うつわディクショナリー#12 蠣﨑マコトさんのガラスのかたち

蠣﨑マコトにしか作れないデザインを

蠣﨑マコトさんのガラスは、何かが違う。プロダクトのように硬派なフォルムと手吹きガラスのみずみずしい透明感。そんな相反するふたつの要素をたったひとりで作品に込める。そういうガラスは、他にそうない。
 
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—蠣﨑さんのガラス器は、いわゆる手作りの品とは「何か違うぞ」と気になって手を伸ばしたくなる存在です。
蠣﨑:まっすぐな線や角のあるデザインなどすっきりとしたラインにこだわっているからでしょうか。自分自身、そういうものがとても好きなんです。手吹きガラスでそういう線を出すのは、あんまり簡単ではないんですが、好きと言うからにはできないと格好悪いな、と思って。技術を磨いてきたところはありますね。
 
—吹きガラスでまっすぐな線や角をつくるのは、難しいんですか
蠣﨑:吹きガラスは1200度近い窯の中で溶かされたガラスを竿に巻きつけてすこしずつ空気を入れながら膨らますので、当然、風船のように丸くなります。その線をどうまっすぐにしていくかが腕の見せどころかな。直線的な型にはめて吹くやり方もありますが、僕は型は使いません。光の反射を観察しながら「ここがまっすぐだ」という線を探っていくんです。もちろん手作りですから完璧な直線ではないですけど、僕は、歪みを「味」とは呼びたくない。特にグラス類は、納得がいくまでまっすぐな線にこだわります。作品によっては、ガラス特有の柔らかさとか、手仕事らしい不揃いな線が魅力になるものももちろんありますけど、そんな時でも自分らしい線を狙っていますね。
 
—ストイックというか、攻めるんですね。
蠣﨑:ガラスを始めたのも、攻めていく緊張感が性にあっていたというのがあるんです。大学ではデザインを専攻して、樹脂の中でも透明なものを中心に扱っていました。透明なもの、好きなんですよね(笑)。だからというわけではないですが、ガラスにも興味がわいてきて、卒業旅行を兼ねて四国のガラス工房を訪ねたんです。そうしたら、一発で魅了されてしまって。「巻き取って、吹いて、ひらいて」と3ステップで形にするようなスピード感。やり直しのきかない緊張感の中、ものの10〜15分で作品を仕上げてしまうことが、なんともいえずかっこよく見えました。結局、その工房に弟子入りしたんです。
 
—何も入れずとも水をたたえたような透明感も蠣﨑さんの作品の魅力ですね。
蠣﨑:それはよく言われて嬉しいです。ガラスそのものにはあまり触らず、重力や遠心力を利用しながら竿を回し、できるだけ一気に仕上げるからかもしれません。もともと手先は器用なようで、工房に入ってすぐは上手だと褒められていましたが、自分としては全然うまくできないなという気持ちが強かったです。作りたいものの理想が高くなるとなかなか思うようにはいかない。いまも変わらず、ガラスは難しいと思うことばかりです。
 
—制作するときに大事にしていることは何ですか?
蠣﨑:デザイン力です。量産のプロダクトにしかなかったような形は、人の手では作りづらいんですが、僕は、そこをあえて攻めてみた。最初は作れなかったデザインも、作り続ければだんだんできるようになるというのも手仕事の面白さかもしれません。挑んでみることで、自分の形、人と違うものができてきたんだと思います。透明なガラスは、アイデア勝負。手作りでは誰も作ったことのないものと形を自分で考えて生み出したいんです。
 
—ワイングラスも手作りでは見たことのないフォルム。量産品のような気軽さと手作りの愛おしさの両方を感じます。
蠣﨑:僕が作る直線的なフォルムを気に入ってくれた「夏椿」の店主・恵藤さんからの要望で生まれた形です。ワイン好きの人がたっぷり飲めるもの。それほど薄くなく、日常の中で使いやすいデザインにしています。使いやすいのはもちろん、どこかに色気があるものが理想ですね。僕にとっては、20年ほど前にガラスという素材に出会ってしまったことがすべて。この素材にひかれたからから、この仕事をしているんです。だからこそ、僕にしかできないもの、形をもっと追求していきたいと思います。
 
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今日のうつわ用語【吹きガラス・ふきがらす】
ガラスの成形技法のひとつで、高温で溶かしたガラスを吹き竿と呼ばれる金属の端に巻き取り反対側から息を吹き込んで成形する。遠く古代ローマ時代に発明された技法だという。
 

蠣﨑さんの代表作ともいえる定番のダイヤグラスは、プロダクトのように端正なデザイン。¥3,240/夏椿

「夏椿」の店主とともに考えたワイングラスは量産品のような気軽さと手作りの愛おしさを併せ持つ。¥8,640/夏椿

直線的なフォルムですっきりとモダンなケーキドームはその名もサーカスドーム¥17,280、コンポートM¥14,040/夏椿

新作のシャンパングラスもまっすぐなデザインにこだわったところ大人気に。¥8.640/夏椿

定番のキャンドルホルダーは、透明感の高いガラスが灯りを美しく反射する。¥12,960/夏椿

スモーキーカラーの花器は花の茎までドラマチックに見せる。サンドブラストという技法で表面を磨き上げた作品。¥27,000/夏椿

【PROFILE】
蠣﨑マコト/MAKOTO KAKIZAKI
工房:香川県高松市
素材:ガラス
経歴:1976年東京生まれ。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科卒業後、香川県にてガラス作家・深瀬貴彦氏に師事。2005年に独立し2015年蠣﨑硝子工房設立。Instagram@kakizakiglass

夏椿
東京都世田谷区桜3-6-20
Tel.03-5799-4696
営業時間:12時〜19時
休日:月、火(祝日の場合は営業)
http://www.natsutsubaki.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『蠣﨑マコト展』開催中
会期:2017年7/15(土)〜7/23(日)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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