Culture 連載
きょうもシネマ日和
今までとは違う旅に出たくなる、大人が観るべき青春ロードムービー『オン・ザ・ロード』
きょうもシネマ日和

ジャック・ケルアック『路上』の映画化作品。主演のサル役には『コントロール』でジョイ・ ディヴィジョンのボーカル、イアン・カーティス役を演じたサム・ライリー。これまでイーサン・ホークやブラッド・ピット、コリン・ファレルの名前も挙がっていたとか。
8月も終わりに近づき、暑さも少しずつ和らいで、バカンス気分からそろそろ抜け出しつつある方も多いかも知れない。そんな中、どんなにセレブな旅に出かけた方でも、本作を見るともう一度旅に出たくなる、しかもこれまでとはちょっと違った気持ちやスタイルで......という映画『オン・ザ・ロード』をご紹介したい。

破天荒なディーン役には『トロン:レガシー』で主演を務めたギャレット・ヘドランドが、サルとディーンの間で奇妙な三角関係に身を委ねるヒロインのメリールウ役には、『トワイライト』シリーズで全米大ブレイクのクリステン・スチュワートが。今回の配役にはうならされます。
◆ ストーリー
父親の死に大きな喪失感を背負った若き作家サル・パラダイスは、社会の常識やルールにとらわれない型破りな青年ディーン・モリアーティと出会い、ディーンの美しい妻メリールウにも心を奪われる。3人はともに広大なアメリカ大陸を旅し、破天荒な日々の中、さまざまな人々との出会いと別れを繰り返し、お互いの関係性もだんだんと変化が訪れる......。
◆ フランシス・フォード・コッポラ、30年もの粘りの末に
本作はジャック・ケルアック『路上』の待望の映画化作品だ。ケルアックといえば、1950年代のビート・ジェネレーションを代表する作家。ボブ・ディランを始め、ジョニー・デップ、ジム・モリソン、ジム・ジャームッシュ、ジョン・レノンなど、彼の影響を受けた映画人・ミュージシャンは数知れず。(ちなみに私は、ディランやジャームッシュが影響を受けたのを知り、ケルアックを知った。そういう方も多いのでは......)
自由を渇望し、広大なアメリカを旅した破天荒な若者たちを描いた本作は、カウンターカルチャーの時代に"ヒッピーの聖典"となった。その映画化権を勝ち取ったのは、フランシス・フォード・コッポラ。彼はこれまでに何度も映画化しようと試み、ジャン=リュック・ゴダール監督やガス・ヴァン・サント監督に話を持ちかけるも頓挫。そして20年あまり経った後、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス監督と運命の出逢いを果たす。ウォルター・サレス監督といえば『セントラル・ステーション』然り、その土地の空気を濃厚にすくい取り、登場人物のパッションや哀しみを同時に刻みつけることで、多くの観客の心に深い感動をもたらしてきた人物。今回も素晴らしいキャスト陣を迎え、ニューヨーク、デンバー、サンフランシスコ、メキシコ......1シーン、1シーンが熱く心に刻まれるロードムービーに仕上がっている。
ディーンの二人目の妻役には、キルスティン・ダンスト。個人的にこういったタイプの作品に登場する彼女の演技が非常に好みです。
◆ たとえ『路上』を読んでいなくても......
『路上』を読んだ事がある方ならおわかりと思うが、本作は実在した作家がモデルとなっている。主人公サルはケルアック自身だし、ディーン役はニール・キャサディ(映画『死にたいほどの夜』では彼の生涯が描かれています)、カーロ・マルクスはアレン・ギンズバーグといった感じ。
この辺りのビート文学に詳しい方は作品をより堪能できると思うが、たとえ『路上』を読んでいなくても、ぞんぶんに楽しめる内容になっている。
自由に生きたい、心のままに、奔放に、熱く、何にもとらわれず......そう願いながら、その一瞬一瞬を味わってみようとするサルの人生や、彼に関わる人物たちを見ていたら、自分の奥の方にそーっとしまっていた大切な感情を再び熱く、呼び覚まされるような感覚になる。そして、これまでとは違った、もうひとつの、自分だけの旅に出たくなる。

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「ぼくにとってかけがえのない人間とは、なによりも狂ったやつら。狂ったように生き、狂ったようにしゃべり、狂ったように救われたがっている。なんでも欲しがるやつら。あくびはせったいしない。ありふれたことは言わない。燃えて燃えて燃えて、あざやかな黄色の乱玉の花火のごとく、爆発するとクモのように星々のあいだに広がり、真ん中でポッと青く光って、みんなに『嗚呼!』と溜め息をつかせる、そんなやつらなのだ。」
これは『オン・ザ・ロード』の有名な文章のひとつ。
そんなやつらに会ってみたい方は、ぜひ映画館に足をお運び頂きたい。
『オン・ザ・ロード』
監督:ウォルター・サレス
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ
出演:サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、
クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン
http://www.ontheroad-movie.jp
2013年8月30日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
(C)Gregory Smith