名作「イームズ・チェア」を生んだふたり。
ドキュメンタリー映画が公開に!

歴史に刻まれた作品を残した建築家やデザイナーたち。作品はもちろん、彼らの人生そのものもまた、心ひかれるところです。生涯その仕事に没頭したのはなぜ? 世界が注目するプロジェクトを実現できた秘訣とは? ......彼らの考え方、視点、生き方などをふり返るとき、驚かされることばかり。

今回とりあげるのは、20世紀デザイン界を代表するチャールズ&レイ・イームズ。イームズ夫妻は一体、どのような日々を送り、どのように仕事をしていたのでしょうか。自宅やスタジオの様子を含みながら彼らの人物像に迫ったドキュメンタリー映画が、いよいよ今週より公開されます。

130509_design_01.jpg© 2013 Eames Office, LLC (eamesoffice.com).


映画そのものの話に入る前に、彼らの家具を扱うハーマンミラーストア(丸の内)の壁に掲げられているイームズ夫妻ならではの言葉を引用しておきましょう。「結局は、人でもアイデアでも物でも......あらゆるものにはつながりがある。どのように結びついているかによって、その価値が決まる」

他に、彼らのインタビュー映像で、こんな言葉を目にしたこともありました。デザインを行ううえでの大小さまざまな制約に関する質問に対する返答です。「妥協を強いられたことはありませんが、制約はいつも喜んで受け入れてきました」。制約をよりよく達成するために必要な要素を組み立てること。それがデザインなのだという、ふたりの名言も残されています。

1940年代、彼らは木材の成型技法の実験を行っていました。熱と圧力をかけて木材を成型する新技法を発見したイームズ夫妻に、アメリカ海軍は合板ベニア板の添え木や担架、グライダーシェルなどの開発を依頼。第二次世界大戦でも活用されています。

戦後、その技法を応用させながら、人の体型や座り方を徹底調査してつくったのがこのイームズプライウッドチェア。手頃な価格でありながら高品質の椅子を生み出す。そのことを目ざした一脚です。

130509_design_02.jpgPhoto: Courtesy of Herman Miller Japan
イームズプライウッドチェア、ハーマンミラー社。複雑な曲面を可能にした木の椅子で、人が座ったときの振動、負荷を分散するゴム製のショックマウントを使用。写真はハーマンミラーから販売されている現在の製品。


130509_design_03.jpgPhoto: Courtesy of Herman Miller Japan
こちらはイームズシェルチェア、ハーマンミラー社。世界初、大量生産されたプラスチック製の椅子。当時はガラス繊維強化プラスチック(FRP)で製造。写真は現在の製品でポリプロピレン製。上の写真と共に、イームズ夫妻がデザインした家具の問い合わせ先:ハーマンミラージャパン。 http://www.hermanmiller.co.jp


1907年生まれのチャールズ・イームズ。彼より5歳若く、画家を目ざしていたレイ・カイザー。映画の始まりは、ふたりの出会いと恋愛から。実はすでに結婚していたイームズ。レイに送ったラブレターの紹介も! 「チャールズはレイに夢中だった」と、当時の様子もしっかり証言されてしまっています。

130509_design_04.jpg© First Run Features.


彼らの作品でもあるイームズ邸(ケーススタディハウス #8)。そして、そこで開かれた食事会の様子とは......などなど、イームズ・オフィスの元スタッフや彼らを知る人々、家族へのインタビューをふんだんに含んだ84分間。チャールズの娘ルシア、彼女の子どもでイームズ夫妻の孫にあたるイームズ・デミトリオス(現イームズ・オフィスのディレクター)も登場しています。

130509_design_05.jpg© Quest Productions/Bread and Butter Films. © First Run Features.
イームズ夫妻の孫、イームズ・デミトリオスも登場。


130509_design_06.jpg© Quest Productions/Bread and Butter Films. © First Run Features.
監督のジェイソン・コーンとビル・ジャージー。


「イームズ・オフィスに入って、ここはサーカスかと思った」「ディズニーランドみたいだった」(!)と元スタッフが振り返る事務所の様子。また、「サーカスが近くに来ると、皆で見に行った」のだとか。どうやら他にはない雰囲気のスタジオだったようです。

「僕たちのエネルギーがどこから来るか。いわばボードビル芸人のようなもので、30枚の皿を同時に回しながら、落ちそうな皿をすばやく直しつつがんばり続けているのに近いんだ」。チャールズのことば。

130509_design_07.jpg© Productions/Bread and Butter Films. © First Run Features. © 2013 Eames Office, LLC (eamesoffice.com).


実は家具と色を結びつけるのが苦手だったチャールズと、持ち前の絵心で、彼に力を添えていたレイ。ふたりの協力体制から生まれたのは、家具、プロダクトに限らず、映像、設計と実に幅広く......!

タイトルに「建築家チャールズと画家レイ」とあるのは、監督たちのアイロニカルな視点の現われです。仕事に対する世の既成概念をふまえながらあえて肩書を記しているのですが、窮屈な肩書の枠を軽やかに飛びこえてしまったのがチャールズとレイだった、というわけです。

一例としてアメリカとソ連が冷戦時代まっただなかの1959年にモスクワで開催されたアメリカ博で上映された映像「アメリカの1日」もイームズ夫妻作。この映像製作や上映時のエピソードも興味深く......。

そうだ1970年、大阪万博のIBM館の設計、映像、展示もイームズ夫妻が手がけていたなあ......と、どっぷりイームズ夫妻の世界にひたっていると、映画終盤、えー、チャールズに愛人が?! そんなドキドキする物語も含んだ映像を目にした後は、彼らが残してくれたデザインがまた新鮮に見えてきます。

130509_design_08.jpg© Eames Office, LLC.


ちょうどいま国立新美術館(六本木)では「カリフォルニア・デザイン 1930-1965 ― モダン・リヴィングの起源 ―」展が開催中。意欲的な実験がなされ、新技術、新素材を活かした革新的なデザイン提案が積極的にされていたアメリカの状況、情熱に包まれていた時代を俯瞰できる展覧会です。イームズ夫妻による家具も多数紹介されており、彼らの映像作品も目にできます。

そうした時代を生き、「とにかくみんなの憧れの的だった」と周囲が語る時代の寵児チャールズと、彼を支え、「最小の材料で最大のお客さまに最高の商品を」と考えていたレイ。この映画には私もこれまで知らなかった事実、デザインの取材だけではなかなか見えてこなかった人生がぎっしり詰まっていました。
20世紀のデザインそして生活を牽引し、時代を創った人物に、もっと近づいてみましょう。


「ふたりのイームズ 建築家チャールズと画家レイ」
5月11日(土)より
渋谷アップリンク、シネマート六本木他、全国順次公開
http://www.uplink.co.jp/eames/

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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