北イタリアで59年間熟成された赤ワイン!? 積み重ねた時間だけが生み出すアマローネ「ベルターニ」の味わいとは?

Gourmet 2026.04.09

YOSUKE KANAI

今日のワイン選びがちょっと楽しくなる連載「ワインテイスティングダイアリー」。フィガロワインクラブ副部長・カナイが日々、ワインを求めて畑へ、ワイナリーへ、地下倉庫へ、レストランへ、セミナーへ......。美しいワインがどのように育まれるかの物語を、読者の皆さまにお届けします。

今回は北イタリアはヴェネト州から「ベルターニ」の醸造責任者が来日! かつては「王侯貴族しか口にできなかった」と言われる、濃厚で芳醇な最高級赤ワイン「アマローネ」。ディナーの最後に登場した1967年ヴィンテージ、59年間眠りについていたアマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラの味わいとは? そしてライトな味わいが好まれる昨今、ベルターニが打ち出す方針とは?


イタリア東部、アドリア海に面するヴェネト州。水の都ヴェネツィアがあり、『ロミオとジュリエット』の舞台となったヴェローナがある、アドリア海きっての名勝地が揃う場所だ。ヴェネツィアには朝から晩までグラスワインをキャッシュオンで楽しめる「バーカロ」という軽食店の文化があり、広大な丘陵地で造られる華やかでフルーティなスパークリングワイン「プロセッコ」、また内陸の山岳地帯の麓、バッサーノ・デル・グラッパではブドウの搾りかすから造られるイタリアを代表する蒸留酒グラッパが生まれる(一説にはここが名前の由来とも)。そんなドリンカーにとって天国のようなヴェネト州で、長きにわたり高級な赤ワインの代名詞としていられているのがアマローネだ。

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来日した醸造責任者ピエトロ・リッコボーノと「べルターニ・オン アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 2005」

「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ(以降アマローネ)」とは、ヴェネト州の内陸西側、ヴァルポリチェッラの丘陵地帯で生まれる赤ワイン。特徴的なのは、収穫したブドウを簀子(すのこ)に敷き詰め陰干しする「アパッシメント」と呼ばれる手法で造られること。

このテクニック、一般的には水分量を減らすことで糖度と香りを凝縮させて「パッシート」と呼ばれる甘口ワインを造るために用いられる。実際、ヴァルポリチェッラにも古くから「レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラ」と呼ばれる甘美なデザートワインが存在する。

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先行発売となったベルターニのアマローネ3ヴィンテージにフォーカスした「ベルターニ・オン」から、2005年ヴィンテージ。

ワインの歴史を考える時、「甘さ」はとても重要だ。砂糖がまだ普及していなかった時代、甘味とは王侯貴族だけに許された贅沢だったのだ。フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイなど、甘口の貴腐ワインとヨーロッパ王家の関係性はとても深い。ワインはブドウと酵母以外に何も加えないで造られるため、水分を飛ばすことで出来上がるデザートワインは生産量が限られ、時代が下った現代でも希少価値は高く、当然価格も高くなりやすい。

そんな貴重で"売れ筋"な甘口ワイン、レチョートを造っていた時、ワインを醗酵させていた樽を2年間、うっかりそのまま放置してしまった生産者がいた。醸造過程で残すつもりだった糖分の全てが、アルコールに変わってしまったのだ。忘れていた樽を発見した瞬間、「うっわ......」と立ち直れないくらいの衝撃を受けたのではないかと想像する。

ところがそれを飲んだところ、辛口なのに華やかで芳醇な香りを持つ、力強いワインが生まれていた。1938年、「アマローネ≒素晴らしい苦み」はここから誕生したのである。

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時間だけが紡ぎ出す、熟成という物語。

アマローネの真髄は、その力強さに存在する。水分量を飛ばして高めた糖度を全て醗酵させることで、ワインのアルコール度数は14度以上に上がる。同時に丘陵地帯、山岳から吹き下ろす冷たい夜風によって、ブドウにはしっかりとした酸味が宿っている。この度数と酸という要素により、アマローネはボトルの中で長期にわたる熟成が可能なワインに仕上がるのだ。規定で最低でも2年の樽熟成が必要とされるが、ベルターニでは7〜8年、もしくはそれ以上の期間を樽で熟成させ、その後ボトルの中でリリースの時を待つ。

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「べルターニ・オン アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 1967」750ml ¥286,783/モンテ物産

ベルターニが今回リリースしたのは、画期的な3世代にわたるヴィンテージシリーズ「ベルターニ・オン」。醸造されてから長きにわたりヴァルポリチェッラの丘にあるセラーの中で熟成を重ねていたボトルから、記録的な夏を迎えた1967年、1975年、そして2005年がセレクトされ、全世界200セット限定で登場した。

その中から1967年、収穫から59年の時を経て現れた「べルターニ・オン アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 1967」をテイスティングする機会に恵まれた。

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グラスに注がれるのは、ヒッピームーブメント華やかなりし時代に収穫・醸造されてからずっとボトルの中に眠っていたワイン。

「1967年は記録的なほど暑い年でした」と語るのは、来日したベルターニの醸造責任者ピエトロ・リッコボーノ。注がれる液体の色調は、ワインが熟成を重ねたことを示すレンガのような赤みを帯びた美しい褐色。香りを嗅ぐと、レーズンやプルーンのような干した果実が立ち上り、ほのかにシェリーを嗅いだときのような酸味のある印象も受ける。とはいえ、何かが古ぼけていたり、ぼんやりしたニュアンスはまるでない。しっかりした骨格の奥からスパイスや、バニラが現れてくる。

口に含むと、凝縮され、甘みを伴ったカシスやレーズンを感じる。シナモンやナツメグ、クローブなどのスパイス感が増し、自然と目を閉じて感覚に集中したくなる。タンニンはしっかりとあるが、角は丸く、緩やかに舌を撫でていく。はっきりとした主張がありながら、落ち着いている。存在感が大きく華やかだが、それは決してうるさくも暴力的でもなく、どこかに穏やかさが感じられる。

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グラスを傾ける。中心は濃いルビー色、端に行くに従って緩やかにレンガ色の色調に。

余韻はとても長い。口の中に感じたそれぞれの要素が尾を引くように伸び、その後に心地よい苦味と、それまでどこにいたのだろうという酸味が現れた。60年近く熟成されていたというのに、決して老いているようなニュアンスはない。とろけるような感覚が、たまらなく愛おしかった。

「一般的なワインとは、考える時間の長さが大きく異なるのです」と、ディナーの席で隣に座っていたリッコボーノ。基本的にワイン用のブドウは冷涼な場所で、酸味とブドウの成熟度のバランスをとって収穫されるが、アマローネに用いられるブドウは畑においてブドウを水分を抜くアパッシメント、そしてその後の長い熟成に耐えるようなパワフルな状態までとことん成熟させていく。

「アマローネにするブドウは、すでに区画から決まっています。ヴァルポリチェッラの西側にあるガルダ湖の影響により、昼間は湖の上を吹き抜ける暖かい風がブドウの成熟を進め、夜にはその北に聳える山脈から吹き下ろす冷たい風が、ブドウの酸味とアロマを醸成してくれるのです」

ベルターニでは、畑のブドウが素晴らしいと思った年にしかアマローネは造らない。そこからアパッシメントを施し、熟成期間に入るのだから、生産本数は非常に限られてくる。

「長期にわたって保存・熟成されため、ブドウはすべて健全でなくてはならず、一つひとつ手作業で収穫し、目視で確認して傷やカビの有無を見分け、4カ月かけて水分を飛ばす。手間と時間をかけて醸造し、熟成を重ねます。アマローネの味わいと香りは、時間だけが生み出せるものなのです。購入してからさらに20年、30年の熟成はもちろんのこと、人生の節目に寄り添い、最高の瞬間に開けてほしい。そんなワインを造っているのです」

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普段の食事に寄り添うヴァルポリチェッラと、「時間」に思いを馳せるリパッソ。

とはいえアマローネはお伝えしたとおり、なかなかに「重い」タイプのワインで、飲み頃を迎えるにも時間が必要だし、ペアリングも少し工夫が必要だ。そしてヘルシー志向や軽やかな味付けが主流になりつつある現代において、同地には地域名と同じ「ヴァルポリチェッラ」という軽やかなワインも存在する。

そもそもベルターニ創業の歴史は19世紀に遡る。創業者ベルターニ兄弟は1850年、オーストリアに占領されていたヴェローナからブルゴーニュ地方に亡命。最先端の技術を学び、1857年に故郷へ帰還し「ベルターニ」を創業。1860年、当時としては画期的だった辛口の赤ワイン"セッコ・ベルターニ" ヴァルポリチェッラ・ヴァルパンテーナを生み出すと世界中に輸出を開始、サヴォイア王家から紋章の使用が許可されるほどの品質の高さを誇っていたワインがいまに受け継がれているのだ。

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ホタテに黒トリュフを添え、ピアディーナという薄焼きのピタパンとともに。「レ・ミニエーレ ヴァルポリチェッラ・クラッシコ2021」750ml ¥7,262/モンテ物産

アマローネとヴァルポリチェッラは同じコルヴィーナという黒ブドウを主体に造られるのだが、重厚感あふれる前者に対し、ヴァルポリチェッラはとても軽やかでチャーミングな印象だ。香りにはラズベリーやシナモンがふわりと漂い、酸味がしっかりとしていてタンニンも緻密、とても爽やかで、「本当にアマローネと同じ品種でできてるの?!」とびっくりするほどタイプが違う。この日、会場となったイタリアン・スマックで「レ・ミニエーレ ヴァルポリチェッラ・クラッシコ2021」に合わせて提供されたのは、ホタテに黒トリュフを添え、ピアディーナというピタパンに挟んでいただくメニュー。ホタテのフレッシュ感、トリュフの持つ土や香ばしさのある香りと、軽やかながらも鉄分を感じるヴァルポリチェッラの相性は抜群だ。

また、軽やかなヴァルポリチェッラにアマローネの時間の風格を纏わせる「リパッソ」という手法で作られたワインもある。こちらはヴァルポリチェッラの赤ワインの醸造の途中で、アマローネを造る時にできるブドウの搾りかすを加えて2回目の発酵を行うもの。

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牛テールとポルチーニのラグー パッパルデッレ(リボン状のロングパスタ)にヴァルポリチェッラ・リパッソ(グラス中央)を合わせて。「カトゥッロ・ヴァルポリチェッラ・リパッソ2019」750ml ¥7,541/モンテ物産

ラグーソースとパルミジャーノ・レッジャーノを絡めた濃厚なパスタとともに、「カトゥッロ・ヴァルポリチェッラ・リパッソ2019」を飲む。軽やかな味わいに、レーズンのニュアンス、コクと深み、熟成の香りが備わり、非常にリッチな味わいが楽しめる。

リッコボーノは「ヴァルポリチェッラ、そしてリパッソは食卓に寄り添うワインです」と語る。軽やかで飲み心地の良い、そして華やかさも併せ持つワインであることは間違いないだろう。

日々の食事をヴァルポリチェッラで楽しみつつ、いいことがあった日のメインにリパッソを飲んでみる。そうしながら、セラーの中でアマローネがどんな熟成を重ねているのかに想いを馳せる......。そんな時間を過ごせるのも、ヴァルポリチェッラというテロワールが生み出すワインの楽しみなのではないかと思う。

ベルターニ・オン アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 3本セット /750ml×3本
(1967年、1975年、2005年)¥637,252/モンテ物産
https://www.camonte.com/view/item/000000002188

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

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