Culture 連載
Dance & Dancers
魂に働きかけるダンス、思考に働きかけるダンス─Dance New Air ダンスの明日2014
Dance & Dancers
2002年にスタートした「ダンストリエンナーレトーキョー」が、この秋新たなダンスフェスティバルとして生まれ変わる。
コンテンポラリーダンスに特化した国際的ダンスフェスティバル、という位置づけは変わらないが、これまでトリエンナーレ(3年に一度)という形で開催してきたのを今後は期間を縮めビエンナーレ(2年に一度)として開催することで、より短期間のスパンで、ダンスの進化を見つめることができるようになる。広い視野でコンテンポラリーダンスの新しい潮流を見つめ、未来への懸け橋となりそうな作品やアーティストを取り上げてきたこれまでの活動と主旨は大きくは変わらないが、開催スパンを短く取ることで、より同時代性と傾向を鋭く切り取ることが可能になりそうだ。
■魅力的な"個"の力が連携し合い生まれる、新たなクリエイション
『Dance New Air―ダンスの明日』としてスタートする今回のラインナップを、独断と偏見で傾向分けしてみた。
1. 民俗的テーマの掘り下げ
2. 越境志向
3. 企画のユニークさ
4. 連携する"個"の力
特に、4番目に関しては(いきなり最後からで申し訳ないが)、参加するアーティストらがいずれも"ソロ"ないしは"小さな単位"で活動している、ことで顕著だ。これは、大きな会社あるいは団体に属していれば生涯安泰、という価値観が崩壊し"個人の力"が問われるようになった社会の動きともリンクしているように思える。
ラインナップの中の『談ス』などはまさに象徴的な作品。NDTなど海外一流カンパニーで経験を積んだ大植真太郎、Noismを経て多彩な活動に参加している平原慎太郎、ダンス経験豊富な俳優・森山未來の3人が、滞在中のヨーロッパ各地でクリエイションを行い創り上げた新作。そういう意味では、3.の要素も併せ持っている。
『談ス』より。photo:Hironori Tsukue
■地域固有の文化を、身体を通して見つめる
1.の民俗的テーマとして注目しているのが、前回のダンストリエンナーレトーキョーで初来日し、印象深い作品を披露してくれたナセラ・ベラザの『Lex Oiseaux(鳥)』『La Traversée(渡洋)』。生まれ故郷・アルジェリアの祭礼や伝統的儀式などへの洞察を経て創作したというこの作品は、前回のトリエンナーレで発表したひたすら旋回を続ける表現にもつながる、宗教的な色合いを予感させる。自身のルーツを通して、自らの内に知らない間に出来上がっている"何か"を探りだそうとしているのかもしれない。
北村明子の『To Belong / Suwung』は、北村自身がインドネシアのアーティストと刺激的な出会いをしたことがきっかけで誕生した『To Belong』シリーズの4作目。インドネシアの伝統武術からインスピレーションを得て、ワヤン(人形劇)、伝統合唱などのアーティストらとともに日本人ダンサーらが織り成す世界は"コラボレーション"という言葉を超えた"異文化の異種交配"という見え方にもなりそうだ。
『Lex Oiseaux』より。photo:Anton Pons Braley
『To Belong / Suwung』より。photo:Kuang Jlingkai
■世界中を旅した代表作が、満を持しての東京初演
2.の越境志向は言わずと知れたもので、いまや異ジャンルがひとつの舞台でコラボレーションする、というのは別段新しくはない。しかしここで言う「越境」は越える境界線の種類が、ちょっと新しいのだ。
フランス人アーティストのフランソワ・シェニョーとセシリア・ベンゴレアが描き出す『attered natives' Say Yes To Another Excess - TWERK ダンス・イン・クラブナイト』は時代とジェンダーを超えた表現に挑む。ロンドンで注目のDJ、Elijah & Skiliamの生DJに合わせて繰り広げられる多様なクラブダンスが、時代とカルチャーの境界線を外し新たな世界を創る。2012年にフランス・リヨンで初演されてすぐに世界中からオファーが来たという話題作だ。
山下残の『そこに書いてある』は、観客と表現者の境界に"本"を介在させることで新たな世界を創り出す。観客は100頁の本を渡され、それをめくりながら舞台を鑑賞する。頁をめくると、そこには舞台と客席をつなぐさまざまな言葉が記されていて、観客は目の前に起こっていることと本に書かれたメッセージとの間を行き来しながら思考を深めていく。この作品は2002年に伊丹で初演され、京都、ブリュッセル、イスタンブール、韓国などで上演されてきた。東京では今回が初めて。
今回のオープニング作品となる『赤い靴』は、小野寺修二の新作、世界初演だ。"水と油"時代からのパートナー・藤田桃子、マイムをペーストするパフォーマーのSoohie Breach、そして女優の片桐はいりが出演する。美術はチョークアートで高い人気を博しているNichoras Buffe。アーティストのスキルの中での"越境"と、国籍・ジャンルを超えた"越境"そのクロスオーバーがどんな世界を描き出すのか。
『そこに書いてある』より。photo:Gangdang Arts Center
■プロジェクトを通し、アーティスト同士をつなげていく試み
さて3.であるが、"個"がクローズアップされる時代ゆえの"集団の力"に注目したい。まとまりがいいという意味の集団力ではなく、個が1箇所に集まるからこそ、そこから四方八方にスパークする、火花のような集団が生まれる、という視点である。
今回はいくつかの"プロジェクト"を通して作品が発表される。
『Project Pinwheel』は"家族"というひとつのテーマに対して、いずれも家庭を持ちながらダンスを続けている3人が、ソロパフォーマンスに挑む。面白いのは、それぞれの作品を創る3人が、ひとつの稽古場を共有し、時に家族や子どもについて話し合いながら制作に臨むこと。この方法は、いままでにないと言っていい。
日本と海外アーティストに滞在制作とワーク・イン・プログレスも、今回の大きな柱のひとつ。
ルーマニアと日本による<イースタン・コレクション>では、両国のアーティストのみならず、ディレクターと評論家もワンセットとして互いの国に滞在し、ディスカッションやクリエイションをともにしたのだそうだ。
クロアチアと日本の<ドミノ・プロジェクト>では、クロアチアの音楽家とメディアアーティスト、日本の注目の若手・川村美紀子(トヨタ コレオグラフィーアワード2014で、「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」をダブル受賞)が、2013年2月より5回にわたり両国を行き来しながらのアーティスト・イン・レジデンスを行い今回、ワーク・イン・プログレスとして作品を発表する。
そして、伊藤郁女は自らがいろんな集団に飛び込んで新しい火種を集めてきたような、存在自体が特殊なダンサーだ。前回のダンストリエンナーレトーキョーではアラン・プラテルの作品に出演、ほかにもF・ドゥクフレ、プレルジョカージュ、シディ・ラルヒ・シェルカウイなど個性的な振付家の作品に参加している。そんな彼女が演出・振付・出演するのがスパイラルホールでの日本初演となる『ASOBI』だ。
まだまだ暑~い夏が続きますが、舞台芸術界では早くも"芸術の秋"が始まっています。
『ドミノ・プロジェクト』より。
■Dance New Air─ダンスの明日
会期:2014年9月12日(金)~10月5日(日)
会場:青山円形劇場、スパイラルホール、シアター・イメージフォーラム、青山ブックセンター本店ほか
※詳細は、www.dancenewair.jpまで。



