「オールドヴィンテージワイン」の楽しみ方って? 「星のワイン vino stellato」が教える、あなたの知らない古酒の世界。【南青山】

Gourmet 2026.04.08

YOSUKE KANAI

今日のワイン選びがちょっと楽しくなる連載「ワインテイスティングダイアリー」。フィガロワインクラブ副部長・カナイが日々、ワインを求めて畑へ、ワイナリーへ、地下倉庫へ、レストランへ、セミナーへ......。美しいワインがどのように育まれるかの物語を、読者の皆さまにお届けします。

今回は南青山にあるオールドヴィンテージワインを専門に取り扱うワインバー「星のワイン vino stellato」に潜入。年代物のワインを、なんとグラスから提供してくれるという稀有なお店! ハードルが高いようにも思える古酒の世界、一緒に覗いてみませんか?

註:ここから頻出する「ヴィンテージ」という言葉について。
【ヴィンテージ】ブドウが収穫された年次のこと。ワインが何年熟成されているか、当時の気象条件、社会情勢などを知る手がかりとする。
【オールドヴィンテージ】熟成を経たワインのこと。明確な定義はないが、概ね10年〜20年以上熟成したワインを指すことが多い。便宜上、この記事では「古酒」とも表記する。


コシノジュンコ南青山本店からほど近く、とあるビルのエレベーターが4階にたどり着くと、そこにワインバー「星のワイン vino stellato(以下、星のワイン)」が広がっている。カウンターがふたつテーブルがひとつ、大きなテラスも備えている。オープンから2年、メインに扱うのはオールドヴィンテージボトル。それをグラスワイン1500円から提供している、というのだから興味は尽きない。

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店内にはこれまで空いた古酒のボトルがいたる所に飾られている。こちらはかの有名なロマネ・コンティの畑に隣接するリシュブールだが、ヴィンテージは......1929年! 第二次対戦前、「世界恐慌の年」といえば分かりやすいだろうか。

たとえワインが好きでも、「オールドヴィンテージ」に手を出すのはなかなか勇気がいる。「高いんでしょ?」「値段のイメージもつかない」「劣化してたらどうしよう」「そもそも味がわからない」多くの人がそう考えるし、私もそのうちのひとりだ。

「今日はまず"オールドヴィンテージとは何か"というところから、その味わいを楽しんでいただけたら」と語るのは、星のワインのオーナーにして、古酒の輸入販売会社スターダイスを手がける星野善隆。元々はクレジットカードの決済代行会社を経営していたという星野だが、ワイン、それも古酒の魅力にハマってこの世界に飛び込んだのだという。

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年代が違うシャンパーニュ、モエ・エ・シャンドン ブリュット・アンペリアルを飲み比べる。ラベルのデザイン、液体の色調、ミュズレ(コルクの留め金)の色にご注目。

ウェルカムドリンクとして提供された2杯は、馴染み深いシャンパーニュ「モエ・エ・シャンドン ブリュット・アンペリアル」。一方は先ほど近所で購入された現行品、もうひとつは店内で扱っているオールドヴィンテージワインだ。そもそもシャンパーニュは「ミレジム(単一年)」でない限り、複数年のリザーヴワインをアッサンブラージュ(ブレンド)することが一般的なので、ラベルに年次表記は記されていない。それでも、ラベルを見れば写真右手の方が古い年代であることは一目瞭然だ。

「キャップシールを外さないとわからないのですが、こちらはミュズレ(コルクの留め金)が緑なので、おそらく1970年代のボトルですね。この色のミュズレは70年代以前にも、いろいろな大手メゾンでもよく使われています」と星野が言う。注がれたグラスを見ると、液色の濃さがまるで違う。現行品はやや麦わら色をした明るい金色だが、オールドヴィンテージは琥珀感もある濃い金色。驚いたのは泡立ちだ。現行品はグラスの中央から生き生きと泡が立ち上るが、50年ほど熟成を重ねているはずのオールドヴィンテージのワインも、緩やかながらはっきりと泡が立ち昇っている。まずは現行品から口をつけると、フレッシュで爽やかな柑橘、溌剌とした酸味とミネラル感が軽やかに抜けていく。

対してオールドヴィンテージを嗅ぐと、熟したオレンジにアカシアの花のような香りが漂う。口をつけると、微細ながらもはっきりとした泡が舌を包む。先ほどの現行品よりは優しいが、いわゆるペティアンのような微発泡よりはしっかりと泡立ちがある印象だ。口当たりはややとろりとしたまろやかさを伴い、しかしなお強い酸味がシャンパーニュであることを主張するよう。ハチミツのような深い甘さが立ち現れ、マーマレードのような柑橘と熟度、ほんのりした皮の苦味のような余韻が長く続く......。この経験だけでも、すでにかなりおもしろい。

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古酒の状態を見分けるコツは「光」と「コルク」と「液量」

オールドヴィンテージの体験は泡から白ワイン、赤ワインへと進む。

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「ドメーヌ・アラン・グラ サン=ロマン1987」

現在もブルゴーニュ、コート・ド・ボーヌ南部に位置するサン=ロマン村で5世代にわたってドメーヌを続けるアラン・グラ、その1987年ヴィンテージをテイスティングする。約40年の熟成を経たシャルドネ100%の白ワイン、香りを嗅ぐとかなり顕著なミネラル感。チョーク、貝殻のような少し乾いたニュアンスも......? その後、控えめにユリの花のような香りがふわり。口をつけると、しっかりと口を引き締めてくれるミネラル感、そして心地よりグレープフルーツのような苦味を伴った酸味が長く余韻を引く。「オールド」の気配をあまり感じないほど、フレッシュで引き締まった味わいだ。

「40年前、瓶詰め当初の頃はガチガチにミネラルが硬くて、おそらくとても飲みにくいワインだったのでは?」と星野。低温の蔵のなかで動かされず、40年近い時を静かにボトルの中で過ごしていたワインが見事に花開いていた。

ところがただ時間をおいてもいい熟成になるとは限らないのが、オールドヴィンテージワインの難しいところ。次に提供されたのは、50年を越す時間の中で「何か」が起きてしまったムルソー、同じくシャルドネ100%のワインだ。

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こちらは1973年のムルソーだが......。

白ワインは熟成を重ねるにつれ、その外観は淡い色から段々と琥珀色に近づいていく。とはいえ、写真に示したものはいわゆるバッドコンディションのワインだ。恐る恐るグラスを嗅ぐと......あれ、意外! バタークッキーのような甘く濃い香り。匂い自体はそう悪くなかったことに驚きつつ、口に含むと、うーむ......。骨格はしっかりしていて、決して飲めないほどではない。

しかし本来、熟成したムルソーは金色に輝き、ナッツの芳香やアーモンド、そこに重なり合うミネラルと、オイリーな飲み心地がたまらない逸品。残念ながら、このワインからその気配は感じられない。漫画『神の雫』で主人公の神咲雫が、飲み頃を終えたワインに「寂れた古城」を感じるシーンがあったのを思い出す。星野は「このワイン、抜栓してみるとコルクがグシャグシャでした」という。ワインそのもののポテンシャル、自然物であるコルクの状態、保存される状況によって、ワインの熟成は大きく左右される。

熟成に耐えうる酸度、タンニン、ミネラル、エキス分、糖度など、複合的な要素が織り混ざり、ワインがどれほどの熟成に耐えられるかが決まってくる。コルクの状態が悪ければカビの匂いが移ったり、過度に酸化の影響を受けたり、そもそも液漏れを生じたりする。日光や照明で紫外線に晒されればワインの中にある化合物は変質し、色も香りも、味わいも抜けていく。倉庫から倉庫へ移され続けたボトルは温度変化に晒され、振動によっても液体は変質していく。

では、どうやってバッドコンディションのワインを見分けたら良いのか? 星野が手順を解説してくれた。

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ボトル後ろから光を当て、濁りの状態を確認する。ちなみにこちらは名門ルロワが手がけた1969年のボジョレー・ヴィラージュ(赤ワイン)だが、完全に色抜けしてしまっていることがわかる。過度に酸化しすぎるとこの現象が起きてしまい、果実味が抜けてブランデーのような芳香になってしまうことも。ボジョレーやネッビオーロにたまに見られるのだという。

「まずはボトル後ろからライトを当て、色味や濁りの加減を見て、不自然なことがないかを確認します。次に瓶をひっくり返した状態で、液体の量が十分に入っているかをチェック。液漏れしていたり、揮発していたりすると明らかにワインが減っていることがあり、これらは間違いなく避けたほうがいいです。そしてコルク周りが汚れていないか、液漏れの痕跡がないかを確認します。ネックからコルクが見える場合は、その状態も確認したいですね」

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グラスで楽しむ、オールドヴィンテージワインの世界。

星のワインで取り扱われるオールドヴィンテージワインは、その多くが海外のワイナリー・生産者のセラーに眠っていたものか、もしくはヨーロッパで個人が所有するセラーにあったものだという。

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チェレット バローロ 1968。1980年のD.O.C.G.規定以前のボトルなので表記はD.O.C.となっており、ラベルには先代リッカルド・チェレットのサインが。

「ヨーロッパでは一般の家庭でも地下にセラーを構えていることがあり、海外のワインショップのサイトを見ていると『あなたの家のワインセラー、買い取ります』のような広告を見ることも珍しくありません。家庭のご事情や相続、引っ越し、終活など、セラーの整理のタイミングで、長期に保管されていたボトルがまとまった本数で出てくることがあるのです。とはいえどんなボトルが出てくるかは未知数。同じヴィンテージのものが大量なこともあれば、同じワインをたくさん保持していた人も。そうしたボトルとの出合いも、オールドヴィンテージのおもしろいところです」

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マグナムのシャトー・モン=ルドン シャトーヌフ・デュ・パプ1993。個人的に「シャトーヌフ・デュ・パプ」は高校生の頃に読んでいた開高健の絶筆『珠玉』に登場して以来憧れ続け、いまも大好きな生産地のひとつ。そして1993年は私のバースデーヴィンテージ❤︎

自身やパートナー、友人や親、お世話になっている人のバースデーヴィンテージを試してみるのもおもしろい。グラスで提供しているワインは、それぞれボトルの裏に金額も明記されているので安心。気になる銘柄やヴィンテージがあれば、臆せず値段を聞いてみよう。そしてお店のInstgaramやXをチェックしていれば、希少なボトルの開栓状況や、キャンペーンのお知らせもチェックできる。

現行品として流通しているワインとはまたひと味違う、オールドヴィンテージワイン。時間の積み重ねだけが生み出す、「ワインの熟成」という別のアプローチの楽しみをぜひ体験してみては?

星のワイン vino stellato|HOSHINO WINE vino stellato
東京都港区南青山6-6-21 グロービル青山 4F
営)17:00〜02:00(月〜金) 13:00〜23:00(土、日、祝)
不定休
https://hoshinowine.stores.jp/
Instagram X

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

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