手仕事と伝統、ポーランドで宝探しの旅 可愛いレースを求めて、ポーランドへ。

Travel 2023.09.20

ヨーロッパのほぼ中央に位置するポーランド。ドイツ、チェコ、スロヴァキア、リトアニアなどの国々に囲まれ、長い歴史の中でそれぞれ影響を受けながら、ポーランドには独自のカルチャーが脈々と根付いてきた。まだ知られざる“珠玉の宝”が多く埋もれているこの国の美術や建築、手仕事。ショパンだけではない、オリジナルの宝を3回にわたって紹介する。第一回目は、国の無形文化財にも登録されているコニャクフレースと、ポーランド南部のレースや刺繍の魅力に迫る。 

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ポーランドの手仕事に触れるなら、コニャクフ村の手編みレースを。

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かわいい! ポーランドを旅していると、街角のみやげ物店でつい立ち止まって釘付けになる。極彩色のニワトリの切り絵やドット柄のポーリッシュポタリー、花ペイントのハトの笛……一つひとつが愛おしく、見ているだけであっという間に時間が過ぎてしまう。そして、ポーランド中の雑貨店を巡ってみたくなる衝動に駆られる。
とりわけ魅了されたのが「コニャクフレース」。ポーランド南部、チェコとスロヴァキアの国境に近いコニャクフ(Koniaków)村で生まれた繊細なカギ編みのレースだ。1枚のテーブルクロスをまとめると指輪の穴をスルリと抜けてしまう、そんな超極細糸のレースもある。ポップなイメージのあるポーランドの手工芸品だが、コニャクフレースは国の無形文化財に登録されていて、かつて故エリザベス女王やヨハネ・パウロ二世に献上されたことでも知られている。

 

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この夏、コニャクフ村を訪れる幸運に恵まれた。南部ポーランドの旅の拠点となる都市、クラクフから車で約3時間の距離にある。コニャクフ村は、標高700m、ベルキディ山脈の頂上付近に位置する人口約2,500人の小さな村。人々は牧羊、建築や彫刻、レース作りで生計を立てている。写真はコニャクフ村から見る風景。村は山頂にあるので、メインストリートからは、周りの牧草地帯や羊の群れ、遠くの国境の山々もよく見渡せて爽快だ。村の近くにポーランド最長(全長1,047km)の一級河川、ヴィスワ川の源流「バラニャグラ」があるという。シロンスク県振興局のアネタ・レギエルスカさんよると、これは村の人々の大きな誇りでもあるようだった。

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さて、この村の手編みレースは、日本にはおろか世界にもほとんど詳しい資料がない。村の「コニャクフレース・センター」を訪れてみて、その理由がよく分かった。

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「コニャクフレースはこの地だけで作られる唯一のものです。図式化したパターンもデータも一切ありません。すべては祖母から母、母から子へと、暮らしの中で体で覚えて伝えていくものだからです」と話すのは、5年前にコニャクフレース・センターを設立したルツィナ・リゴツカ=コフトさん。まさに一子相伝の伝統の技である。2022年、世界的な商標登録が認められたという。

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約200年前、コニャクフ村の女性たちは結婚すると「コイフ」というヘッドレースを被るのが習慣だった。ある時、コイフを自分たちで作ろうということになり、1889年にズザンナ・バワフという女性が初めて飾りレースを作ったのが、コニャクフレースの始まりという。
「これがだんだんと進化して、より複雑な模様(デザイン)が取り入れられるようになりました。昔ポーランドにツェペリアという国営商店があって、そこと契約をしてコニャクフレースを納品することになり、多い時は1か月に約20Kgを卸していました。観光地のあちこちのツェペリアでコニャクフレースが人気となったのです」とルツィナさんは語る。

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コニャクフレースの魅力とは。

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なぜコニャクフレースが人々に知られるようになったのか、ルツィナさんに理由を尋ねてみた。
「コニャクフレースは、この土地周辺の大自然の影響を受けています。花、フルーツ、葉っぱ、鳥などの自然のモチーフを組み入れたレースはコニャクフの特徴と言えます。それぞれのエレメントを細かく作って繋ぐこと、左右対称・上下対称で作るのが伝統です」
これらの複雑なデザインが、脳と手のみに記憶され、長い時間をかけて紡ぎ出される。

コニャクフレースが人気となると、さまざまな商品が作られるようになった。家庭内のテーブルクロスやインテリア用の装飾品、帽子、ファッション小物やドレスなど、アイテムは増えた。各家庭で作る人それぞれのデザインがあるので、パターンは数えきれないという。コニャクフレース・センターに展示されているものは、そのほんの一部だ。

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2001年にレース下着がネット販売されると、さらに注目を浴びた。
「5m32cmのテーブルクロスも作られて、2013年ギネス記録になったことがあります。2022年のドバイ万博のリトアニア館で大変注目を浴び、世界の多くのメディアが紹介してくれました」とルツィナさん。現在はディオールやコム デ ギャルソンなど一流ファッションブランドにもレースを提供し、その魅力は世界に広がっている。

 

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村おこしのきっかけとなったレース編み。

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5年前にこのコニャクフレース・センターを創立したルツィナさんは、寄付制度も立ち上げ、コニャクフ村の人々が編み物で生計を立てられるように、世界的なPR活動やオンライン販売のプロモーションも積極的に行っている。

現在、250名の村人がレースを家で編みここに持ってきて自分で値段を付ける。いわゆる直売所も兼ねている。村を訪れる旅行者に、コニャクフレースの歴史や商品の良さを知ってもらうためのセンターでもあるという。オンラインや他の土産店でも買えるが、ここほど豊富にコニャクフレースを揃えているところはない。

このセンターができて変わったことがある。以前は30~45歳の層の編み物職人は少なかったが、コニャクフのレースが売れると分かると、その年代の職人が増えたこと。そしてその子どもたちもセンター内のワークショップに通うようになり、伝統が確実に引き継がれていることを実感しているという。レース需要が高まったおかげで、仕事も増え、村に活気が生まれたそうだ。

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編み物で無心になることで、セラピーや脳トレにもなる。

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手芸が脳を活性化させることはよく知られているが、この村でもレース編みで手を動かす細かい作業は、住民のセラピー(治療)に役立っているという。たとえば脳梗塞になって手足が思うように動かなくなった人がこのレース編みをすることで、手の動きが少しずつ改善していく。また高齢者にとっても、編み目の数を数えたり、レース同士のつなぎ方、モチーフを考えたりすることが、とてもよい脳トレになっているそうだ。また子どもたちが編み物レッスンを受けることで、集中力の向上にも役立つという。
「あえてレース編みのパターンを図式化せずに、世界で唯一無二の価値を高める努力」……コニャクフ村の取材を終え、昨今のネット社会で、もっとも賢いマーケティング戦略となるのでは、とも考えさせられた。

コニャクフレース・センター
Centrum Koronki Koniakowskiej

Koniaków 704, 43-474 Koniaków, Poland
tel: +48 53 532 82 91
http://www.centrumkoronkikoniakowskiej.pl/
営)9時~17時(月、火、水、木、金)、10時〜18時(土、日)※11月~3月の土、日は17時まで
休)月
※コニャクフレース・センターでは、事前に希望すればコニャクフレース編みの基本を学ぶワークショップが設けられている。2時間で料金30~50ポーランドズロチ(約1,020~1,700円)。
※コニャクフへのアクセス: クラクフからカトヴィツェ(Katowice)までバスで約1時間、カトヴィツェからヴィスワまで列車で1時間30分、ヴィスワからコニャクフまでバスで約40分。現地で要確認。

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クラクフで見つけた南ポーランドの伝統レース。

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翌朝、コニャクフ村からクラクフに戻ってきた。クラクフはポーランドいちの観光都市。第二次大戦の戦火を逃れたこともあり、街はほぼ中世の頃の姿を残している。石畳の通りやゴシック建築の建物などしっとりとした佇まいを見せるのが魅力。特に、ヨーロッパ最大といわれる中央広場では、世界からのツーリストが周辺のカフェで寛ぎ、観光客を乗せた馬車の蹄が響く。広場の聖マリア教会の鐘が鳴ると、まるで中世のクラクフを旅しているような錯覚を覚える。この日は旧市街広場の「織物会館」前で、ポーランド中からアーティストたちが集まる民芸市が開かれていた。その中で目に留まった美しいレースや刺繍を紹介する。

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こちらは、ポーランド北西部に位置するポズナンというという町からやってきた老女が実演販売していた「タティングレース」。現地では「フリボリッカ」と呼ぶ。タティングレースは、舟形の小さな糸巻きを使って、結び目を連続で作るレースのこと。

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気が遠くなるような作業量と時間を費やした美しいレースたち。その技はアートと呼べるものだ。小さなコースターサイズを購入したら約1,700円だった。

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こちらは、ポーランド南部クリニツァ・ズドゥルイ周辺で作られているビーズ刺繍。

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古くからヨーロッパの貴婦人に愛されてきたボビンレースは、クラクフ近郊で作られている。

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この民芸市で、ウクライナのリヴィウからクラクフへ避難してきていた1人の女性に出会った。同郷の友人の店を手伝っているというシャーロットさん。ウクライナはかつてポーランド領でもあったことから、手工芸品のカルチャーや製作プロセスもよく似ている。

「ロシアで暮らしても、“生きる”とは言えない」と早く故郷リヴィウのご主人の元に戻れることを祈りながらポーランドで暮らしているという。
教会の祭壇に供わるレースや、ホテルフロントでふと目につく花瓶敷のレース。ポーランドを旅していると、さまざまなシーンでさりげなく置かれた手仕事の布アートに心安らぐ。素朴だけれど、作り手の気持ちがこもったチカラのある伝統レースを求めて、ポーランドへ旅立ってみてはいかがだろう。

取材協力: ポーランド政府観光局 https://www.poland.travel/ja

 

photography: Yayoi Arimoto text:Sachiko Suzuki (RAKI COMPANY)

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