「起業する女性の出発点は?」2025年フランスのBWAアワードを振り返る。
Society & Business 2025.06.30
2025年フランス本国のBusiness with Attitude(BWA)アワードを受賞したのは「レフュジー・フード(Refugee Food)」の共同創始者であるマリーヌ・マンドリラ、そして読者賞を受賞したのはアプリ「メイ(May)」のセシリア・クルーゼだ。ファイナリストたちが熱弁を振るったアワードの夕べは情熱、起業家精神、そして共に集う喜びにあふれていた。

マダム・フィガロBusiness with Attitudeアワードの夕べはいつも感動に満ちている。雑誌の内容が現実に飛び出し、目の前でダンスを踊っているような感じとでも言おうか。雑誌作りに携わる人と取材対象者がリアルに一堂に介する。今日のために裏方として尽力した人たちは満足げにその光景を眺める。そしてすべての人が、目に見えない糸で結ばれていることは言うまでもない。結果として今宵、みんながここに集っている。
ユニコーン支援
2025年、アワードの会場となったのはパリの「ヴァンチュイット・ジョルジュサンク」ホールだ。
まずは「ヴェスティエール・コレクティブ」の会長兼共同創設者のファニー・モワザンが登壇し、自身の経験を語った。「13年前、起業家として出発し、初めて受けた取材はマダムフィガロのモルガン・ミエルによるものでした。そのことは忘れられません」
フランスで唯一、女性が創設し経営するユニコーン企業を率いる彼女だからこそ、起業という大冒険に乗り出した女性にとって、この瞬間がどれほど人生で重要な意味を持つのかを熟知している。だからこの第9回アワードのゴッドマザーになることを引き受けた。その役割は今宵の授賞式にノミネートされた5人のファイナリストを導き、よく知ること。「私たちは互いに共通点を見出しました。同じ価値観、同じ迷いを抱える似た者同士なのです。(中略)『行動する』ことこそが迷いを打破する最良の方策です」
プロジェクト実現のため行動を起こす。それは若き女性起業家として舞台袖でドキドキしながら出番を待つ5人のファイナリストが実践したことだ。まもなく語ってくれるだろう。どのような道のりだったのか、どんなきっかけだったのか、現状がどうで、どんな課題が残されているかを。
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いざ、ステージへ。
巧みに司会を務めるアナイス・ブトンと「マダム・フィガロ」編集長、モルガン・ミエルが見守るなか、ファイナリストたちは空を歩むような足取りでおずおずと登場した。だがベテランジャーナリストのふたりはすかさず、場の空気をほぐすような会話を始めた。
「起業する女性の出発点は?」と一方が問えば、「なにかにノーを言うこと」と相手が答える。
ノーを言うーーそれは自分らしくない、なんだか違う、物足りないと感じるようになった人生にノーを言うこと。欲しいサービスがないことや不公平なことにノーを言うこと。そこが出発点だった。
モルガン・ミエルは「なんたる冒険、なんたる情熱、なんたる自由」と感嘆の声をあげると「マダム・フィガロ」総編集長のアンヌ=フロランス・シュミットが9年前にこのアワードを始めるに至った経緯を振り返った。マダム・フィガロ担当企画副責任者のローラ・プルアールが表現した通り、BWAアワードは「ある女性誌による起業家的な冒険」なのだ。
観客が期待に満ちてざわめきはじめたところで、クリエーション部門の最初のファイナリストが登場した。4分間のピッチで審査員を説得しなくてはならない。

「美しくなるのに自分を痛めつけるなんておかしなことです」とガエル・ルブラ・ペルソナは口を開いた。「マニュキュリスト(Manucurist)」の創設者がラグジュアリー業界に別れを告げて、母親のネイルサロンを引き継いだのは「2016年、44歳の時でした(いまの年齢は計算してください!)」。それから8年間、環境に配慮したオーガニック由来のヴィーガンネイルポリッシュブランドで2024年には売り上げ5000万ユーロ(約84億円)を達成した。しかも資金調達には一度も頼ることなく。
少女の頃、母が仕事でアセトン中毒になるのを見て育った彼女は説得力のあるピッチを終えると、これまでの自分の歩みを誇らしく思っているような顔で次のサービス部門のファイナリスト、セシリア・クルーゼに場を譲った。
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医療システムの混雑緩和

セシリアは、アプリ「メイ(May)」の共同創設者だ。このアプリは妊娠期から出産後1000日までの間、親をサポートする。登壇したセリシアは、初めて小児科に行った体験がきっかけで、是が非でもこれを作ろうと決意したことを語った。「娘を育てるための取り扱い説明書なんて存在しないことに気付いた」からだ。
赤ちゃんのちょっとした症状でも不安になり、医者に駆け込む親のためのアプリ開発を保育士や医療関係者、助産婦の協力で成し遂げた。これによる医療費の節約は350万ユーロ(約6億円)と試算される。

続いて、次世代テック部門のファイナリスト、ファニー・ド・カステルノーが白い服で登壇し、家族で始めたプロジェクト「アンタクト(Intact) 」について語った。
工業所有権を専門とする弁護士として食品業界の法務職に就いていたが、このプロジェクトを立ち上げるため、即座に辞表を出した。いまでは食品業界向けの植物性タンパク質とカーボンニュートラルなアルコールの生産を手がけている。

現代はAIを誰もが疑問視し、不安に思う時代だ。ネジュマ・ベルクディムはカルチャー&ナレッジ部門に彗星の如く登場したスタートアップ、「ノレジュ(Nolej)」を紹介した。英語のknowledge=知識に似たネーミングの通り、教師が教育ツールを作成するための支援ソリューションだ。
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「空腹では何もできない」

最後に登壇したのは「新しい連帯」部門のマリーヌ・マンドリラ。「レフュジー・フード(Refugee Food)」の共同創設者は、シリアの移民危機が起きた時になぜこの団体を作ろうと思ったのかを説明した。
団体の活動は3つの軸から成る。料理フェスティバルの主催、食糧支援プログラムの実施、職業訓練レストランとケータリングサービスを擁する職業斡旋会社の運営だ。
「空腹では何もできない、何も始められない、何にも行きつかないからです」と熱心に語ると自分の信条は2つだと続けた。ひとつ、どんな相手でも理解すること、そして情熱と収益を両立させること。
一方、ピッチを終えたファイナリストたちは会場の最前列に座り、互いに「素敵だったわよ」と讃えあっていた。その通りだ。
実のところ会場が満員だったため、筆者は出来るだけステージ近くにいようとうっかり、2列目の端に座ってしまった。そこは審査員席だったのに失敗した。正直なところ、ファイナリストのレベルのあまりの高さに、審査員は選考にさぞ苦労しただろう。同情する。だが誰かは選ばなければならない。
サービス部門のファイナリストで、アプリ「メイ(May)」の共同創設者であるセシリア・クルーゼが読者賞を、新しい連帯部門のファイナリストで「レフュジー・フード(Refugee Food)」の共同創設者であるマリーヌ・マンドリラが審査員のほぼ全員の支持を得て「Business with Attitude」アワードを受賞した。
もうひとつ感動的だったこと、それは年々、アワードのコミュニティが拡大し、レベルアップが目覚ましいことだ。まさに、なんたる冒険、なんたる情熱、なんたる自由。
*コミュニケーション&PR戦略はティフェーヌ・ヌヴーの支援を受けて実施されました。




























































From madameFIGARO.fr
photography: Sheraz Debbich / Say Who pour Madame Figaro text: Lisa Vignoli (madame.lefigaro.fr)