史と結びつき、育まれてきました。
茶道や華道などの家元、各宗大本山が集まる京都だからこそ需要が多く、職人さんたちが切磋琢磨し、その技術と創意が融合したことで、伝統産業として現代に継承されてきたのでしょう。
神社仏閣の伝統行事や祭礼等が壮麗で威厳あり、そして、いつの時代にも人を魅了してやまない理由のひとつに、房飾りの存在は決して小さくないと思います。
正絹を使っているため、艶やかな色あいが洗練されていて、とても美しい。
根付やキーホルダー、タッセル、帯留めなど買いやすい小物類が中心で、飾って眺めておくだけでも満足できそう。
おこがましいですが、このセンスと技術は、きっと外国のハイエンドにも好まれるのでは?
やはり、的中しました。この古いポスターが語っているように、名をお書きすることは出来ませんが、誰もが知るラグジュアリーブランドのお仕事を請け負ったこともあるようです。
普段から布や紐、リボンなど上質素材に目がない私はこの世界観に魅了され、矢継ぎ早にあれこれ質問。
創業150年の老舗ですが、驕りのようなものは一切なく、気さくで丁寧に応じてくださるばかりか、
「せっかくなら」と、奥様が、現在進行中だという作品までも、お店の奥から取り出し見せて下さいました。
「え、編みですか」
ヴェネツイアンレースを彷彿させるような優雅さと輝きです。
「いいえ、全て手で結んでいます。道具は使っていないのですよ。」
糸の撚り合わせで紐に仕上げ、房飾りと組み合わせていくことで、こんなに繊細なものが出来るのですね。
さらに、こちらは、まるで今にも動き出しそうな躍動感ある龍。
まるでご夫婦のアトリエを訪ねたような、とても居心地のよいお店でした。
ホテルに帰ってから検索してみましたが、キーワードだけではヒットせず、名を入れてようやく出てきたこちらのお店。
「このお値段では出せなくなるから」と、
百貨店などには一切出店せず、こちらとネット販売だけでなさっているようです。
奥まった小さな通りにひっそりと佇む名店。
思いがけず、そんな魅力あるお店や人に出会えるのが、京都旅の醍醐味ですね。
今年も関西での仕事案件がいくつか。
コロナが落ち着いた頃に、是非再訪したいと思っています。
ARCHIVE
MONTHLY