フィリップ・リムが語る、サステイナブルへの挑戦。

Fashion 2019.10.11

デビュー以来、自然から着想を得たコレクションを発表し続けるフィリップ・リム。2019年秋のシーズンより、3.1 フィリップ リムは、“ファーフリー”を宣言。エキゾティックスキンおよび毛皮の使用を全面禁止した。ニューヨークコレクションを終えたばかりのデザイナーが、東京に来日。よりサステイナブルなブランドへとシフトする中、素材選びやデザインについて、またニューヨーク郊外でのプライベートなセカンドハウスでの暮らしについて、話を聞いた。

191007-01_PHILLIP-COLOR-PORTRAIT.jpgファッションデザイナーのフィリップ・リムは、カリフォルニア州生まれの中国系アメリカ人。2005年にニューヨークで、ビジネスパートナーのウェン・ゾウとともに3.1 フィリップ リムを立ち上げる。

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――つい先日、ニューヨークでのショーを終えたばかりですね。ショーを終えて、いまはどんな心境ですか。

毎シーズンそうですけど、多くの時間とものすごい労力を費やして成し遂げるわけですから、そこで何が起こったのかを受け止めるのには時間が必要ですね。今回のコレクションでは、多くの人々の反応を見て、とても安心しています。ショーを終えて、大好きな日本に来られることはとても光栄だと思っています。

――日本へは、かなり頻繁に訪れているのですか。

もう数えきれないほど来日していますね。18年くらいは通い続けていると思います。私にとって日本は、美しく特別な国。いまは、2020年に向けての変化がとても興奮させられます。いままさに、伝統と新時代の狭間にいる感じ。毎日が変化に富んでいて、それが素晴らしく新しい国を作っているのだと感じさせられます。

――2019年秋のコレクションから、3.1 フィリップ リムでは、“ファーフリー”を宣言されていますね。このタイミングで、動物の毛皮を禁止にしたいちばんの理由は何だったのですか。

個人的にもブランド的にも、いまが進化のタイミングだったのだと思います。日々、顧客や世の中の人々にインスパイアされて、ものづくりをしていますが、ロマンティックなものからリアルクローズまで、毎日着るものを見ているうちに、ファーを纏う人の少なさを実感していました。毛皮を着ることが、現代の私たちの生活において現実的ではなくなってきていると感じたんです。同時に3.1 フィリップ リムにおいても同じで、ファーに代わる素材が次々と出てきているいま、ファーを使わずとも上質な服づくりが可能になったと感じました。毎年のヘアカットにより再生可能でもある「ウール」や食肉加工の副産物である「シアリング」は、ファーと何ら変わらぬラグジュアリーでいてエキゾティックな魅力にあふれています。過去の考え方を壊すことが、新しいアイデアを生むことに繋がるんです。

191007-02_PLim_FW19_Womens_lores_Look35.jpg2019FWコレクションより、ブラックの光沢が美しいファーフリーのコート。

――これまでにエコを意識したライン、Go Green Goを立ち上げたりもしていますね。長年にわたり、サステイナブルについて意識をしていたのですか?

その当時は、タイミングとして少し早かったのかもしれませんね。サステイナブルであること、持続可能な生き方やものづくりは、私自身の人生の中にずっとあり続けています。いまここにいる自分は、すべて自己反映の中にいると思っているんです。この美しい世界に生かされているという事実を強く意識するようになったこと、環境に対する理解が深まってきたことで、自分の中の優先順位が変わっていったのだと思います。よい環境を持続しなくてはいけないこと、私たちひとりひとりがその責任を担っていること。でも同時に、私たちはもっと満足して、その生活をすることが大切だと思いました。

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自然からインスピレーションを得たコレクション。2014年SSより(右)、2016年SSより(左)。

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――日本人にとって“サステイナブル”という言葉は、まだまだ身近な言葉でないように感じていますが、日本人にサステイナブルを紹介する場合、どのように説明しますか。

サステイナブルは、“バランス”です。人が満足しながらも、この自然界で生きていくための“バランス”と説明するでしょう。でも日本には、もともと持っているサステイナブルな生き方が根付いていますよね。日本が本来持つ文化は、とてもナチュラルなものだと感じています。自然と共存し自然から感性を得た生き方だし、自然への理解がないと日本の文化は成り立たない。だから日本人にとっては、大きな変化が必要なわけではないのかもしれませんね。私が日本を愛している理由に、日本人は美しいことが大好きだし、その美しさを作り出すことができること。日本人は最高の食事、最高の材料を知っていること。そして、困難から新しいものごとを生み出す力を持っているということがあげられます。その日本人らしさを、次の世代にも繋ぐことができれば、それがそのままサステイナブルに繋がると信じています。

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ナチュラルな雰囲気、自然とリンクした過去のコレクション。2017年プレスプリングより(左)、2018年SSより(右)。

――“モッタイナイ”という日本語がありますが、あなたがそう感じる瞬間と、実践していることがあれば教えてください。

“モッタイナイ”は、いつも感じていることです。3.1 フィリップ リムにおいても、モッタイナイという瞬間を感じる度に、廃物や使わなくなったものを、新しい素材やよりよい製品に変換して価値を高めるようアップサイクルすることが、必要だと思っています。

――3.1 フィリップ リムというブランドは、そのブランド背景からファッションだけでなく生き方や人のライフスタイルにまで影響を及ぼす力を持っていますね。ファッションがナチュラルな方向に転換することは、人の生き方にも影響を及ぼすと考えていますか。

ファッションもライフスタイルも、それぞれ関係し合いながら、成り立っています。私たちは毎日衣服を纏い生活をしていますが、ファッションは誰でも自由に表現できるツールであり可能性に満ちたプラットフォームなんです。2019年秋冬シーズンのザ・ウールマーク・カンパニーとのコラボレーションもそうですが、よりナチュラルな方向へ向かわせると同時に、なぜこの材料を使うのか、消費者の理解を得ることも大切です。クリエイター側としては、そのことに責任を感じているし、最も集中を要するところですから。私の目標は、ファッションがより自然な方向へと戻っていくことです。私自身も意志のある生き方をし、健全なビジネスをすることを心がけています。一晩で世界は変えられないことを知りながら、小さくても実用的で、意味のあるステップを踏むことが大事。その小さな一歩こそが最終的に大きな動きを作り出すことができると、信じています。

1910007-07_3.1_Phillip_Lim_Woolmark_AW19_Hart_Leshkina_sRGB_1.jpg2019年秋のシーズンでは、ザ・ウールマーク・カンパニーとコラボレーションし、再生可能な天然素材であるオーストラリア産メリノウールを使用したカプセルコレクション「メリノシリーズ」を発表した。

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――ニューヨークの郊外に、素敵なセカンドハウスを持っていると伺いました。そこでの暮らしは、どのようなものなのですか。そこではどんなことを考えているのでしょうか。

ニューヨーク郊外の家は森の中にあって、月の下で眠り、太陽とともに目覚める生活ができる場所。100%、サステイナブルな生活をしていますね。ジムに行く必要もなく、川や海で泳いだり、森を走ったりしています。料理をすることもとても大切な時間で、自然の材料を使って、季節を感じることが喜びです。残った食材への“モッタイナイ”という気持ちも生まれるし、その気持ちがそのまま、コレクション制作にも繋がるようになりました。その家にいると、自然の大切さが身にしみるのです。日頃クレイジーなファッションの世界に身を置いているからこそ、私にとって最も必要な場所と時間です。

191007-08.jpgニューヨーク郊外にあるフィリップ・リムのセカンドハウスからは、海に沈む美しい夕日を見ることができる。

私はその別邸のことを「ハッピープレイス」と呼んでいるんですが、4年前に買った土地で、もともとあった小さな家をリノベートして使っています。その土地を見続けている家だから、その家は私に多くのことを教えてくれるんです。モノを捨ててはいけないこと、モノはふたたび美しく蘇ること。「ハッピープレイス」での時間こそ、サステイナブルな服づくりに繋がっているのかもしれませんね。

1910007-09_20190114-31pl-still-0275-1.jpg料理好きが高じて、フォトグラファー、ヴィヴィアン・サッセンとのコラボレーションにより制作したフィリップ・リム初の料理本『More Than Our Bellies』が、今年2月に発売された。

3.1 フィリップ リム ジャパン
tel:03-6433-5011
www.31philliplim.com/jp

interview et texte:MIKI SUKA

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