日常を離れて自分を取り戻す、ひとり旅の効用。

Culture 2019.04.24

バリバリ働いてキャリアアップしながら、家事にも育児にも手を抜かない――。そんなスーパーウーマンであるべく日々奮闘する女性たち。彼女たちはいま、自己回帰という経験を求めてひとり旅に出かけている。

190424_solitude-plage-randonnee.jpg

孤独を受け入れることは「他人の視線に左右されるのをやめること」と、精神科医で精神分析家のマリー=フランス・イリゴワヤンは言う。photo:Getty Images

社会で活躍しながら、多くの場合、家事や育児もこなす現代のフランスの女性たち。魅力的で周囲への気遣いを忘れず、きちんと仕事もこなすことを求められながら、さらに読書をし、「いいね」を押し、スキンケアも怠らない。

そんな女性たちの中に、孤独の意義を見直す動きが出てきている。彼女たちはもう、いっぱいいっぱいなのだ。週末の小旅行、あるいはちょっとした息抜きに、ひとりで出かける女性の数がどの世代でも増えているという。何にも誰にも頼らない時間を持つこと――それが旅の目的だ。

哲学者ファブリス・ミダルは、『Foutez-vous la paix !(自分をそっとしておいてあげなさい!)』(フラマリオン出版)という、彼女たちの気持ちを汲み取ったようなタイトルの著書を発表した。オーダーメイド旅行の老舗旅行代理店「Voyageurs du Monde」もこの動きに着目している。「この1年で需要が急激に伸び、カタログに“ひとり旅”の項目を設けようと検討しているところです」と話すのは、同社広報ディレクターのナタリー・ベロワール。“つながっていること”が半ば強要されている時代において、孤独にどっぷりと浸ることは最上の贅沢となっているようだ。

義務よ、さらば。

女性がひとりでいると聞いてすぐに思い浮かべるイメージは、エドワード・ホッパーの『オートマット』(1927年)に描かれているような食堂のテーブルでブラックコーヒーを見つめる女とか、クロード・ソーテの映画のひとコマに登場しそうな、地方のブラッスリーのカウンターで白ワインをちびちび飲む女といった、メランコリックな情景だった。

ひとりでヴァカンスに出かける女性といえば、男性との出会いを求めているか、さもなければ、登山用ショートパンツを履いた自然保護活動家の先駆けみたいな女性。こうしたイメージがすべて音を立てて崩れていく。「問い合わせてくる女性が選ぶ目的地は遠方の国が多い」と、前述のベロワールは言う。「彼女たちは運転手なしでレンタカーを借り、団体旅行客を避けます」

「ひとりでいることを、自分自身を見つめ直し、本来の自分を取り戻し、自由に活動するための手段と考える女性たちは孤独を恐れません」と精神分析家のカトリーヌ・オディベールは言う。彼女たちが求めるのは、ダイエットや絵画教室、ヨガ教室といったものではなく、文字通りあらゆる義務から逃れること。「1年に5、6日ほどですが、ひとりで日常から逃げ出します」と、広告代理店に勤務する女性は話す。娘が3人いて、夫は地理の教師をしている。「小ぶりのスーツケース、何冊かの本、海に面したバルコニーつきの部屋。目の前の景色を堪能し、話すことはほどんどありません。家事をする必要も、食事の献立を考える必要もありません!」

孤独と、自分の殻に閉じこもることは違う。

孤独を受け入れることは「他人の視線に左右されるのをやめることです」と、精神科医で精神分析家のマリー=フランス・イリゴワヤンは言う。1958年、天才的な小児科医で精神分析家のドナルド・ウィニコットは、この“ひとりでいられる能力”について分析した。ひとりでいることは「かけがえのない財産として保存すべき、孤独という根本的な核」を求める正当な権利、とし、これを自分の殻に閉じこもることと混同してはならないと述べている。「”ひとりでいる”ことは、”私”という存在の発展形にほかならない」と、ウィニコットは述べた。しかも、この能力の基礎はすでに幼年期に学習済みなのだという。「いい孤独は、他者を内在化することで初めて可能になります」とカトリーヌ・オディベールは説明する。「常に誰かがそばにいると思えなければ、他者から離れることはできません」

診療の中で、マリー=フランス・イリゴワヤンはひとつの結論を得たと言う。「現代の女性は、週末、あるいはそれより長い期間でも、平気でひとりで出かけていきます。むしろしり込みするのはパートナーの方です。私が診ている患者のひとりで、仕事でストレスを抱え、頻拍の症状が現れている女性が、ようやく決心してひとり旅に出て、とても気持ちが軽くなったという話をしてくれました。そうだろうと思います。こうした小旅行に出ている間は、不安発作の原因となる日々の荷物を降ろせるわけですから。あらゆる枷から自由になれるのです」

では、家に帰ってきたらどうすればいい? 家族に体験を語るべき? 精神分析家はふたりとも、「絶対に話さなければならない」と思う必要はないと言う。「いずれにせよ、この経験を分かち合うことはできません」と、マリー=フランス・イリゴワヤンは言い切る。「旅先で出合った風景は語れますが、自分に向き合う、自分のための唯一無二の体験について語ることはできない。不安と感嘆、来るものを自然に受け止める気持ちが入り混じった、不思議な体験なのですから」

どこかに出かけるのにぴったりの季節が到来。自分を取り戻すためのひとり旅、みなさんもいかがでしょうか?

texte:Viviane Chocas (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories