約束まであと5分でも焦りなし......遅刻魔の正体とは?

Culture 2019.05.24

時計の針が刻々と進んでも、遅刻魔のあなたは現実から目を背けたまま。ToDoリストを全部こなしてもまだ、約束の時間に間に合うと思っている。社会心理学・認知心理学の研究者が、この時間に対する歪んだ感覚について明らかにする。

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あの人はなぜいつも遅れるんだろう? 待たせる人の心理とは……。photo:iStock

8時55分。あなたはまだベッドにいて、メイクもまだだしカフェも飲んでないけれど、会社の始業時間は5分後に迫っている。それでもあなたは「まだ大丈夫。顔を洗わないでワンピースをサクッと着れば5分で会社に着ける」とも思っている。たいていの人にとって朝は慌ただしいけれど、遅刻魔の頭の中では時計が疎かになっている。時間認知の専門家に、こうした行動の背景を解説してもらおう。

時間の見積もりが上手い人、下手な人。

「映画に遅れたくなかったら、あと5分で出ないと!」とジュリーはマチューに言う。この30代のカップルにとっての日常風景。マチューの耳には警告が届いているものの、マチューがコンピュータの画面から目を上げるのはジュリーがコートを着てから。「ポーカーのこの手が終わったら、すぐに靴を履いてデオトラントをつける。ほんと、すぐだから!」。「時間に対する感覚は人ごとに違います」と言うのは、クレルモン=オーヴェルニュ大学の社会心理学および認知心理学研究室のシルヴィ・ドロワ=ヴォレ教授。「何かに熱中していると、時間の感覚がまったくなくなってしまう人がいます」

時間の感覚とは、小さい頃からの学習によって身に付くもの。教授によれば、一つ一つの動作にかかる時間をきちんと認識するには、その動作を何度も繰り返さなくてはならないそう。こうした時間の見積もりが最高に上手な人には、タイムやテンポで動作を律するスポーツ選手や音楽家がいる。逆に見積もりの苦手なのが、自分のやるべきことをうまく計画したり管理できない遅刻常習者たちだ。特に彼らにとって困難なのは、新しいことを行う時。スマホのアップデート、シャツのボタンの付け替え、ニンジンの皮むき……実際にやってみない限り、掛かる時間が推測できない。

怒りや悲しみは時間感覚を狂わせる。

「エクササイズをこなしてスポーツジムから出てくるたびに、山だって動かせるような気がして、気が大きくなってしまうの」と44歳のグラフィックデザイナー、ソフィーは笑う。「だから友達から電話がきて、レストランでご飯を食べようと誘われたら、もちろん自動的に“ウィ”と言ってしまう。たとえ犬の散歩をしてシャワーを浴びて、服を着替えて車で駆けつけるまでに、あと1時間もないとしてもね」。ドロワ=ヴォレ教授によれば、感情は時間の感覚に歪みを生じさせるという。「興奮、怒り、あるいはストレスも、時間の感覚を加速させます。反対に、悲しみや抑うつはすべてを失速させるのです」

極端な場合、遅刻は苦痛に対する無意識のリアクションにもなりうる。とくに燃え尽きた状態の人にとっては。「燃え尽き症候群の場合、仕事に行きたくないわけですから、無意識のうちに出社を避ける戦略を取るものです。たとえば、自宅でやりきれないほどの用事を作って会社に遅れていく、といったような具合です」

相手の許容範囲を見計らう。

遅刻魔だけが悪者というわけではない。「遅刻する側には、相手の反応や遅刻によって引き起こされる結果が影響しています」。上司が時間に緩く、従業員に注意を促さなければ、遅刻者に対する社会的プレッシャーは弱まってしまう。

社会的プレッシャーは、職場を離れると弱まるものだ。前述のソフィーは、友人との待ち合わせにいつも遅刻していると自覚している。だが、「罪の意識は感じない」とも言う。教授は説明する。「遅刻魔は急ごうと決意する前に、待たせる相手が許してくれる範囲を予測しています」。現実には、この予測は相手が仲のいい友人の場合にはポジティブに働き、相手が大嫌いな義理の母ならネガティブに働くことになる。「後者の場合、無意識あるいは意識的に、遅刻は義理の母を避けることにつながっています」

産業化社会の犠牲者?

友情があろうがなかろうが、限度を超えれば、遅刻常習者は遅かれ早かれ見放されてしまう。「産業化社会は時間に枠を作り、時間を共同管理する必要を生み出しました」と教授は分析する。「時間を守ることは他者を尊重すること。同じ動きに従わなければ、調和が乱れてしまいます」

教授の考えによれば、これは個人差を考慮しない不公平なシステム。「慢性的な遅刻者というものは存在しません。遅刻魔はたしかに普通の人よりも時間の管理が下手ですが、それよりも住まいの場所、使用する交通機関、家族の状況や睡眠のトラブルといった、外的要因に左右されていることが多いのです」

2001年以降、フランスではいくつもの地方自治体が、「時間事務所」を開設し、地方行政が時間の問題を組み込もうとしている。たとえば、企業の従業員にテレワークのような新しい働き方や時差通勤を奨励するといった具合に。だがそういった取り組みが成果を挙げるまでは、「なんとか社会に自分を合わせるように」とドロワ=ヴォレ教授は遅刻魔に助言している。「自分の行動を意識し、待つ相手の立場に立つこと。そして必要なら、アラームという道具を使うことです」

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texte:Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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