映画通が薦める、2018年のベスト3本。 金原由佳が選ぶ、いまの日本が見えてくる邦画3本。

Culture 2018.12.21

12月も半ばを過ぎ、ホリデーシーズンには家族や恋人、友人と一緒にゆっくり映画を観て過ごしたい。今回は、2018年に公開された映画の中から、映画ジャーナリストの金原由佳さんが選ぶベスト3本を紹介。日本人だからこそ刺さるものがある、金原さんイチオシの邦画とは?

ニューフェイスな邦画監督に期待大。

「2018年の日本映画界は『万引き家族』や『菊とギロチン』、『検察側の罪人』、『サラバ、静寂』など現在の日本を取り巻く政治や社会状況に繊細に反応し、問題定義をする力作揃いの年でした。
そんな中、心を鷲掴みにされたのは新人監督の渾身のデビュー作。上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』の快進撃を筆頭に、枝優花監督の『少女邂逅』、二ノ宮隆太郎監督の『枝葉のこと』、春本雄二郎監督の『かぞくへ』など、今年は新人の豊作イヤーでもありましたが、特に新しい目を開かせてくれた3本を紹介したいと思います」

『愛と法』

181212-kinbara-aitoho01.jpg©Nanmori Films

テレビ朝日のドラマ「おっさんずラブ」で世間が盛り上がり、ある国会議員の「LGBTには生産性がない」という寄稿文が賛否を引き起こした2018年。このドキュメンタリー映画を見て、マイノリティの状況に追いやられている人たちが、マジョリティの価値観の中でどう自分の権利を有するか、その戦い方を学びました。

『愛と法』は大阪をベースに活動する弁護士”夫夫”の日常と仕事を追ったもの。子どもの事件は未来があるから好きだというフミと、社会的に注目される「君が代不起立裁判」や「ろくでなし子裁判」の弁護を引き受けるカズ。
ふたりの活動を通して見えてくるのは、法律の穴からこぼれ落ちた人たちへの支援と理解の重要性。特に、無戸籍問題の現状には驚き。フミとカズの互いを思いやる家事の分担制にも学びが多い!

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●監督/戸田ひかる
●出演/南和行、吉田昌史、南ヤヱ、カズマ、ろくでなし子、辻谷博子、井戸まさえ、山本なつお
●2017年、日本・イギリス・フランス映画
●配給/東風
●全国にて順次公開中

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『僕の帰る場所』

181212-kinbara-home03.jpg©E.x.N K.K.

在日ミャンマー人一家の暮らしを丁寧に追った人間ドラマです。子どもたちは日本で生まれ育ち、東京が自分たちの祖国と思っている。でも、母親は難民認定されない不安定な状況に精神のバランスを崩し、ついに夫を残して、子どもとミャンマーに帰国する道を選ぶ。民主化が進むヤンゴンでの生活になじめない少年が思う、“僕の帰る場所”とはどこなのか。

藤元明緒監督はとても丁寧な演出で、演技はこれが初めてという在日ミャンマー人から、それは素晴らしい感情の揺れを引き出しています。特に、小学生の長男役カウン・ミャッ・トゥ君の出す感情は演技とは見えず、世界の映画祭で俳優賞を受賞しているのも納得。同じミャンマー出身の森崎ウィンのように成長してくれるとうれしい。

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●監督・脚本/藤元明緒
●出演/カウン・ミャッ・トゥ、ケイン・ミャッ・トゥ、アイセ、テッ・ミャッ・ナイン、來河侑希、黒宮ニイナ、津田寛治
●2017年、日本・ミャンマー映画
●配給/E.x.N

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『鈴木家の嘘』

181212-kim-suzuki.jpg©松竹ブロードキャスティング

長年、助監督として活動してきた野尻克己監督。40代になって満を持しての監督デビュー作がこれ。そこで選んだのが、かつて体験した兄の自死という重いテーマを、フィクションとして悲喜劇に昇すること。

長年の引きこもりの末、自ら命を絶った長男(加瀬亮)の死にショックを受け、記憶を失った母親(原日出子)。彼女を傷つけまいとして「兄はアルゼンチンに仕事を見つけ旅立った」と咄嗟に嘘をつく妹(木竜麻生)と父(岸部一徳)、母の弟(大森南朋)のドタバタをほっこりとした笑いで包んでいく。

肉体はなくても、共通の記憶を持つことで、日々の幸せを成立させることができる家族という不思議な共同体を描きながら、愛する人を失った者のグリーフケアの過程もじっくり見せていく。
拾い物は、妹役の木竜麻生。ドラマにインサートされるリボンを使った新体操の躍動感が、いやが応でも死んだ兄との対比を際立たせます。映画賞の新人賞の台風の目となりそうな予感。

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●監督・脚本/野尻克己
●出演/岸部一徳 原日出子 木竜麻生 加瀬亮 岸本加世子 大森南朋
●2018年、日本映画
●配給/松竹ブロードキャスティング、ビターズ・エンド
●全国大ヒット公開中

 

Yuka Kimbara / 金原由佳

映画ジャーナリスト。著書に映画評論集『ブロークン・ガール』(フィルムアート社刊)。共著に日本映画の黄金期を支えた美術監督のアートワークを紹介する『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーネットワーク刊)。

texte : YUKA KINBARA

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