プロヴァンスのワイナリーで、 ロゼワイン×現代アートを堪能。

Gourmet 2024.04.30

パリジャンにとって、夏のヴァカンスを象徴する飲み物といえばロゼワイン。その代表的な産地であるコート・ド・プロヴァンスに、現代アートのプライベートコレクションで知られるワイナリーがある。
中世の昔からワイン造りの歴史を持つコマンドリー・ドゥ・ペラソルで、ワインとアートを満喫する旅。

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石造りの建物や石塀の歴史的な姿を丁寧に修復したコマンドリー。森とブドウ畑に囲まれた、人里離れたワイナリーで、現代アートが訪問者を迎える。©Peyrassol photographie - OneWineproduction

中世以来の歴史を語るワイナリー

曇り空のパリからTGVで約3時間。エクサン・プロヴァンスの駅を降りると、輝く太陽に迎えられる。さらに車で走ること1時間。森の中にブドウ畑が見えてきたら、そこがコマンドリー・ドゥ・ペラソル。ワイナリー、現代アートセンター、レストランと宿泊施設を備え、現代社会のスピードと街の喧騒からトリップさせてくれる場所だ。

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建物の石壁に残る十字は、テンプル騎士団のマーク。コマンドリーの象徴だ。©C. Goussard

コマンドリーとは、騎士団領のこと。ここは13世紀の初めに建設された、テンプル騎士団とマルタ騎士団にゆかりの場所だ。エルサレム巡礼への通り道であり、創設当時からブドウが栽培され、ワイン造りの歴史を持つ。フランス革命で国有化され、18世紀末にリゴール家の所有となってからも、代々ワイン造りが継承されてきた。

21世紀に入ってこの歴史を引き継いだのは、アートとワインに情熱を注ぐ企業家のフィリップ・オストリュイ。人里離れた場所で、豊かな自然に囲まれたワイナリーの歴史的な佇まいにひと目惚れし、2001年にオーナーとなった彼は、8年の歳月をかけ、建物ばかりかプロヴァンス地方特有の畑の石塀も修復して現在の形に蘇らせた。850ヘクタールのドメーヌは森に囲まれ、82ヘクタールのブドウ畑で栽培される13のブドウ品種からは、オーガニック認定のロゼ、白、赤のワインが生まれる。

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醸造するワインの80%以上がロゼ。2022年の収穫からオーガニックのレーベルを取得している。©Christophe Goussard

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セラーに並ぶコンクリートの醸造タンク。最近注目のコンクリートタンクだが、ここでは伝統的に使われてきたもの。©Christophe Goussard

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コンクリートのほか、ステンレス製、陶製のジャーやオーク樽など、空気との接点や保温性などそれぞれに特性が異なるタンクを使い分けてワイン造りをしている。©Christophe Goussard

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アッサンブラージュから生まれるロゼ。左から、「ル・クロ・ペラソル」(37.50ユーロ)「13e」(18.50ユーロ)

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ヨーロッパ随一の野外アートセンター

エレガントな味わいのロゼを中心に、白、そして2015年には赤の醸造も始めたワイナリーだが、その魅力はワインの味わいだけにとどまらない。オーナーが情熱を傾け蒐集する現代アートが敷地内にいくつも配置され、常設展と企画展を開催するアートセンターを備えている。ここは、ワインとアートを目指して年間2万人が訪れる、知る人ぞ知るワイナリーなのだ。

醸造所やレストランの庭に、ワインヤードに、森の中に......アルマン、セザールからダニエル・ビュレン、パナマレンコ、アントニー・ゴームリー、ジョアナ・ヴァスコンセロスまで、錚々たるアーティストの作品が60点以上点在する。マップを片手に散策しながら鑑賞してもいいし、ゴルフカートを借りて巡っても。木立の中で見る立体作品の数々は、ギャラリーや美術館のホワイトボックスとはまったく違う顔を見せてくれる。

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左:ダニエル・ビュレンの『Le damier flottant arc-en-ciel』(In situ、2015-2021)がエントランスで来訪者を迎える。Courtesy Galleria Continua et Commanderie de Peyrassol© DB-ADAGP, Paris et Christophe Goussard 右:パスカル・マルティン・タイユー『Les Génies de Casenuove (Géraldine)』(2020)は庭園内に。Courtesy Pascale Marthine Tayou, Galleria Continua and Peyrassol© Christophe Goussard

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左:ヴィクトール・ヴァザレリー『Sculpture P&T』(1978)は森の中に。Courtesy Victor Vasarely and Peyrassol© Christophe Goussard 右:アートセンターの広場。パスカル・マルティン・タイユーの『Colonne Colonial』(2021)とベルナール・ヴネの『2 Angles 17.5°et 15.5°』(2016)Courtesy Pascale Marthine Tayou, Bernar Venet, Galleria Continua and Peyrassol© Christophe Goussard

アートセンターでは、コレクションを展示する常設展に加え、毎年企画展を開催している。今年のプログラムは、フランスのメジャーアーティスト、ベルトラン・ラヴィエの個展。すでに野外展示にもいくつもの作品を寄せているラヴィエは、オーナーの親しい友人でもある。展覧会のタイトルは『En Couleur(色で)』。作品づくりのテーマを"Chantier(現場)"と呼び、いくつもの"現場"に並行して取り組み、何度でも同じテーマに立ち返るラヴィエは、この展覧会のために、色を共通項に制作年代もさまざまな作品を集めた。"ペイントしたオブジェ"の現場からは、"ゴッホ・タッチ"と呼ぶ厚塗りのペインティングを施したピアノやイームズ・チェア。"モノクローム"の現場からはブルーのペイントを撮影した写真の上に同色のペイントを施した作品。"インクルージョン"の現場からは、購入した絵画をアクリルガラスに閉じ込めて立体にした作品......。言葉と現実の乖離や、既製品とアーティストのジェスチャーの概念を探究するラヴィエらしい作品が集結している。

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展覧会『En couleur』より。『Bechstein, 1893-2013』『Steinway, 2019』『Quathlamba II, 2020』『Walt Disney Production 1947-2021, no9, 2021』など。Courtesy Bertrand Lavier and Commanderie de Peyrassol ©Jeanchristophe Lett © ADAGP, Paris, 2024

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ベルトラン・ラヴィエ『La Dauphine, 2024』コマンドリーの敷地で見つかったルノー・ドーフィンの残骸を、1960年代当時には存在しなかったブルーにペイント。Courtesy Bertrand Lavier and Commanderie de Peyrassol ©Jeanchristophe Lett © ADAGP, Paris, 2024

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左:展覧会より。同じMandarineと名付けられた2社のオレンジ色のペンキを並べた『 Mandarine par Duco et Ripolin, 1978』と、購入した無名の絵画をアクリルガラスに閉じ込めた『Inclusion No5, 2023』。右:消火器にペイントした『Desautel, 2019』。ともにCourtesy Bertrand Lavier, Mennour, Paris and Commanderie de Peyrassol ©Jeanchristophe Lett © ADAGP, Paris, 2024

アートとワイナリーの出合いゆえに実現した作品もある。ラヴィエがアッサンブラージュを手がけた「ペラソル・バイ・ベルトラン・ラヴィエ」というロゼワインの誕生だ。同ワイナリーの醸造責任者が提案した5種類のアッサンブラージュから、アーティスト本人がさらにセレクトし、ブレンドしたという特別なキュヴェは、香り高く、軽く繊細な味わいだ。

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ベルトラン・ラヴィエがアッサンブラージュとボトルデザインを手がけたロゼ「ペラソル・バイ・ベルトラン・ラヴィエ」。ボトルのデザインは、工事中のウィンドウなどに施される白いペンキがイメージソース。40ユーロ

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心身をリセットしてくれる、宿と食。

コマンドリーにはカジュアルなビストロ・ドゥ・ルーと、ガストロノミックのシェ・ジャネット、ふたつのレストランが備えられている。なかでもシェ・ジャネットは今年、若きシェフ、ヴィヴィアン・ルローを迎えたばかり。敷地内の菜園と農場からとれる野菜や果物を生かしたロカヴォールな料理は、エレガントで洗練された味わいだ。素材の風味を堪能させる繊細なシーズニングで、日本人のお腹にも無理なくいただける。

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レストラン・シェ・ジャネットのインテリア。オープンキッチンの向こう側には、ジャン・デュビュッフェの作品も見える。©C. Goussard

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左:料理は前菜、メイン、デザートの3皿コース(63ユーロ)から。炭火焼きのグリーンアスパラガスに麹のサバイヨンソースの前菜。右:自作のロゼに合わせ、ベルトラン・ラヴィエがシェフとともに選んだメインは特製・仔牛の胸腺、リ・ド・ヴォー。付け合わせはチコリの炭火焼き。

宿泊には、敷地内のラ・ルーヴィエールがおすすめ。アートセンターやレストランから少し離れたところに佇む、1835年のバスティッド(プロヴァンス地方の石造りの邸宅)が、アットホームな宿になった。暖炉のある広いリビングルームには、以前のオーナーが趣味としていた狩猟のトロフィが飾られ、客室はどれもオーセンティックな南仏風。近くに菜園と農場があるだけの、周囲を木々に囲まれた静かな立地も魅力だ。

アートとワインを堪能し、ゆっくりと週末を過ごせば、心身ともにすっかりリセットできるにちがいない。

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暖炉のあるサロンでアペリティフを。©Olivier Monge-Myop

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オーセンティックな田舎風の内装がゆっくりした滞在を約束してくれる。©Olivier Monge-Myop

Commanderie de Peyrassol
コマンドリー・ドゥ・ペラソル
83340 Flassans-sur-Issole
tel :04-94-69-71-02
www.peyrassol.com
Bertrand Lavier « En Couleur »展
会期:開催中~2024年11月3日(日)
83340 Flassans-sur-Issole
開)11:30〜13:00、14:00〜18:00
期間内無休
ショップ&屋外のアート展示
開)9:00〜18:00(1月〜3月、11/4~12月) 10:00〜20:00(4月〜10月)
休)1/1 、1月の日曜日、12/25、29

La Rouvière (ホテル)
全5室 うちバスタブ付き1室 
※ほかファミリー向けスイート4室
一泊140ユーロ〜(朝食込み)
※レストランとアートセンターの所蔵作展(ガイド付き見学のみ)の営業時間は季節により変わる
www.peyrassol.com/en/opening-time-and-contact

text: Masae Takata(Paris Office)

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