『ビガイルド』で、進化するソフィアワールドを堪能。

Culture 2018.03.29

女になってもなおそこにある、少女の可愛らしさ、残酷さ、逞しさ。

『ビガイルド 欲望のめざめ』

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無菌培養されたような少女たちの森の園=女子寄宿学園に、深傷を負った敵方兵(コリン・ファレル)という異物が混入。なんてエレガントな物狂い!

小花柄のワンピース、金髪の三つ編み、ピアノにあわせた合唱、ドレスアップした胸のリボン。少女たちの可愛らしさやその儚さを描かせたら、ソフィア・コッポラを置いて右に出るものはない。それは、彼女のいちばんはじめの映画『ヴァージン・スーサイズ』の頃から、ずっとあきらかなことだろう。

とはいえ、まず、かつてそこで14歳の少女を演じていたキルスティン・ダンストはこの映画の中ではいまや哀愁を帯びはじめさえする女になっていて、それでもなおそこにあるのは可愛らしさであることに(しかしそれは狂気を帯びてさえ見える)、私は感動せずにはいられない。

少女たちの館に負傷したひとりの北軍の男が彷徨いこむこの映画を観ながら、私はマーガレット・ミッチェルの小説『風と共に去りぬ』のことを想っていて、というのも、どちらも南北戦争の南部が舞台という理由だけではなく、そのどちらもが、少女たちの可愛らしさ、というものをとことん突きつめていった結果として、その向こう側にある、男たちがみな戦慄するような残酷で逞しい力強さまでをも、描き出しているから。

少女という存在は(いいかえれば女子どもは)、ただそのまま可愛くおしゃれが好きでいても(男の真似なんかをしたりしなくても)、決して無力なんかではない。

もはや少女と呼ばれる年齢ではなくなったソフィアが造る世界はますます迫力を増していて、私自身もまた年を重ねながらその作品を観続けることができるという幸運に、胸がいっぱいになる。

文/小林エリカ 小説家、漫画家

2014年、 小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社刊)で三島由紀夫賞と芥川賞の候補になる。ほかの著作に『親愛なるキティーたちへ』『光のこども1,2』(ともにリトルモア刊)など。
『ビガイルド 欲望のめざめ』
監督/ソフィア・コッポラ
出演/ニコール・キッドマン、エル・ファニング
2017年、アメリカ映画 93分
配給/アスミック・エース
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国にて公開中
http://beguiled.jp

【関連記事】
〈インタビュー〉ソフィア・コッポラが話題の新作『ビガイルド』について語る。
〈インタビュー〉ニコール・キッドマンが語る、母親を演じるということ。

*「フィガロジャポン」2018年4月号より抜粋

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