言葉にならない心の動きを伝える、塩田千春の個展。

Culture 2019.07.03

作品は、身体と分かちがたい一体のもの。
『塩田千春展:魂がふるえる』

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『不確かな旅』2016年、ブレイン・サザン(ベルリン)展示風景。過去作よりも舟の輪郭はより抽象化された。

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『内と外』09年、ホフマン・コレクション(ベルリン)展示風景。ベルリンの壁崩壊後に収集された古い窓枠は内と外の境界を示す。

 若くして移り住んだドイツを拠点に世界的に活躍し、2015年にはヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表にも選出された塩田千春。赤や黒の糸をびっしりと張り巡らせた空間の中で、記憶、不安、夢、沈黙といった、形を持たない“言い知れないもの”に鮮烈なイメージを与えてきた。活動初期から、血液やガラス管、白いドレスといった女性の生理感覚の危うさや怖れを象徴する素材を多用するいっぽう、創作のモチベーションは歴史や社会に対しても開かれていった。おびただしい数の窓枠やトランク、鍵、舟などのインスタレーションは、いずれも東西分断、移民や難民など近現代史の事実を暗示する。同時に、そこには使い古された物に宿る個人の記憶が黙々と沈殿し、さらに作品に没入し体感する鑑賞者たちの記憶までもが雪のように降り積もっていく。

 塩田がこれまでに手がけた演劇やオペラの舞台美術がそうだったように、彼女の作品世界は生身の俳優以上に血肉や骨格のある、強靭な身体性を帯びている。過去最大規模の集大成となる本展には、副題が示すように、言葉にならない感情によって震える心の動きを他者にも伝えたい、という思いが込められた。一昨年、癌の再発を告げられて治療中の塩田は「死と寄り添いながらの辛い治療もよい作品を作るための試練なのかもしれない」と考えたという。自身の身体と作品を分かちがたい一体のものと捉える作家の、魂との対話に耳を傾けたい。

『塩田千春展:魂がふるえる』
会期:開催中~10/27
森美術館(東京・六本木)
営)10時~22時(火は~17時)
無休
一般¥1,800 

●問い合わせ先:
tel: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.mori.art.museum

※『フィガロジャポン』8月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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