Culture 連載
きょうもシネマ日和
ファッション界のカリスマ、カリーヌ・ロワトフェルドが愛される理由
『マドモアゼルC ~ファッションに愛されたミューズ~』
きょうもシネマ日和

カール・ラガーフェルドから『才能あるスタイリストは少ない。有名だが才能のない連中が大勢いる。彼女は創造性豊かで夢想家だ。』と賛辞されるカリーヌ・ロワトフェルド。
madame FIGARO.jp読者の皆さんなら共感していただけるかもしれないが、私はファッション誌の各ブランドの広告ページが大好きだ。
"1週間、着回しテクニック術"といったリアルに役立つページではなくて、「このスタイルで街を歩いていたら、絶対怪しすぎるから(笑)!」という現実離れしたスタイリングや、モデルさんしか似合わないファッション、つまり自身のワードローブとはかけ離れているのだけど、そんな素敵なページに出会った時はとっても幸せ。うっとり見とれて、その世界観に入り込むひとときは、まさに夢見心地。
とはいえ、製作する側の立場から考えると、毎回見る人の心を捉える奇跡的なショットを創りつづけるのは至難の業。しかし、世の中には天才的な仕事をする人がいるワケで......。今日ご紹介するのは、フランス版VOGUEの編集長を10年間つとめ、世界のファッション界に多大な影響を与え続けている女性、カリーヌ・ロワトフェルドのドキュメンタリー。なんと、VOGUEを辞め59歳にして自身のファッション誌『CR Fashion Book』を出版。ハーパース バザーのグローバルファッションディレクターとしても活躍する彼女の華麗なる仕事ぶりと、その裏の素顔が明かされる。

監督がこだわったのは、カリーヌの履いている12センチの高さのヒール。シーン毎に違うデザインを履きこなしているので、是非注目を。ちなみに今は腰を痛めてしまってローヒールだとか......。
◆ ファッション界のカリスマ、カリーヌ・ロワトフェルド
VOGUEの編集長といえば映画『プラダを着た悪魔』のモデルともなったアナ・ウィンターを思い出す方もいるだろう。カリーヌが手がけるのは、そのフランス版。彼女は18歳の時にモデルとしてキャリアをスタート。その独特な着こなしと自由なイマジネーションが注目されスタイリストに転身。まもなく、ファッションデザイナーであり映画監督のトム・フォードと出会い、彼と組んでグッチやイヴ・サンローランのスタイリングを担当。その後、フランス版VOGUEの編集長に就任。数々の伝説を打ち立ててきた。彼女のスゴいところは"ポルノ・シック"という刺激的なスタイリングでファッション界を大きく揺るがせたこと。当時、絶賛と非難を浴びて、一躍時の人になったとか。その後も大胆なディレクションを続行。彼女は、モデル、デザイナー、様々なジャンルのセレブから賞賛を受け、ファッション界に確固たる地位を築いたのです。

本作に出演するデザイナーは、トム・フォード、ドナテッラ・ヴェルサーチ、カール・ラガーフェルド、ジャン=ポール・ゴルチェらトップクリエイター達、登場するだけで興奮してしまう。
◆ 「CR Fashion Book」を創刊するまでをドキュメント
本作では、そんなカリーヌの仕事ぶりを間近で見ることができる。
彼女は、ショートボブ&サングラスのアナ・ウィンターと比べると、ヘアスタイルはセミロングの無造作ヘア、仕事中もピリピリした威圧感は特にない。編集長になっても、スタイリストとして現場に赴きアイデアを出す。そんな時も「アイデアが出てこない......」や「いいと思ったのに、もう自信がない。なぜ?」なんて、彼女からは想像できない言葉が飛び出したりもする。かと思うと、「成功を掴むには、運とハードワーク、両方が必要。潰される危険は覚悟よ」と言い切る場面も。問題にぶつかりながらも、チームをまとめあげ、その壁を乗り越えていく様はさすが。また彼女のイマジネーションがカタチになっていく撮影シーンは必見。まるでその場に一緒に居合わせたような気持ちになり、最高にエキサイティングな体験だった。

仕事熱心なカリーヌ、その一方で家族についてはこんなことも。「娘が母を愛してくれたように、孫が私を愛してくれたら、私の人生は"勝ち"ね。泣いてしまうわ、(想像して)感動してるの」
◆ カトリーヌが大切にする家族たち
日々、ハードなスケジュールをこなすカリーヌを支えているのは、"家族"だという。「幸いカリーヌは家庭生活でバランスと安定感を手に入れているんだ」と話すのは30年以上連れ添っているパートナーでデザイナーのクリスチャン・ レストワン。
彼女自身も、「家に帰ったら仕事の話を聞いてくれて、本当の事を言ってくれる家族がいること」の大切さを語っていた。彼女は劇中で、"おばあちゃん"になる。娘に赤ちゃんが生まれたのだ。そんな背景から、彼女の興味の対象は"生命"へ。そのテーマが新しい雑誌にもインスピレーションとして反映されていく。仕事先で孫の写真を見せたり、ベビーカーを押して喜んでいるカトリーヌもこれまたチャーミング。また、彼女の息子でアートビジネスをしているウラジミールも登場。母へのリスペクトを語ったり......どこまで素敵な家族なんだ!

カリーヌの世界をもっと堪能したい方は、彼女のInstagramページを是非見てみて。そのセンスに脱帽です。詳しくは本作の公式FBに掲載中。
◆ さいごに
本作には女性の夢がいっぱい詰まっている。ファッショナブルな服を着こなし、メディアからも注目され、様々なアーティストと一緒に仕事をし、パーティに出かけ、それでいて母の顔を持ち、良き夫と娘と息子に恵まれ、59歳にしてこれまでのキャリアと人脈を糧に、夢を実現していく。
しかし、その裏には揺るぎなき覚悟と挑戦、忍耐力といった日々の積み重ねがあることを教えられる。そして、画面から溢れてくるのは、ファッションが大好き! というカリーヌのシンプルな思い。単純だけど、やっぱり好きだから、ここまでやれるんだろうな、どんな壁も超えられるんだろうな、と勇気づけられる。
そして、もうひとつ。仕事を続けたい女性にとって、持つべき夫は"話を聞いてくれる、そして本当の事を優しく言ってくれる人"と実感。カリーヌのファッションセンスはもちろん、男性を見る目も大いに見習いたい......。
監督:ファビアン・コンスタン
出演:カリーヌ・ロワトフェルド、ステファン・ガン、カール・ラガーフェルド、トム・フォード、リカルド・ティッシ、ドナテッラ・ベルサーチ
配給・提供:ファントム・フィルム
© 2013 BLACK DYNAMITE FILMS, TARKOVSPOP
http://mademoiselle-movie.com/