アメリカのエンターテイメント業界では、日系人の活躍が目覚ましい。映画監督で新作のジェームズ・ボンドシリーズ『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を手がけた、キャリー・フクナガ、Huluの人気ドラマ「PEN15」の主演女優、マヤ・アースキン、女優のキミコ・グレンなど、多くの日系人が注目を集めている。
シンガーソングライターとして活動する一方で、起業家としても活躍するカティーニ・ヤマオカもそのひとりだ。今年立ち上げたオーガニックのビューティブランド「カティーニ・スキン」が話題で、今月からニューヨークの大手百貨店、サックス・フィフス・アベニューで販売が開始された。このブランドは、ブラック・プログレス・マターズという団体とパートナーシップを結んでおり、売り上げの20%をマイノリティの人々のビジネスに還元する仕組みになっている。
酒粕や椿オイルなど日本古来の素材を使用したフェイシャルオイル 50ml 各95ドル/カティーニ・スキン
2022年からは日本へも発送開始に。彼女が育ったオーストラリアのカカドゥプラムやマカデミア、バオバブなど古代から息づく植物がパワフルに肌を潤すフェイシャルオイル。写真左から:デイセラム 50ml 85ドル、ナイトセラム 50ml 115ドル/カティーニ・スキン
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カティーニは、日本人の母親と、ガーナ人の人権活動家の父親のもと、東京に生まれた。5歳の時に父親が他界し、家族でオーストラリアに移住。サンシャインコーストのマレニーという自然に囲まれた街で、高校を卒業するまで育った。
彼女の人生に転機が訪れたのは、まさにその時。父親のように人権活動家を目指そうと、大学で政治経済学を学ぼうとするも、子どもの頃のから抱いていた歌手になる夢を諦められなかった。もし歌手活動だけで半年間生活していけたら、大学へは行かないと母親に伝えた。デモテープを作って日本のプロデューサーに送るとすぐ返事が来て、オーディションを受け大手レコード会社と契約。日本で数年間はポップスを歌い活動するが、胸の奥ではジャズやブルースが歌いたいと感じていた。
東京都出身、5歳の時に家族でオーストラリアに移住。15歳でフランスへ留学した経験があり、フランス語も堪能だ。オーストラリアの高校を卒業後は日本へ。数年間歌手として活動し、14年からニューヨークへ拠点を移す。2021年9月にシングル『Moshi Moshi』をリリース。来年はアルバム制作に挑む。
「音楽に恋をしたきっかけは、叔父のレコードコレクション。オーストラリアに移住した後も、年に1回は夏休みに日本の叔父の家を訪れていました。彼は素晴らしいジャズのレコードを持っていたので、ビリー・ホリデイなどを聞いてはうっとりしていました」
「ニューヨークに移ってからは、レストランでジャズのパフォーマンスをしながら暮らしていました。やがて『フォーブス』誌が開催するサミット「アンダー30」など、ライブを披露する素晴らしいチャンスに恵まれました」
現在はウェストアフリカのビートや日本語の歌詞を取り入れた自身のルーツの要素を取り入れ、R&Bを歌う。
「自分が日本人なのか、オーストラリア人なのか、ガーナ人なのか、時として考えることもあるけれど、ニューヨークは自分自身でいられる素敵な場所。少しの要素がたくさんある、それはユニークなことでそれが私」
「日本人の母親とガーナ人の父親を持つ、私の体験を歌に込めたい。自分が誰であるか、歌に込めることは大切だと思う。音楽は文字通り、ユニバーサルランゲージ。音楽を感じるのに、英語を話す必要はありません。アーティストとして、英語をすべて理解しない人にも私のストーリーを語っていきたい。ニューヨークに住みながら、この方法を模索していくのが楽しいですね」と語る。
自身のルーツを活かして、アーティストとして起業家としてどのように翼を広げていくのか、カティーニ・ヤマオカの今後が楽しみだ。
text: Azumi Hasegawa
長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com