Culture 連載
きょうもシネマ日和
ようこそ、愛と可笑しみのいっぱい詰まったウェス・アンダーソンワールドへ『ムーンライズ・キングダム』
きょうもシネマ日和
以前、日本の1、2を争う有名国立大学を卒業し、超人気企業に総合職で就職した(しかも美人)、つまり何かとダメな私と全く対照的な女性とお会いする機会があった。
お話するとこれまた素敵で、何だかもうパーフェクトって感じだった。ところが、ところがである。好きな映画の話になると、なんと彼女は「ウェス・アンダーソン監督の『ダージリン急行』が大好き」だという。え、うっそ!ホントに?絶対友だちになれそう。しかも、ちょっぴりダメな人間がそこそこ登場する彼の作品が好きだなんて、ひょっとしてないものねだり?いや、彼女の中に何か不完全なモノを抱えているからに違いない(←甚だしい思い込み)。とにかく、私は近寄りがたかった彼女と一気に分かり合えるような気分になってしまった。
"ウェス・アンダーソン監督作品好きなら、お互いきっと色んなことが分かり合える"。そう思わせる彼の作品には、何か魔法にかけられてしまったような感覚さえ覚える。
最新作『ムーンライズ・キングダム』でも、監督は至る所にとびきりの魔法をかけ、私たちをウェス・アンダーソンランドへと連れて行ってくれる。まずはストーリーから。
◆ ストーリー
1960年代ニューイングランド島。両親の代わりに継父&母に育てられているサム(ジャレッド・ギルマン)は、両親に理解してもらえない事を辛く感じている少女スージー(カーラ・ヘイワード)と恋に落ちる。ボーイスカウトのキャンプでの生活になじめないサムと家庭になじめないスージーは勝手にそれぞれ抜け出して逃避行の旅へ。一方、村では保安官(ブルース・ウィリス)やスージーの両親(ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド)らが、二人を捜していたのだが、次第に大きな出来事へと発展し......!?
◆ ウェス・アンダーソンが描く60年代
監督は、"なんとなくノーマン・ロックウェルが描くアメリカをイメージした。"と本作の舞台を60年代に設定し、当時の建物を再現。キャンプをオリジナルで製作したり、手作業で作った衣装も多く、とにかく徹底的にこだわって、そこかしこに温かみのある世界観を創りあげた。
そこで巻き起こる幼い二人の家庭との断絶や恋、そして決してパーフェクトではない大人たちとの関係......これらはどこかノスタルジックで、でもリアリティがあって。まるでおとぎ話のようでもあり、自分の少女時代と重なっているようにも思えてくる。
◆ 出演を熱望する有名キャストたち
その不思議な世界観にするりと溶け込んでいるのが、何と大物ハリウッド俳優ばかり。まずは本作の常連、主人公の少女スージーの父親役にビル・マーレイ。その妻がフランシス・マクドーマンド、孤独で不安定なシャイな警官にブルース・ウィリス、冷酷な福祉局役にティルダ・スウィントン、ボーイスカウトのウォード隊長役にエドワード・ノートンetc...実力とキャリアを兼ね備えた彼らが、ウェス・アンダーソン監督が創りだす独特の人間味溢れた、どこかおかしな(笑)大人たちを演じているのだから、この味わい深さったら半端じゃない。
◆ 甦る子供の頃の冒険心
本作は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、『ライフ・アクアティック』、『ダージリン急行』のこれまでとちょっと違って、少年少女の恋や冒険心を描きながら、観る者の心の奥をチクっとさせてくれたり、あの時のワクワクを思い出させてくれる。物心ついて、成長していく上で傷ついたり、傷つけたり、何かを捨てたり、受け入れたり......色んな事があるけれど、実はそれに伴う痛みも悲しみも生きていく上では必要で、そしてどこか未来は明るくて。そんな今じゃ忘れがちな、何だかきっとものすごく大切な感情の数々を、ウェス・アンダーソン監督は思い出させてくれる。一途に信じたいものを信じるサムとスージー、様々な出来事に翻弄されて何かと見失いそうになる大人たち。そんな彼らの行く末を監督は温かく見守り続けてくれる。そして、ラストが......これまたホロリとさせてくれるのだ。
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ルース・ウィリス、 エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、 ジェイソン・シュワルツマン、ボブ・バラバン
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