「宿題やった?」はNG。子どもの自主性を育てるには?

Culture 2021.08.19

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表

210802-newsweek-01.jpgphoto: stockstudioX-iStock

親の干渉が強ければ、子は自信のないまま大人になってしまう。とはいえ、放任するのもまた違う。子どもの自主性を尊重するとは具体的にどういうことか、名門校の首席卒業者のケースを交え解き明かしましょう。

私は、日本、アメリカ、中国で学習塾を経営する中で、多様な子どもたちを預かってきましたが、学業や課外活動、そして社会で成功を収める子どもには人種や国籍を越えた行動の一致が見られます。たとえば大きな特徴のひとつとして「自主性の高さ」があります。

努力を惜しまず、勉強も、習い事も100%の力で打ち込むのです。全力を出し切るからこそ、自分の選択に後悔することなく、また失敗や成功、すべての行動から学びを得て、成長し続けていくという好循環が生まれます。

それゆえに、少々の挫折には折れない心の強さ、物事を最後までやり遂げる意志の強さ、何事もコツコツ続けるという積み重ね、より大きな目標に挑戦するチャレンジ精神などが身についていきます。

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よい習慣が自主的な「やる気」につながる。

「勉強しなさい!」と言われなくても自主的に勉強し、社会に出てからも誰に何を言われずとも努力と研鑽を続けていける。自分のなすべきことに対してモチベーションの高い子どもに育てることができれば、将来、どんな道を選択しようとも、成功できる可能性は飛躍的に高まります。

教育の世界では、やる気や粘り、メンタルタフネスなど「成功するために不可欠な資質」を「非認知スキル」と呼ひます。このスキルはどうすれば身につくかと言うと、答えはとてもシンプルです。子どもに「よい習慣」を身につけてもらうこと。これに尽きます。

子どものやる気を伸ばす行動を積み重ね、習慣化し、定着させるのです。優秀な子どもはもれなく「よい習慣」を持っています。この習慣が、子どもの人生の基盤となっていくわけです。

よい習慣が身についている子どもの「親」に必ず共通するのが、「子どもの自主性を尊重すること」です。

自主性を尊重するとはどういうことかというと、「あれをしなさい」「これをしなさい」といった命令や指示をしないこと。子どもの選択を大切にし、親が具体的な行動を強要することがないのです。もちろん、「勉強しなさい」「宿題をしなさい」とも言いません。

一方で、子どもの好きなこと、興味のあることには惜しみない協力をし、学びの場を積極的に用意しているのです。

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人生の哲学を伝え、あとは子どもに任せる。

アイビーリーグの名門、ペンシルバニア大学ウォートンスクールを首席で卒業したアディル君は、こう言います。

「両親は私が何をするにも私の意志を尊重してくれました。私が『何をすべきなのか』を示してくれましたが、『どうすべきなのか』は私に任されていたんです。

たとえば家族のルールとして「スポーツをすること」がありましたが、どのスポーツをするのかは私が選ぶことができました。私の選択について両親が反対したり、うまくいかなかった時に叱ることはなかったです。おかげで私はあるがままの自分に自信を持つことができました。

両親は「学問はどんな道を目指す上でも絶対に必要なものである」と、勉強の大切さについて教えてくれましたが、「勉強しなさい」と私に言ったことはありません。勉強をいつ、どこで、どれだけやるかは全て私に任されていました。でも放任していたわけではなく、勉強でわからないことがあればいつも両親が助けてくれました」

このアディル君のケースのように、優秀な子が育つ家庭では、親が子どもに「大枠の方針」や「人生の哲学」を伝えはしますが、「では具体的にどうするか」は子ども自身に選ばせます。そして、子どもがつまずいた時には手を差し伸べ、一緒に解決していくのです。

すると何が起きるかというと、子どもの「やる気」が伸びていきます。自分の選んだことが(親のサポートも手伝って)うまくいくという体験を積むことで、子どもの自尊感情が高まり、何事にも自分で目標を設定し、その目標を達成するための努力を惜しまなくなるのです。
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親の干渉が強いと「指示待ち人間」になる。

「あれをしなさい」「これをしなさい」「宿題やった」「教科書持った」と親が何においても口を出し、子どもの行動に先回りばかりしていると、自主性が育ちません。すると、以下のような悪循環に陥ってしまうのです。

・自分で考える習慣が身につかず、言われたことしかやらない(できない)
・やる気がなくなり、物事を上達させることに意識が向かなくなる
・人に指示されるのが嫌になり、親や大人の言うことを聞かなくなる
・挑戦しないので成功体験を積めず、自尊感情の低いまま大人になる
・何事も周囲に流されて決断するようになり、自己が確立されない

「言われたことをしっかりやる子」は、親にとっては「都合のいい子」に映ることもあります。また暗記が得意で、ペーパーテストではいい点数を取れることも多いのですが、問題が起きやすいのはティーンエイジャーを経て、社会に出ていく時です。

自分自身で考え、選択して物事を成し遂げてきたという自信がないので、周囲に合わせて(空気を読んで)自分の人生を選んでしまう、何かをやり切ることができず、何事も中途半端に終ってしまう、といったことが起こりやすくなります。

実際、こうした例は、特に学歴(テストの点数や偏差値)を重視する日本や韓国といったアジアの国でよく起きている問題です。

人生の目的を見つけられず転職を繰り返す、十分に自信が育っていないので、挫折を経験した時に立ち上がれなくなる、そんな若者が、実に増えています。

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自主性を尊重することと、好き放題させることの違い。

では、自主性を尊重するために「何でも子どもの言うとおりにすればいい」「子どもを放任すればいい」のかといえば、そうではありません。たとえば、ゲームが好きだから何時間でもゲームをさせていいかといえば、そうではないのです。

子どもの自主性を引き出している親は、子どもの興味や関心を「特性(強み)」に発展させて、よりレベルの高いものに変換しています。

ゲームを何時間でもできるならば、その「集中力」にフォーカスして、より集中力を伸ばすための習い事をすすめる。たとえば、プログラミングを学ばせて「ゲームで遊ぶ」から「ゲームを作る」という体験をさせる、といった具合です。

しかしその際も、親が「これをしなさい」と強制しません。子どもが自分の意志でその道を選択していると「思える」ように親が仕組みをつくっているのです。

ここで覚えておいていただきたいのは、「自主性の尊重」が子どものやる気を引き出し、自信を身につけさせる最大の秘訣だということです。

子どもの「やる気」を高めながら、親がしっかりとサポートをし、最終的に子ども自身が選ぶことによって、子どもはどんどんとたくましく、自信に満ちあふれていきます。

・子どもの興味、関心、得意なことを重視する
・その興味、関心、得意なことを、明確な強みにしていく
・子どもが「自分の意志で選択している」と思える仕組みをつくる
・子どもが選択したことについて、親がとことんサポートを与える

子どもの自主性を育てる家庭教育は、この4つのポイントをうまく押さえています。

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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